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契約その80 最悪のunlucky!

 ミズキの事を見守りたいと考えたユニは、ミズキについていく事にした。


 すでに遠くまで行ってしまっていたミズキを、ユニは慌てて追いかけながら呼びかけた。


「ミズキー!そういえばキミさ、ここに越してきたばかりだろ?色々街を案内するよ」


 それを聞いたミズキの歩みが止まる。


「本当に?ありがとう。色々案内してよ」


 満面の笑みで答えるミズキ。"ラックチェッカー"を貰ったのが余程嬉しかった様だ。


 ユニはミズキを連れて徐氏堂市を案内する事にした。


 市役所や飲食店街、駅前など一通り案内した後で、ユニはいつも利用しているスーパー、「スーパーマーケット『ギンガ』」を訪れる。


「ここが普段おれ達が利用しているスーパーだ。少し小さいけど、不自由はしないと思う」


 ユニは店頭で配っていたクーポン券つきのチラシを一枚貰うと、制服のポケットに入れた。


 一通り町の紹介はし終わった。今の所、彼女に幸運も不運も起こっていない様に思える。


「あ、そうだ」


 不意にミズキが何かを思い出したかの様に言う。


「私、銀行に行く用事があったんだった」


「じゃあおれもついていくよ」


 別について行っても面白い事なんてないと思うけどとミズキは言ったが、それでもいいとユニが言ったので、とりあえず連れて行く事にした。


 最寄りの銀行である「新東京銀行」は、今年で創立百三十周年を迎えている。この世界における日本一のメガバンクである。


「税金とか家賃とか、そういうのを一括で払える様にするの」


 銀行に向かいながら、ミズキは説明した。


 創立百三十周年なだけあって、今銀行ではフェアをやっている様だ。


 ユニは、何に使うのか不明な缶バッチを渡された。無駄に鋼でできていて丈夫らしい。


 ユニはそれを制服のスカートのポケットに入れようとしたが、さっきのスーパーのチラシが入っている事に気づいた。


 缶バッチをねじ込めば、クーポンまでグシャグシャになってしまうだろう。


 そもそもスカートのポケットに入れると不恰好になってしまう。


 ユニは、それならと缶バッチを制服のブレザーにある右胸のポケットに入れたのだった。


 平日という事もあってか、銀行内はあまり混んではいなかった。


 ユニ達二人を除いては、スーツ姿の男性が数人、ヒマしてそうな男性も同じぐらい、それと夫婦が一組いるだけである。


 この時いる人々がこの少なさだったのは、後にして思えばまさに「不幸中の幸い」といえるものだったのかも知れない。


 その時は、突然訪れた。


「もう手続きは終わったのか」


 ユニは帰ってきたミズキに言う。


「うん。これで完璧」


「よし、じゃあ帰るか。どうする?泊まってく?」


 ユニが聞くが、ミズキは神社の管理があるからと断った。


「そうか。ならしょうがないな」


 ユニは少し残念そうに答えた。


 用も済んだなら帰ろうとユニが席を立った、まさにその瞬間であった。


「ドォン!」


 いきなり五人程の男の集団が銀行内にやって来たかと思うと、銀行の天井に向けて銃を発砲した。


「きゃああああ!」


 女性の叫び声。おそらく主婦か行員の誰かだろう。


「おうおう静かにしろよ。死にたくなけりゃあな?」


 リーダー格らしき男が言う。


 全員目出し帽をしており、顔はわからない。


「今からお前達は人質だ。死にたくなけりゃ、この袋に金をあるだけ詰めろ」


 男達は大きな袋を二つ示した。ユニがすっぽり入れるぐらいの大きな袋である。


「それと携帯だな。携帯はこの袋に入れろ。もし逆らえば、どうなるかわかるよな?」


 ユニ達は従う他なかった。


「さて、このまま金を奪った後逃げてもいいが、それじゃつまらんよな。だからしばらくここにいさせて貰う。一度やりたかったんだ。こうやって他人を力で従わせるのを」


 何てハタ迷惑な奴らだ。ユニは憤る。


 極論、コイツらが金を奪ってさっさと帰るなら、ここにいる人達の身に危険が及ぶ事はない。


 日本における銀行強盗の成功率はほとんど0%、逃げてもすぐに捕まるだけだろう。だが居座られるとそうもいかなくなる。


「全員両手を上げて床に座れ。妙な気を起こすなよ?」


 人質達は、言われるがままにされる。


 緊急通報ボタンは押されただろうか。ユニは思う。


 銀行には「緊急通報ボタン」というものがある。そのボタンを押せば、直接警察に連絡が行く仕組みである。


 しかし、そう言っていても仕方がない。ユニは命令に従いながらも、男達の特徴を確認する。


 目出し帽をしている事と黒っぽい軍用服の様なものを着ているのは全員共通である。


 そしてそれぞれがピストルで武装している。


 しかし、質感を見るにリーダー格の男以外の奴の武器はプラスチックでできたモデルガン、当たっても死にはしないだろう。


 だが、リーダー格の男のそれは本物だ。当たり所が悪ければ死ぬだろう。


 つまり下手に行動を起こさず、警察に任せておくのが正解である。仮に誰かに危害を加えるなら戦うが。


 だがユニのこの考えは、脆くも崩れ去った。


 男達は、ユニ達の存在に気づく。


「ヘェ……かわいいのがいるじゃねェか。じゃあ、二人には服を脱いで貰おうかな」


 リーダー格の男は、舌なめずりをして下劣な目をしながら言った。


「ちょっと待てよ!」


 ユニは両手を上げたままの状態で反論する。ミズキまで危害を加えるのなら黙ってはいられない。作戦変更である。


「あァ?」


 リーダー格の男の銃口がユニの方を向く。


 下手に刺激してはまずい。ユニは言葉を選びながら言った。


「えっと……私だけで勘弁してくれないかな。その代わり、脱ぐ()()()()()()事もするからさ」


 一瞬銀行内がざわつく。


 その提案に、男は面白いと言った。


「わかった。じゃあ早速……」


 部下の男達が襲いかかるその瞬間、ユニは瞬く間に部下の男達を倒してしまった。


 男達が吹き飛ばされた事で、チラシなどが床に散乱する。


「何!?この(アマ)ァ!」


 怒る男に、ユニは言い放つ。


「言っただろ?脱ぐ()()()()()()って」


 続いて、ユニは自分の右胸を指差しながらこう言った。


「今度は()()に当ててみろよ」


「くそ……」


 キレた男は、ついにユニに向けて発砲した。


「ドォン!」


 先程も聞いた銃声が、今度は天井ではなく、ユニの右胸を捉えた。


「ユニー!!」


 ミズキの叫び声が聞こえる。


 ユニの体は、衝撃で宙に浮いた。


「ぬあァ!」


 しかしユニは、どういうわけか無理やり地面に足をつけると、衝撃に引きずられながらも膝をつきつつ止まった。


「何でだ!何で銃が効かねェ!」


 男は狼狽する。


「効かないわけじゃねェ……。たぶん今この状況で、『新東京銀行』の創立百三十周年(アニバーサリー)に世界一感謝してるのはおれだろうな……」


 ユニが右ポケットから出したのは先程貰った缶バッチである。着弾の衝撃でひしゃげてはいるが、見事に銃弾を受け止めていた。


「生憎だったな……」


 ユニはそう言うと、男の方へ向かって行った。


 大地を踏み締め、男の顔面に右ストレートを叩き込もうとした、まさにその時である。


 ユニは、先程自分で散らかしたチラシに足を取られ滑る。


「え?」


 そう思ったのも束の間、仰向けに転んだユニはそのまま後頭部を強打して気絶してしまった。


「ユニー!」


 最悪の状況に、ミズキの叫び声が周囲にこだまするのだった。


 悪魔との契約条項 第八十条

契約者は、多難な人生を送る事になる。

読んで下さりありがとうございます。

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