契約その75 オタクだってheroineになりたい!
―――自分はヒロインにはなれない―――
萌絵はいつからかそう思う様になっていた。
子供の頃は大きなお城とお姫様に憧れたものだが、次第に理想と現実のギャップに絶望し、心のどこかで諦めがついていた。
だからこそ、自分の理想のヒロインを「同人誌」という形で投影していたのである。
そんな中、萌絵は恋をした。自分と同じ女の子。同性に恋をするなんておかしいと自分でも思う。
恋自体はした事がある。漫画やアニメの男性キャラに。
だがこの恋は、それとはかなり違うものだった。彼女の姿を目で追ってしまう。彼女の声を聞けば心臓が高鳴る。
これがつまり、「現実に恋をする」という事なのだろう。この世のどこにも基準はないが、萌絵はそう確信していた。
だからといって告白する様な事はしない。この恋心は一生心に秘めておくつもりなのだ。
実際、普通なら誰にもその恋心を気づかれる事なく一生を終える事になるだろう。
しかし相手は、悪魔との契約の影響もあるとはいえ、数多くの女の子達をホレさせてきた瀬楠由仁である。
彼女の恋心には、とうに気づいていた。
ユニは、昼食の時間にその事をルーシーに相談する事にした。
「成程なァ……。そういうパターンもあんだな」
ルーシーはお弁当として持ってきたタコ飯を頬張りながら言う。
「ああ。今までの子達は割とあっちからグイグイ来てくれる女の子が多かったからよかったけど、今回はな……」
あっちの方から来てくれるまで待った方がいいかな?とユニは聞いた。
「ダメだな。そういう奥手なタイプはたぶん一生待っても来ないぞ。お前は人に気を使うタイプだから、そういうのはだいたい相手の自主性に任せる事が多いけど、今回の場合本当に何とかしてやりたいなら、こっちから行く事も考えなきゃ。時には強引さも必要だよ。あくまでおれ個人の意見だけどな」
成程、ダテに千年生きてないな。ユニは感心した。
「わかった。ありがとう。お礼として後でタコ焼き奢るよ。キミの好物の」
ユニは昼食のチョコクリームパンを一気に食べ切ると、席を外した。
萌絵の事を観察する中、彼女は昼食の時間は必ず席を外している事を、ユニは確認していた。
問題は彼女はどこにいるのかだが、一つ興味深い噂があった。
それは、昼食の時間になると必ず鍵が閉まる謎の女子トイレである。
その正体が何なのか、ユニには察しがついていたので、早速女子トイレに向かった。
見た目が女子なので、ユニが女子トイレに入る事は不自然ではない。しかしユニ本人の気持ちとして、今でも女子トイレに入る事に抵抗というか、何となく悪い気持ちがしていた。
なので普段は学校の女子トイレを使ってないのだが、今は状況が状況である。
ユニは意を決して女子トイレに入った。
ユニ達のクラスに程近い女子トイレの入り口の、その一番奥の突き当たりにある女子トイレ。
そこがいつも閉まっているという噂のトイレである。
ユニはトイレの前に立ち、二回ノックする。
返事がない。
「いや……」
ユニは気にせず話をする事にした。
「返事はしなくてもいい。ただ、今日の放課後、午後四時頃に学校の中庭に来てほしい。そこで話がしたい。気が向いたらでいいから」
相変わらず返事がない。
「午後六時、強制下校時間ギリギリまで待ってる」
ユニはそう言い残すと、女子トイレを後にした。
放課後。ユニは中庭のベンチに座っていた。
ここは以前、ユニが睡眠薬入りコーラを飲まされて、ある男に拉致された場所である。
ユニにとって因縁深い場所ではあるのだが、ユニはあまりそういうのを気にするタチではない。
了解したとはいえ、彼女がここに来るという保証はどこにもない。時刻はすでに五時半を差していた。
「時には強引さも必要だ」
ユニはルーシーが語っていた言葉を、心の中で暗唱する。
「強引さか……」
ユニはベンチに「教室に行っている」という書き置きを残し、自分の教室へ向かっていった。
教室には、案の定萌絵がいた。
ユニはそれを教室の窓から確認すると、教室のドアをゆっくりと開ける。
「萌絵」
萌絵はユニの存在に気づくと、ビクッと驚く。
「ユニさん!?ど……どうしてここに?」
「思えば、時間を使わせる立場なのにわざわざ中庭まで来させるのは忍びないと思ってな」
「そんな……」
萌絵は、ユニの約束には乗らずに帰るつもりだった。
待たせているのに勝手に帰るのも悪いと思っていたが、どういう顔をして会えばいいのかわからなかったからである。
だがこうして、ユニが待たずに直接来たという事は、どんな顔でもいいからユニと向き合わなければならない。
「あの……」
「あのさ!」
萌絵の声をかき消す様に、大きな声でユニが話しかけた。
ユニはまっすぐ萌絵の方を見て言う。
「おれと……付き合って欲しいんだ」
「え……?」
ユニのまさかの行動に、萌絵は一瞬何の事だかわからなかった。
「え……いやその……」
「おれは、ずっと心に決めている事がある。それは『自分にホレた女の子を全員幸せにする事』だ。キミも幸せにしたい!」
ユニのまっすぐな目。この人はウソをついていない。
「イエスかノーか、返事はどっちだ?」
萌絵はガクガクと震えながらも、ユニの方を見て、こう答える。
「喜んで……!」
それを聞いた瞬間、ユニの顔が綻んだ。
「はあはあ……そうか!それは本当に……よかった……」
ユニはその場にしゃがみ込んだ。
そんなユニに、萌絵は大きな声で話しかける。
「あ!あの!拙者もあなたの事がずっと好きで……、おかしいですよね、女の子同士でなんて……そんな漫画じゃないんだから」
「変じゃないさ。現におれには現時点で十一人……いや一人増えて十二人の彼女がいるからさ」
ユニは立ち上がりながら言う。
やっぱり噂は本当だったんだ……。
萌絵はこっそりと驚いた。
「だからさ、キミも今日から、その一員だ。よろしく」
「はい!こちらこそ、よろしくお願いします」
そのまま二人は、そっと抱き合い、そして熱いキスを交わすのだった。
それは、生徒へ帰宅を促す全校アナウンスが入るまで続いたのだった。
悪魔との契約条項 第七十五条
女の子は誰でも、ヒロインになれる。
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