契約その62 禁じられたword!
「悪魔でもない限り、そもそも短い時間で遠くまで連れていく事は不可能だよな」
メガネでルーシーの位置情報を確認しながら、ユニは学校近くの歩道を爆走していた。
本来体育祭中に校外に出る事は禁止されているのだが、こういう状況なのでやむを得ない。
メガネの位置情報によれば、やはり学校からはそれ程離れていない様である。
メガネの位置情報に従い、ユニは徐氏堂市の物流の要である倉庫街に辿り着いた。
それだけに食堂や自動販売機もあり、トラックや作業員の姿が多い。
ユニはそれらの目を盗み、位置情報で示された場所へと急いだ。
「……ここか」
メガネの位置情報で示されたのは、賑やかな場所からは離れたコンテナの様な小さな倉庫である。
周りにはユニ以外の人っこ一人いない。所々が錆びついた外観から見て、おそらくもう使われていない倉庫なのだろう。
ユニは、その扉を叩いて叫んだ。
「おーい!ルーシー!無事か!?無事なら返事しろ!」
返事がない。
睡眠薬を盛られていたのである。まだ寝ている可能性はある。
ならばユニが開けるしかないだろう。
ユニはダメ元で扉に手をかけ、力を入れた。
錆びついているからか一気に開く事はなかったが、どうやら鍵がかかっている様子はなさそうだ。
しかし妙である。こういう人気のないコンテナに閉じ込めるなら、最低でも鍵ぐらいはかけるはずだからだ。
この場所が見つからないという絶対の自信があったのか、あるいは……。
何の情報もないこの状況では考えてもわからないので、ユニはさらに力を入れ、扉を開け放った。
「ルーシー!」
ルーシーは縛られる事もなく、ただ地面に座っていた。
「ユニ!?何でここが!?」
早くもやってきたユニに、ルーシーが驚きながら聞く。
ユニの事なので絶対に来るとわかっていたが、まさかこんなに早いとは思わなかったのだ。
「すぐに見つけられる様に対策したからな」
ユニはかけていたメガネを外してルーシーに示した。
「さあ、戻ろう。みんなが待ってる」
ユニはルーシーの手を取って、一緒に外に出ようとした。
しかし、ルーシーはその手を払いのけた。
「ダメだ」
その反応に、ユニは驚いて言った。
「ダメ!?何でダメなんだよ。みんな待ってて……」
「だからダメなんだよ!」
ルーシーはユニを怒鳴りつけた。
その剣幕に、ユニは思わず手を離してしまう。
「おれには、体育祭が終わるまでここにいないといけない理由があるんだ……。だから……帰ってくれないかな……」
ルーシーは今にも泣き出しそうな雰囲気で言った。
「そんな……。その理由って何だよ!それが解決できたなら……」
ユニが言いかけたその時、先程のモニターが再び映った。
「いいでしょう。この場所を嗅ぎつけ、ここまで追ってきたあなたに免じて……体育祭よりもこちらの方が盛り上がりそうですし……」
「誰だ!?……いやその口ぶり、お前がこの件の黒幕だな?」
モニターの方を振り返りながらユニが言う。
「理解が早いですね。聡明だ。まああなた達の基準で見れば、私は『黒幕』確かにそういう事になるのでしょう」
ルーシーと一対一で話す時とは違い、黒幕「メフィスト」は慇懃無礼な態度でコミュニケーションを取ってきた。
ユニは「メフィスト」を睨みつけ、言う。
「その黒幕が、何で姿を見せた」
「なぜ彼女がここを離れたくないのか、知りたくはないですか?」
「何だと?」
ユニは目を見開いて驚いた。
確かにそれは知りたいが、ユニは黒幕が素直に教えてくれるとは思えなかった。
メフィストは、そんな事はお構いなしといった雰囲気で話す。
「あなた達の、晴夢学園のどこかに爆弾を仕掛けました。多くの生徒や教職員が、特に今日……いや今なんかはよく利用する暗い暗いある場所に。形状は黒いダンボール箱の様なものですが……爆発すれば半径十キロメートルを容易に破壊する代物です。」
それを聞いたユニは冷や汗をかく。
「そんなモンがもし爆発でもしたら、徐氏堂市が壊滅するじゃないか!」
「だからその爆弾を止める『ゲーム』を企画しました。本当は『ルシファー』をこの場に縛りつけておく脅しのものだったのですが……もういいでしょう。あなたを解放します」
それを聞いたルーシーの顔が、少し明るくなった。
しかしその後の「メフィスト」の発言を聞いて、また顔を曇らせる事になる。
「ただし、爆弾を三十分後に爆発する事にします。ちょうど体育祭の休憩時間が終わる頃ですね」
「メフィスト」はそう言うと、手元にある小さなボタンを押す。
「はいこれで爆弾が三十分後には爆発します。よく探してみてください」
「その爆弾は本物なのか?」
ユニが聞く。
もっともその疑問は先程ルーシーが呈したものだったので、「メフィスト」の返答は同様のものだった。
「仮に本物だった場合、困るのはあなた達では?」
「くそっ!」
ユニは自分の掌を拳で打つ。
「では私はこれで。また会いましょう」
「おい待て!もっと聞きたい事が……」
ユニが止めるのも聞かず、モニターはそのまま暗くなってしまった。
こんな事をしているヒマはない。とにかく一刻も早く爆弾を見つけなくてはならないのである。
ユニは急いで自分の携帯に向かって叫ぶ。
「もしもし紫音か!?さっきの聞いたか?」
「ああ、バッチリだ!」
電話越しに紫音が言う。念の為に携帯の通話をONにしておいたのである。
「みんなそこにいるか?」
ユニが聞く。
「当然じゃ」
紫音が返した。
これこそがユニが先程紫音に言っていた「お願い」である。
必ず何かあると踏んでいたユニは、紫音に頼んで彼女達全員を集めて貰っていたのだ。
「みんないいか?爆弾を見つけるのに三十分かけていたんじゃ間に合わない。ちゃんと爆弾を止める手段を持って、それも含めて止めに行かなくちゃ」
「でしたらウチの爆発物処理班を使いましょう!何人かならわたくしでもすぐに使えます。今すぐ呼び出しましょう」
どれみが名乗り出た。
「よし!じゃあ今すぐおれ達もそっちへ向かうから!必ず爆弾を見つけるんだ!」
ユニが仲間達との会話を終えると、ルーシーはユニに自分の手を差し出して言うのだった。
「ユニ、学校に戻るぞ。みんな頑張ってる。おれ達もこうしちゃいられない」
それは、先程までなら言いたくても言えない禁じられていた言葉だった。
ユニは会心の笑みを浮かべて大きく頷くと、その手を強く取るのだった。
悪魔との契約条項 第六十二条
悪魔は、人間側にウソをつく事を基本的に好まない。
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