契約その83 何でわしがidol!?
「はいっ!ワンツー!ワンツー!そこでくるっとターンしてはいっ!決めポーズ!」
瀬楠家のレッスン室では、ルア(in萌絵)による紫音(inルア)のアイドル特訓が行われていた。
「よしっ!今から5分休憩ね。休めと言われた時にはしっかり休む事!これアイドルにとって大事な事だから」
ルア(in萌絵)は紫音(inルア)に開けたばかりのスポーツドリンクを渡した。
紫音(inルア)は、それをまるで砂漠のオアシスに来た旅人の様にガブ飲みする。
そんな紫音(inルア)に、ルア(in萌絵)が惜しそうにこう言う。
「あなた本当にアイドルに興味ない?まだレッスン初めて一時間でこの精度って、絶対に素質あると思うんだけど」
しかし、紫音(inルア)は、自分は肉体労働じゃなくて頭脳労働担当だと突っぱねた。
「ゼェゼェ……それに、今のわしの吸収の速さは、今の肉体スペックの高さもある。普段の肉体ならこうはいかないじゃろうな」
紫音(inルア)は、スポーツドリンクを飲み干しながら答えたさっき蓋を開けたばかりなのに、もうなくなってしまった。
「休憩終わり!じゃあ、次はこの振り付けを……」
休憩を終え、紫音(inルア)は、再び過酷なレッスンに挑むのだった。
そして一通りのレッスンを終え、ガワは整えた紫音(inルア)は、乗り気ではないがアイドルの仕事へと向かっていくのだった。
紫音(inルア)が家を出た直後、萌絵(in紫音)がリビングに戻ってきたルア(in萌絵)に話しかけた。
「あの……拙者も拙者で予定がありまして……非常に申し上げにくいのですが……」
「何?私ができる事ならやるけど」
それを聞いた萌絵(in紫音)はよかったと胸を撫で下ろしながら言った。
「それがですね、今日アイドル『ルア』ファンによる非公式オフ会がありまして……それに参加してほしいのでござる」
それを聞いたルア(in萌絵)は驚いた。
「いやいやいや!私本人!そういうイベントに私が参加するのって何か違くない?」
ルア(in萌絵)が言う事はもっともだが、萌絵(in紫音)は彼女に拝み倒しながら頼む。
「そういうのは重々承知なのですが……拙者はこのオフ会の幹事を務めてまして……休むわけにはいかないのです」
そこまで言うなら……とルア(in萌絵)はその頼みを引き受ける事にするのだった。
そうした中、七海(inメイ)はある事を思い出した。
「そうだ!今日陸上部の練習があったんだった!」
休むわけにはいかないので、藤香(in七海)に行って貰う事にした。
「僕もどっちかというと頭脳派なんだよな……」
藤香(in七海)はぼやくが、仕方がないと思い腰を上げるのであった。
その様子を見ていたどれみ(inユニ)も、何かを思い出した様である。
「そういえば!会社に休みの連絡を入れなければ!」
どれみ(inユニ)は、モミ(inどれみ)に頼んで休みの連絡をして貰う。
以前熱で倒れて以降、どうやら休む時は休むという事を覚えた様である。
ユニ(inアゲハ)は、"換"を何とか紫音抜きでも修理できないかを事前に紫音(inルア)に聞いていた。
「じゃあ修理手順の説明書を残しておくから、それに沿って直しておいてほしい」
説明書に沿って、ユニ(inアゲハ)が紫音の部屋に行くと、そこには、巨大なカエルの置物があった。
「まさかこれが"換"か?名前そのままだな」
ユニ(inアゲハ)は、諸事情で入れ替わっていないルーシーとミズキを呼び出していた。
ユニとアゲハでは体型がまるで違うので、いつもの感覚で体を動かそうとすると、精神と肉体の感覚が乖離して転んでしまう。
精密機械の修理においては致命的だ。なので入れ替わっていない二人を、今回招集したのである。
「紫音が残した説明書の通りに、よろしく頼むよ」
ユニ(inアゲハ)は、両手を合わせてお願いした。
そんなお願いをされては、二人はやるしかない。
三人は、慣れない精密機械の修理に向かうのだった。
一方、アイドルをやるハメになった紫音(inルア)はというと、スタジオに着くなり、いきなり歌番組の収録現場に連れてこられた。
レッスン時には歌えたものの、やはり本番は違う。紫音(inルア)は、ガチガチに緊張しながらも何とかやり遂げた。
しかし、その様子はグループメンバーにとっては不自然に見えたらしい。
普段のルアは緊張する事を知らない。
どんな仕事でも笑顔でやり遂げる気概を持つ、まさに天性のアイドルなのである。
「ルア、何か今日様子が変だけどどうしたの?」
"J's"内でルアに次ぐ人気を誇る「おーしゃん」がその違和感を指摘した。
それを聞いた紫音(inルア)はビクっと驚く。
「いや、何でもない。何でもないぞ。わしはわしじゃ」
紫音(inルア)は慌てて否定した。
「わし……?」
「おーしゃん」はまだ違和感を拭いきれずにいるのだった。
次は雑誌撮影である。紫音(inルア)は水着に着替えさせられ、様々なポーズを取る様に言われた。
10月も後半に差し掛かるこの時期に、水着は普通に寒かった。
次のバラエティ番組の収録も、ニコニコするだけで場を乗り切った。
VTRに対して適当にリアクションをするだけで、カメラは抜いてくれるのである。
こうして何とか仕事を乗り切った紫音(inルア)。
これをほぼ毎日こなすルアのフィジカルに、ただ脱帽するしかなかった。
「元に戻ったら疲労を回復させる発明品を作ってやろう」
紫音(inルア)はそう心に決めたのだった。
そして七海として総合陸上部の練習に来た藤香(in七海)。
「じゃ……じゃあ準備運動から……」
藤香は、七海として部員達に指示を出す。
部員達は藤香(in七海)の指示を素直に聞き、各々準備運動を始めるのだった。
その様子を見て、藤香(in七海)は驚く。
「すごいな。こんなに慕われているなんて」
それも当然である。陸上部をここまで盛り立ててくれた七海は、部員達の憧れの的となっていたのだ。
「それで、この後どうすればいいんだ?」
「応援」として来てくれた七海(inメイ)に聞く藤香(in七海)。
「それぞれの部員に強化プログラムがあって……今日はそれをやる。キミはそのままここにいればいい」
メガネをかけた七海(inメイ)が言った。
髪型もいつものメイのそれとは違いポニーテールにしており、メイとは違って幾分か賢く見える。
「そうか……」
藤香(in七海)はそう呟くが、内心では原稿の締め切りが気になってしょうがないのである。
しかし、そうは言っても仕方がない。藤香(in七海)は、前向きに考える事にした。
「まあ……またとない機会だ。後学の為に、この状況を利用させて貰うよ」
藤香(in七海)はそう呟くのであった。
時間は戻り、萌絵としてオフ会に参加したルア。
ただのファンミーティングだと思っていたが、待っていたのは、イメージとはかけ離れた集会であった。
そこで、ルア(in萌絵)は、ある意外な再会をすることになるのだった。
悪魔との契約条項 第八十三条
受肉した悪魔は、厳密的には人間とは違う生物である。
読んで下さりありがとうございます。
いいね、感想などをよろしくお願い致します。




