契約その72 史上最強のweapon!
ユニ達は、この所紫音を見ていない。どうやら学校から帰るなりずっと自分の部屋に引き篭もっているらしいのだ。
とはいえ、ユニ達はそんな彼女の事をあまり気にしていなかった。
紫音の部屋から時折爆発音が聞こえていて、また何かを発明している事は明確だったからである。
そしてそれから一週間程が経過した土曜日、紫音はドタドタと足音を響かせながらユニ達のいるリビングへやってきた。
「やったー!できたぞ!ようやくできたんじゃー!」
紫音はメガネにツインテール、白衣なのは変わらなかったが、白衣の下に薄汚れた作業着と分厚い手袋を着用し、頭には小柄な彼女には不釣り合いな大きいゴーグルをしていた。
まるで工場で働く技術者の様なスタイルである。
そんな彼女がそう叫びながらリビングに駆け込んで来たのを見て、さすがにユニ達は驚いた。
「できたって、一体何ができたの?」
ユニが聞く。
そんな紫音は、ソファーに座るとみんなに問うた。
「みんな、何で戦争が起きるか知っておるか?」
「?」
唐突な質問に、ユニ達の頭にははてなマークが浮かぶ。
「それが一体、どうしたっていうの?」
ルアが聞く。紫音は、よくぞ聞いてくれた!と言わんばかりに指を鳴らすと、話を続けた。
「組織同士、国同士の利害関係、復讐、色々あるじゃろう。じゃが一番の動機はズバリ『戦意』じゃ。極論『戦意』さえあれば人はどんな無謀な戦いにも身を投じてしまう。恐ろしいものじゃ……」
紫音は物憂げに胸を抑えながら言う。
「という事は、今回の発明品はその戦意を削ぐものっていう事か?」
ユニの発言を聞いた紫音は、また指を鳴らして「そういう事じゃ!」と言った。
「というわけで、善は急げ!色々反応を試したいから……、えっと……その……悪いんじゃが……」
今まで上機嫌だった紫音はだが、途端に歯切れが悪くなった。
「実験台になってほしいんだろ?要するに」
ユニが言った。
「まあそういう事じゃ。勿論イヤなら断ってもいい。報酬は出すし、引き受けても責任は全てわしが取るから……」
ユニ達は互いに顔を見合わせる。
正直こういう時にロクな結果になった事はないのだが、とかくお人好しなユニ達は、紫音のお願いを引き受ける事にした。
引き受けたのは、その場にいたユニ、ルーシー、七海、モミの四人である。
それに当事者である紫音を加えた五人は、紫音の部屋へとやって来た。
「これがその発明品か?」
ユニが見上げて言う。
兵器というよりは、小型のロケットみたいな形である。ユニが見上げる程なので、少なくとも二メートル強はあるだろう。
「そうじゃ。これを起動すれば、『負のオーラ』でその場にいる者達の脳に働きかけ、『後ろ向きな自我』を引き出す事で自信という自信を根こそぎ奪ってしまう。無血降伏も夢じゃない。まさに史上最強の兵器じゃな」
ムダに大きいのは、まだ技術が洗練されてないからだという。
そう紫音は言った。
「今回は実験だからレベル1ぐらいにしよう」
紫音はダイヤルをセットし、起動スイッチを押した。
「こうすれば、やがて効果が……どうせ失敗するんじゃろうなァ……。『APES』の時もそうじゃったし……」
見ての通り、効果はてきめんだった。紫音はその場でガクッと肩を落とし、完全に自信を失ってしまった。
ユニは紫音の元に駆け寄ると、抱き抱えて言う。
「大丈夫か?紫音!」
「うぅ……ぐぅ……」
「いやそんな唸っててもわからないよ!くそォ!何でおれは……彼女の気持ちがわからないんだ……。男のクセして女のフリして……バカみてェ……」
ユニもまたガクッと肩を落としてしまう。
「ユニ!?」
ついにはユニもその被害に遭ってしまった。
「そんな……おれがあの時契約なんかしなけりゃこんな事にならなかったのかな……」
続いてルーシーも犠牲になる。
「ユニの心の変化に気づかないなんて……幼馴染失格だ……」
「人のおっぱいばかり気にして……まるで変態じゃないですか……」
七海、モミもその毒牙にかかり、それからしばらくの間、五人は紫音の部屋でうなだれているのだった。
それから数時間後、ルアが仕事を終えて帰宅した。
合鍵を出し、鍵を開けてドアを開け放とうとしたその時、何やら「負のオーラ」が家の中を漂っている事を理解した。
家の都合上、そうしたものに気づきやすいのである。
「みんなー!一体どうしたのー!?」
みんなの名前を呼びながら、ルアはどんどんとオーラが濃くなっている場所に向けて歩き出す。
体質上、こうしたものには強いのである。
やがて、一番「負のオーラ」の濃い場所にたどり着く。紫音の部屋である。
ルアはゆっくりとそのドアを開け、謎の機械の前で倒れている五人を見つけた。
「えー!ちょっとどうしたの!?まさか集団自殺!?」
最悪の言葉が出てしまう。
その時、紫音がゆっくりと起き出した。
「いや、大丈夫じゃ。今の所はな……。ルア、頼むが停止スイッチを押してくれないか?自爆スイッチのちょうど隣にある……まあどうせ……自爆スイッチを押すのじゃろうが……」
「何でそんなネガティブなの?」
ルアは疑問に思いつつ、言われた通りに自爆スイッチに気をつけて停止スイッチを押した。
機械は止まり、「負のオーラ」は雲散霧消した。
「はーよかった……止まったか……」
五人はほっと胸を撫で下ろした。
「やはり『過ぎたるは及ばざるが如し』じゃな。輸送のコストもある。この機械は封印しなくては」
裏を返せば、そのコストをうまく軽減すればどうにかなるのだが、それにはまだしばらくの時間が必要である。
「助かったよ。ルア。ありがとう」
ユニ達はお礼を言う。
「いやいいっていいって。気にしないで。この機械が悪かったんでしょっ!」
ルアがその機械を軽く叩く。
しかしその腕は、禁じられたボタンに当たってしまった。
「あーっ!ルア!そのボタンは!」
「え?」
次の瞬間、爆発音と黒煙が辺りを包み込んだ。
程なくして煙が晴れると、そこには全身黒コゲになったユニ達が座っていた。
六人はパチクリと二、三回瞬きをすると、口に含んだ煤を、ぶほっと口から吐き出した。
みんなそれぞれの元の髪型の面影を残したままのアフロからは、まだ黒煙が立ち昇っていた。
「いやもう……本当にすまん……」
この結果には、紫音も機械を使うまでもなくネガティブになるしかなかった。
チリチリになったツインテールを揺らしながら、紫音はみんなに謝罪した。
その後、六人は全身にこびりついた煤を落とす為に風呂に入る事にした。
「何だかいつもこんな目に遭ってる気がする……」
ルアがぼやく。
「皆さんの黒コゲおっぱい、興味深かったのです!ブラチラも眼福でしたし」
モミは目を輝かせながら言った。
まさかもう一度ああいう目に遭いたいのかと言いたそうな目で、ルーシーと七海はモミを見ていた。
紫音は後片づけですぐに自室に戻った。実験に失敗した上にみんなを爆発に巻き込んだので、結構落ち込んでいる様である。
それに対してユニは思う。
紫音は「後ろ向きな自我」を引き出したと言っていた。
つまり、あの感情は「後ろ向き」だとはいえ、自分の本心という事である。
つまり彼女達の気持ちを理解できる自信がないと、自分はどこかで思っているという事だろうか。
そんな自分が、果たして彼女達を幸せにできるのか?
その答えは、今はまだ出なかった。
悪魔との契約条項 第七十二条
人間の直接的な力は悪魔には通用しないが、「精神攻撃」ならば通用する。
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