契約その82 Every Body シャッフルしよう肢体!
事件は、突然起こった。
その日も早朝に起きたユニは、自分の体が不調を起こしていた事に気づく。
「こないだ頭打って入院した影響か?」
最初はそう思っていたユニだったが、次第にそれが理由ではない事に気づく。
何せ自分の体であって、自分の体ではないからだ。
やけにかわいくデコレーションされた部屋。そしておしゃれな部屋着。自分の今の手足や、何より部屋の置き鏡で自分の今の顔を見て、ユニは自分の身に起きた異常事態を理解した。
「まさかおれ……アゲハになってる〜!?」
この事態に、ユニ(inアゲハ)は慌ててリビングへ駆けていく。
体が違う為か、いつもの感覚で走ると転びそうになった。
それでも何とかリビングへ辿りついたユニ(inアゲハ)は、すでにリビングにいたルアに状況を説明した。
「大変なんだ!朝起きたらいきなりアゲハの体になってて……」
自分で話しながら違和感がすごい。声までアゲハのものになっているからだ。
「むう……参ったのう……。まさか"範囲指定式人格交換装置"、通称"換"が暴発してしまうとは……」
ダイニングのイスに座りながら、なぜかそのルアが唸っていた。
「えっと……ルア?一体何を唸ってんだ?」
ユニ(inアゲハ)は恐る恐る聞いた。さっきの独り言の内容から推測して、ある最悪の状況を考えながら。
「ん……?ルアじゃと?一体何を言っとるんじゃ。わしは紫音じゃよ」
「な……紫音!?」
どうやら紫音とルアも体が入れ替わってしまったらしい。それを理解したユニ(inアゲハ)は絶句した。
「まあ、この体じゃから間違えるのも無理はないと思うが……。ところで、キミは一体誰じゃ」
「ユニだよ!朝起きたらアゲハの体になってたんだ!」
ユニ(inアゲハ)は少し怒りながら言った。
さっき階段で転びそうになり、アゲハの体を傷つけそうになったからだ。
「それで"範囲指定式人格交換装置"って何だ!?まさかその機械が原因でおれ達の人格が……」
「その察しのよさ、中身はユニで間違いなさそうじゃ。その通り、どうやら"換"の影響でこの家にいる全ての人間の人格が入れ替わってしまった様じゃ」
紫音(inルア)が言う。
「じゃあ、その機械をまた作動させれば……」
慌ててユニ(inアゲハ)は紫音の部屋へ行こうとする。
「ところどころが壊れてて、すぐには無理じゃ。それが可能ならとうにやっとる」
紫音(inルア)はため息をつきながら言った。
「そんな……」
ならば今すぐその機械を直さなくちゃとユニ(inアゲハ)が提案しようとした、その時である。
「一体何の騒ぎー?体も何か変だし、部屋も変わってるし、一体……って!ウチが目の前にいるー!?」
起き抜けから大騒ぎしている少女。見た目は藤香だが、彼女はもしかして……。
まさかと思ったユニ(inアゲハ)は、彼女の正体を聞いてみた。
「もしかして、キミがアゲハか?」
「え?そうだけど?」
アゲハ(in藤香)はキョトンとした顔で答えた。
「やっぱり!」
ユニ(inアゲハ)達は、アゲハ(in藤香)に事の次第を伝える。
「え?じゃあウチ、藤香ちゃんになったって事?すごーい!」
確かにすごくはあるが、事態は深刻である。
「コレ、まさかこの家にいる全員が入れ替わってるって事じゃ……」
ユニ(inアゲハ)は危惧した。
そして、まさにその通りの事が起こってしまっていたのだった。
「この体で、配信どうすればいいんだ……」
メイ(inアキ)が悩む。
「私がするって事?部活もあるのに!」
七海(inメイ)が怒りながら言う。
「いいなこれ!『変身』って感じがして!」
アキ(in由理)はポーズを取りつつ喜んでいた。
「そんな事言ってる場合?」
由理(inモミ)が怒る。
「おおー。これがセルフ乳揉みですか……興味深い……」
モミ(inどれみ)が自分の乳を揉みながら言う。
「あまりそういうのはやめてくださいませんか?」
どれみ(inユニ)がそれを制止した。
「原稿どうしよう……いやこの体だから、僕が七海の部活に行かなくちゃならないのか!?」
藤香(in七海)が慟哭する。
「うわー!拙者の肉体にルアさんが!うわー!申し訳ない!」
萌絵(in紫音)が狼狽する。
「わー!ちょっと待って!頼むからいっぺんに喋らないでくれ。とりあえず誰が誰なのか整理しよう」
ユニ(inアゲハ)は、適当な紙を取り出すと、点呼を取りつつ各々の状況を確認しつつ、その紙に書き出した。
その結果、以下の状況で人格と肉体が入れ替わっている事が判明した。
人格→肉体
ユニ→アゲハ
アゲハ→藤香
藤香→七海
七海→メイ
メイ→アキ
アキ→由理
由理→モミ
モミ→どれみ
どれみ→ユニ
萌絵→紫音
紫音→ルア
ルア→萌絵
「何これややこしいな!」
ルーシーが叫ぶ。
そういえば、彼女だけが入れ替わりを免れている。
「どうしてなんだ?」
ユニ(inアゲハ)は、紫音(inルア)に聞いた。
「おそらく、対象が『この家の中にいる人間』になっていたからじゃろうな。悪魔であるルーシーは含まれなかったのじゃろう」
紫音(inルア)が答えた。
とにかく、今は全員の身の振り方を考えないといけない。
ユニ(inアゲハ)は、仕事など休めるものは休む事、また休めない場合は肉体の持ち主の指示を仰ぐ事を確認した。
「みんな、ごめんなさい」
紫音(inルア)が謝る。確かに、今回の騒動の発端は紫音にあると言っても過言ではない。
「みんなにまた迷惑かけて……。早く直すから、それまで待っていてほしい」
紫音(inルア)は、深々と頭を下げた。
「まあ、お互いを知るいい機会になりそうだし。そんなに気にする事じゃないよ」
ユニ(inアゲハ)がフォローする。
「じゃあ早速修理に取り掛からんと……。この体じゃ何かと不便じゃが、わしがやらんと……」
「ちょっと待って!」
自分の部屋(無論紫音のものである)に戻ろうとした紫音(inルア)の体を、ルア(in萌絵)が引っ張って止める。
「何でじゃ!わしは早く修理に取り掛からんと!」
「その前に私の仕事があるんだけど!」
その言葉に、紫音(inルア)はハッとする。
「成程アイドルか……。仕事って……えっとどれぐらいあるんじゃ?」
恐る恐る、紫音(inルア)が聞く。
「そうね……今から三時間後に家を出て、それから午後10時ぐらいまであると思う」
「午後10時!?」
紫音(inルア)は驚く。そこまで仕事をしていたら、修理する時間がなくなってしまう。
だが、紫音(inルア)は前向きだった。
「まあいい!身から出たサビじゃ!三時間なら部品の準備ぐらいはできるじゃろう!」
改めて自分の部屋(当たり前だが紫音の部屋である)に戻ろうとした紫音(inルア)の体を、ルア(in萌絵)がまた引っ張って止めて言う。
「いや!あなたには私の個人レッスンを受けて貰います!私の体で雑なパフォーマンスはさせません!みんなにも了承は取りました!早速レッスン室へ行きましょう!」
プロモードになるルア(in萌絵)。心なしかメラメラ目が燃えている様である。
「え?そんな!嫌じゃあああ!」
嫌がり泣き叫ぶ紫音(inルア)を、今度はルア(in萌絵)がレッスン室へ引っ張っていくのだった。
「大変そうだな……」
ユニ(inアゲハ)が呟いた。
それは、その場にいる全員が思った事である。
しかし、本当に大変なのは、そこからであった。
悪魔との契約条項 第八十二条
人間の体を得たとしても、人間が対象の力に、悪魔は引っかからない可能性がある。
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