契約その79 私はlucky?unlucky?一体どっち?
さすがにその姿で授業は受けられないと先生に言われたミズキは、制服をクリーニングに出し、さらに近所の銭湯に行って体を洗い流した。
結局、授業に参加できたのは午後からであった。
放課後、ミズキは自分の机に突っ伏す形でうなだれていた。
その落ち込みようを見かねたユニは、ミズキを元気づけようとミズキの机までやって来た。
「えっと……ミズキ?」
「……」
返事はなかった。
「その……元気出せよ」
また返事がない。
このままではらちが明かないと考えたユニは、作戦を変える事にした。
「驚いちゃったんだろうな。今まで自分が不運になった事なんてなかったから」
「……」
未だ返事はない。
ユニは、ミズキの席の前にある机の上(空席)に座って話を続ける。
「おれはさ、『幸運』も『不運』も全部心の持ち様だと思ってる。側から見れば幸運に見える人も、満たされない思いを心に秘めてる事があるし、逆に不幸な身の上でも自分は運がいいって胸を張って生きている人だっている。結局はそういうものだとおれは思うな」
「気の持ちよう……?」
ミズキは机に突っ伏した状態で聞く。
「ああそうさ」
さらにユニは、机の上から降りて言った。
「でもそれは、あくまでおれ自身の考え。どうしても納得できない部分もあるだろう。だからさ、おれの家に来てよ。この状況を打破できるいい奴を紹介するよ」
「いい奴……?」
ミズキは聞き返した。
その「いい奴」を紹介する為に、ユニはミズキを連れて自分の家に帰ってきた。
「ただいま」
ユニが言うと、リビングの方から「おかえり!」という声が響く。
リビングでは、モミと萌絵がおっぱい談義に花を咲かせていた。
「でも貧乳もまた味わいがあっていいと思うでござるよ?」
「ん……それはわかるのです。重要なのは『恥じらい』……そこには貧も富も関係ないのです」
それはわかると、二人はガッシリと腕を組む。どうやら仲良くなれそうだ。
ミズキがやって来た事を知った萌絵は、今日は大丈夫だったか聞いた。
萌絵にとってはくじ引きの恩人になる為か、特に気にかけている様だ。
ミズキは、それはまだわからないと答えた。
萌絵は頑張ってくださいと優しく声をかけるのだった。
さて、二人が訪れたのは、紫音の研究室である。
ユニはブザーを押して紫音を呼ぶ。
「……おれだ。頼んだものできてる?」
するとすぐにドアが開き、中から紫音が出てきた。
「勿論じゃよ」
紫音がグッとサムズアップして答えて見せた。
「これじゃよ。"ラックチェッカー"」
紫音が渡したのは、一般的な腕時計の形をしたデバイスである。
「発明品……?」
ミズキが聞く。
「ああ。紫音は発明家なんだ。多くの人達を幸せにしている」
ユニが紹介する。
紫音はよろしくなのじゃと挨拶した後、使用方法について説明する。
「これはな、ものすごく簡単に言うとつけている人の現在の『運』を測る事ができるものじゃ」
「『運』を測る……?」
そんな事ができるのか。ミズキは訝しむ。
「画面を見てみい。今画面に『吉』と出ているはずじゃ」
確かに、腕時計でいう所の文字盤の部分に大きく「吉」と表示されている。
「風水などの基準から、その時に応じた『大吉』、『中吉』、『吉』、『凶』、『大凶』の五段階で現在の運を測れる。今は中間の『吉』じゃから、可もなく不可もなくといった感じじゃな」
確かにこれなら、自分のその時の運気をがわかるだろう。
「本当は幸運を引き寄せる発明品にしたかったんじゃが……さすがに難しかったな」
紫音は肩を落とした。
そんな紫音にユニが聞く。
「作って貰っておいて悪いけど、意外と風水とか信じるタイプなんだな。科学的じゃないだろ」
それを聞いた紫音は、さっきまで肩を落としていたのがまるでウソの様にこう語り出した。
「『科学的じゃない』『信じられない』『あり得ない』……それらは全て思考を停止させる悪魔の言葉じゃ。極端な話、千年前に『空を飛ぶ』『月へ行く』なんて言われても『あり得ない』と一笑に付されてたじゃろうな。それが今がどうじゃ、金さえあれば誰でも空を飛べるし宇宙に行ける。科学とは『あり得ない』の『あり得る』への変換の積み重ねじゃよ。それに、実際に『運』や『風水』を科学的に研究している学者もおるしな」
紫音はそう言うと、ニコッと笑いかけた。
とにかく、これでミズキの運が視覚化される様になった。
「ありがとう!これで何とかなる気がする!」
ミズキはお礼を言って去って行った。
その後ろ姿を見ながら、ユニは紫音にこそっと言う。
「あれ、ダミーだろ」
紫音はため息をつきつつ答える。
「……よくわかったのう。さすがに『運』を測るのはいくらわしでも今は不可能じゃ。だからあれは『吉』以下の数値は示さない様になっとる。『運』なんて結局は心の持ちようだと考えとるが……果たして彼女は一体どうなるのか……」
紫音はため息をつきながら言った。
「ありがとうな。おれの要望に答えてくれて」
あの発明品をダミーにしたのは、ユニの頼みである。
運に頼らない生き方を、彼女に与えたいと思ったのだ。
しかし……。
「確かに君の言う通り、彼女の事は心配だ。おれ見てくるよ」
ユニはそう言い残すと、ミズキを追って走り去って行くのだった。
悪魔との契約条項 第七十九条
「運」は、心の持ち様で決まる。
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