契約その70 攻略本とスプーンとteaching!
九月も最終週に入り、夏の暑さもようやく落ち着いてきた。
10月の初めの週には中間テストがある。
今週はそれに向けたテスト期間な事もあってかクラスもどこか勉強ムードが高まっていた。
ユニはふと気になった事があり、夕食時に彼女達に聞いてみる事にした。
「キミ達さ、一週間後には中間テストだけど勉強とかしてんの?」
その時、彼女達の箸がピタっと止まった。
その翌日、ユニは土曜日を使って彼女達全員をリビングに集めた。
「じゃあ……瀬楠家勉強会を始めます」
号令をかけるユニ。
「よ……よろしくお願いします……」
彼女達全員が深々と頭を下げた。
「じゃあまずは、前回の振り返りをしていこうか」
ユニはみんなに前回の定期テストの結果を持って来させた。
晴夢学園の定期テストは、一年で五回ある。
それぞれ五月、七月、十月、十二月、二月であり、その内五月と十月の定期テストが国数英理社の五教科、そして残りがそれに音楽、美術、保健体育、技術家庭科の四教科を加えた九教科となっている。
今回は五教科なので、ユニは五教科の結果を持って来させた。
「ふむ……だいたい成績はいい悪いに二分されるみたいだ」
まずルア、紫音、どれみ、アキ、由理の五人は全員が学年20位以内には入っている好成績である。
彼女達についてはほとんど問題はないだろう。
だが問題は……。
「こっちはかなりまずいな……」
ユニが頭を抱えたのは残りの六人、ルーシー、七海、アゲハ、藤香、メイ、モミの成績である。
七海、藤香、メイは部活や仕事や動画撮影が忙しいという理由で成績が悪いのであろう。
この三人の成績は下の上といった感じでまだ改善の余地がある。
しかし、アゲハ、モミ、そして最下位を取っているルーシーはかなりマズイ。
「そりゃ確かに勉強だけできてもアレだと思うけどさ、悔しくないの?」
ユニが聞く。
「そりゃ悔しいぞ!?」
「でも何をべんきょーすればいいのかわからなくて」
「まったくちんぷんかんぷんなのです」
三人は口を揃えて反論した。
「それに、二学期から赤点取ったら追試及び補習だぞ。おれといる時間が減る」
三人にとって、それは最も避けたい事だった。
「そういうお前はどうなのさ!」
ルーシーが聞く。
「おれか?おれはほら……」
ユニは結果が書かれた紙をみんなに見せる。何と全教科で一位を取っていた。
「す……すごい……百点が三つも……」
「どうしてそんな事ができるの?」
彼女達は口々に質問する。
「まあ、各先生方の性格、出題傾向を日々の小テストから分析して、出題範囲を復習していけば何とかな」
つまりダントツに頭がいいわけではなく(それもあるが)、ユニの持ち前の分析力をフルに活かした結果だという事である。
「参考にならねェ……」
ルーシーはガクッと肩を落とした。
「それは本当にそうかな」
ユニが言う。
「少なくとも今回は、みんなのバックにはおれがついてる。昨日の内にみんなからの小テストを集めて、各先生方の出題傾向と各成績、それらを踏まえてやるべき勉強を分析、解説したノートを一人一冊作ってきた」
ユニは自分の部屋から積み重ねた十一冊分のノートを持ってきて、みんなに配った。
中をペラペラめくっていると、文字だけではなく適度にイラストも使って解説しており、飽きない様な工夫がされているのがわかる。
「一人一冊、自分一人だけの勉強攻略本だ。これを参考にしていけば、みんな自己ベストを更新できると思う」
ユニは太鼓判を押す。書かれた文字はかなりの悪筆だったが、ユニの愛情が込められたノートである。
彼女達はそのノートをギュッと抱きしめた。
「さてと……勉強を始めようか」
こうして十二人のテスト勉強が幕を開けたのだった。
ユニは、勉強の後のプリンなどのご褒美も忘れなかった。ワークを解くごとにそうしたご褒美を用意していたのである。
勉強を始めてしばらく経って、ルアがアキに頼み事をする。
「ねェアキ、そのシャーペン取ってよ」
「ああシャーペンか。はいこれ」
アキはそれが何なのかをよく確認せずにルアに渡す。
「はいこれ」
「うんありがとう」
ルアはそれをなぜか上に掲げると、その正体に気づいて言った。
「これってプリンのスプーンじゃん!」
そんな事があったが、勉強自体はつつがなく進んでいった。
みんな「自分はこれをやればいい」という明確な目標を見つけられた事で、モチベーションが上がっているのである。
そして迎えた試験日。各々の勉強を終え、彼女達が出した結果は……。
「すごいな。まさか全員五十位以内とは。基本的にやればできる子なんだよな」
ユニは全員の結果が書かれた紙を満足そうに見る。
「へへっすごいだろ。特におれは150位以上順位上げたから先生からホメられたんだ」
ルーシーはピースサインをして喜ぶ。
「結果がついてくれば楽しいだろ?」
ユニが問う。
「ああ!千年生きてるけど、勉強を楽しいって思ったのは始めてだよ」
ルーシーがウキウキしながら言う。
「特に十一月からは忙しくなるからな。例えば文化祭とか」
ユニが言う。
「文化祭か……」
学生時代の花形、文化祭。その足音は、確実に近づいてきている。
悪魔との契約条項 第七十条
悪魔は人間より長寿だが、だからといって何でも知っているというわけではない。
勉強は必要である。
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