契約その67 Sisters水入らず!
体育祭から一週間が経過した。ルーシーの顔面のケガも無事完治し、またいつもの日常が帰って来た。
九月も半ばになり、いよいよ涼しくなってきた土曜日、ユニは今度は由理と二人きりになっていた。
「今日委員会はないんだな」
ユニが聞く。由理は風紀委員会に所属しているのだが、かなりの激務で土曜日も駆り出されていた。
「いや本当はあるんだけど、たまには休めって先輩達から言われちゃって」
由理が自分の分の麦茶をコップに注ぎながら言う。
確かに、由理がこの所働き詰めな事はユニも把握していた。しかしそれは決してブラックという事ではない。
「色々あるんだ。例えばある男子生徒が女子生徒を襲った事件とか」
由理は麦茶を一気に飲み干してから言った。
それって以前の雉元そうじの事じゃないのか。
色々ありすぎて忘れていたが、確かにアレは事件と言っても致し方ない案件な気がする。
「その他にも男性教師の生徒を巻き込んだ自殺未遂や、女子生徒がヤクザに絡まれた話とか」
前者は岩倉先生の一件で、後者はアキとアゲハがそんな話をしていた。
「それに度重なる生徒の誘拐未遂……これ以上の失態は許せないって対策に躍起になってるの」
心当たりがありすぎる。
由理は麦茶を飲んだコップを洗いながら言う。
「そ……そうなんだ……何かもう色々ごめんな」
ユニは由理に頭を下げる。
今由理が挙げた事案は、全てユニ達が関わっているものである。
一度風紀委員会に謝りに行った方がいいかも知れない。
申し訳なさでいっぱいになっているユニに、由理は言う。
「それで、その対策で連日の委員会になってるわけだけど、休めって言われて……休むってどうすればいいの?」
そんな事言われても、ユニは戸惑ってしまう。
「例えばほら、友達と遊びに行くとかさ」
ユニはどうにか絞り出した。
「みんな気を遣って誘って来ないんだ」
そうなのか……。
仕方ないな。そう思ったユニは、だったら自分とどこか遊びに出かけるかと提案した。
「本当!?いいの?」
その提案を聞いた由理の顔が明るくなった。
というわけで、やって来たのはバッティングセンターである。
「ぬー!でりゃァァァ!」
ユニはものすごい雄叫びを上げながらバットを振る。
バットはブォンという音を立てながら空を切った。
「あはは、姉さんって球技苦手だっけ」
ユニはネット越しから由理に笑われてしまった。
ユニは、ただ走るだけ、投げるだけなら小さい頃から好成績を残してきた。
だがそれらを複合させた球技になると、なぜか中々上手くいかなかったのである。
「ちゃんとボールを見ないと」
由理のアドバイスも虚しく、結局最後までかすりもしなかったユニなのであった。
「さあ、気を取り直して、次はカラオケ行こっ!」
由理の指示に従い、二人はカラオケ店「ヒビキ」にやって来た。ここ一帯で、カラオケといえばこの店である。
「ここで晩ご飯も食べるか……」
ユニはピザとフライドポテトを頼んだ。
「さてと……何歌う?」
注文を終えたユニは、備え付けのタブレット端末で曲の予約をしようとする。
その時である。
「お姉ちゃん……」
由理はユニの肩を持ったかと思うと、ソファーの方へ押し倒した。
ガシャンと音を立てて床に落ちるタブレット端末。
「ちょ……一体何をする気なんだ?」
「わかんないの?この状況で」
由理の目が妖しく光る。
「ハアハア……もう我慢できないんだ……私お姉ちゃんの事は女の子っていう認識なんだけど、なぜかどこかに男の子だったっていう記憶もあるの……」
「それは本当か?」
ユニはその由理の発言に驚きながら聞いた。
「うん……。微かにだけど……」
それはどういう事だろうか。ルーシーとの契約が成立し、女になった時点で、ユニが男であるという事実はなくなったはずである。
身内だからだろうか。あるいは長い付き合いだからという可能性もある。
そんなユニの疑問などつゆ知らず、由理は引き続きユニを取り押さえながら話を続けた。
「ルーシーからは元々男の子って言われたけど、本当にそうなの?確かめてみないとわからないや……」
恍惚とした表情をした由理はが舌なめずりをしながら言った。
「いやコレってもしかして……」
ユニは慌てて由理の体をどかそうとするが、すごい力で押さえつけられていて動かない。
「前にも言ったと思うけど、私お姉ちゃんの事が好きなの。女の子同士で、姉妹なのに……だから……責任取ってよ」
由理はユニの耳を唇で咥える。
「!!?」
そのあまりの衝撃に、ユニは自分の顔が一気に紅潮するのを感じたものの、どうにか堪えた。
「ハア……ハア……責任なら取るよ。最初からそう決めてる」
異様な雰囲気に気圧されながらも、ユニは毅然と答えた。
「そう?それなら……」
由理が嬉々としてユニの服を脱がそうと手を伸ばしたその時である。
「えーピザとフライドポテトをご注文の……」
空気の読めないカラオケ屋店員が勢いよくドアを開けて来た。
ムードを壊され、動揺する二人。
心なしか、店員は見て見ぬふりをした様である。
それから、由理は何とか落ち着きを取り戻すと、何事もなかったかの様にピザとフライドポテトを受け取った。
その後の雰囲気は、筆舌に尽くしがたいものであった。
延々とピザとフライドポテトを食べる二人。結局何も歌わずに店を去る事になった。
翌日、顔が赤くなっている二人を見て、ルーシーが聞いた。
「そんなよそよそしくして、一体何があったんだ?」
「いや聞くな……」
「何でもない……」
よく考えたらカラオケ店はそんな事の為に利用する場所ではなかった。最悪出禁になる所である。
由理は、そういう事をやるのなら、もっと場所を考えなければならないと思ったのだった。
悪魔との契約条項 第六十七条
契約者の親兄弟など、契約者と近しい存在の人間なら、改変前の世界を朧げながら覚えている場合がある。
読んで下さりありがとうございます。
いいね、感想などをよろしくお願い致します。




