契約その77 lucky girl、現る!
秋も深まる十月中旬頃、ある町を少女が歩いていた。
「ん?あれって……」
少女は路上で光るものを見つけた。
拾ってみると、それは十円玉である。
「あっラッキー」
後で交番に届けよう。そう考えて少女は自分のズボンのポケットに入れた。
その少女、寿瑞稀は昔から運がよかった。
例えば、駄菓子屋で買ったガムは必ず当たりを引いた。
近所の商店街の福引は、毎回海外旅行を当てた。
宝くじの一等を二回当てた時はさすがにドン引きしたが、とにかくあらゆる面において自分に有利に事が進むのがミズキの人生である。
そんなミズキは、10月中旬というかなり中途半端な時期に転校する事になった。
ある神社の巫女に一人で就任したからである。
寿家は、先祖代々神主の家系である。自分の運がいいのは、そのご加護だとミズキは解釈している。
なので初めての一人暮らしも、緊張はするが別段苦痛ではなかったのである。
それから一週間後。ミズキは就任する神社のある徐氏堂市を訪れた。
神社の名前は「把羅神社」というらしい。
何と飛鳥時代ぐらいの創建(奈良時代説もあり)らしく、訪れてみると確かに歴史的な「何か」を感じる事ができた。
もっとも現在の建物は、戦災で焼けた後1970年代に再建されたものらしいが。
だが70年代でももう50年以上前、ミズキにとってはあまり変わらなかった。
その神社の敷地内にある一戸建ての建物が、今日からミズキが住む家になる。
玄関は引き戸になっていて、開けると少しカビ臭い臭いがした。どうやら前に住んでいた人の家がそのまま当てがわられたらしい。
ただし、古臭い家の外見の割には最新家電が用意されている。居間のテレビは薄型だし、冷蔵庫にはAIが搭載されていて、洗濯機もドラム式。
さらに床ではロボット掃除機が張っている。畳とロボット掃除機のコラボレーションは、些かシュールである。
ミズキは荷物を下ろすと、長い黒髪を紐で縛り、巫女服に着替える。
「さて、お掃除だ!」
ミズキは敷地内の倉庫から箒を取り出すと、神社の境内を掃除する事にした。
境内に植えられている木から枯れ葉がどんどん舞い落ちる。まさにキリがない程である。
それでも必死に履いて、集めた葉っぱをビニール袋に収めていく。
そうした事を何回か試していると、ある二人の少女がやってきた。
「本当にすんのか?神頼み」
茶髪のロングヘアが特徴的な、ユニである。
「加護得られるなら何でもするでござるよ。特に今回の奴は……」
三つ編みお下げにメガネの萌絵も一緒だ。
「わざわざコンビニの一番くじを引く為にそこまでするのか……」
「当たり前です!オタクを極めるには『運』も必要ですから!」
萌絵は財布から五円玉を取り出しながら言う。財布にはたくさんストラップをつけていて使いづらそうだ。
「どうせなら神社の礼法に則って参拝するか。まず鳥居をくぐる前に一礼。神様の通り道である真ん中を避けて通って、お賽銭を入れたら二礼二拍手一礼だな」
萌絵は言われた通りに参拝を完了させた。
「どうせなら礼儀正しくした方がお願いも聞かれやすくなるだろうしな」
ユニはそう言うと、帰ろうかと神社に背を向け、萌絵と手を繋ぎながら帰っていくのだった。
その帰り道、ユニと萌絵はミズキと会うと、お疲れ様ですという意味も込めて軽く会釈するのだった。
その一部始終をしっかり見ていたミズキは、ユニに興味を抱いた。
神のご利益もあってか、見事にお目当てのフィギュアを当たる事ができた萌絵であった。
翌日。ユニのクラスにルーシー以来となる転入生が来る事が判明した。
ユニ達のクラスでは、朝からその話で持ちきりだったわけだが、ホームルームの時間が近づくにつれてそれが事実であるという実感が、みんなの中で湧いてきた。
先生が教室に入ってきて、ざわついている教室を静かにさせる。
「みんなもう知っているとは思いますが、このクラスに転校生が来ます」
先生のその言葉を聞き、教室内のテンションはマックスになる。
「では、入って来てください」
先生が教卓から指示を出すと、教室のドアがゆっくりと開き、少女が足音を立てずに教室へ入ってきた。
転入生の正体はミズキである。
「北の方の某県から転校してきた『寿瑞稀』です。把羅神社で神主兼巫女をやってます。あと私は、ものすごく運がいいです」
「運?」
いきなり何を言ってんだこの人という様な感じで、クラス中が一斉に首を傾げる。
「じゃあこれを……」
ミズキがどこからか取り出したのは何の変哲もないただの箱である。小型のダンボール箱ぐらいの大きさだ。
ミズキは、その箱の中身をみんなに見せる。
どうやら中には三角に折られた小さな紙がいくつも入っている様である。
つまりくじ引きで運試しをするという事なのだ。
「そしてここに赤ペンで◯が書かれた紙が一枚あります。先生、これを箱の中に入れて、よく混ぜてくださいませんか?」
先生は無作為にくじを入れると、そのまま腕でガサガサと混ぜ始めた。それを見ない様に、ミズキは教卓に伏せる形で目を逸らす。
「それと、くじはあなたが選んでください。一枚ですよ」
ミズキに指名された男子生徒は、言われた通りに箱の中から一枚、くじを選ぶと、ミズキに渡す。
「……終わりましたね。では……」
ミズキは、選ばれたくじを開封する。
開封されたくじを、ミズキはクラス全員に見せるのだった。見せられたくじには赤ペンで◯が書かれている。当たりだ。
おおーっと盛り上がる教室。
ユニは隣に座るルーシーに、何か変な所はないか聞いてみた。
「ないな。『悪魔の力』を使った形跡もない。つまり正真正銘、めちゃくちゃ運がいい人って事だ」
ルーシーは即答した。
「それじゃあ皆さん、これからよろしくお願いします!」
つかみに成功したミズキは、にっこりと微笑むのだった。
悪魔との契約条項 第七十七条
この世に、神は存在する。
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