契約その58 二学期開始!preparationは超大事!?
長かった夏休みも終わり、ユニ達は久しぶりに制服に袖を通した。
八月の最終週になったとはいえまだ残暑は厳しく、制服は未だ夏服である。
宿題も終わり、ユニも堂々と学校に行った……行けたらよかったのだが……。
「ユニー!どうしたのー!行くよ学校!」
誰かの声が聞こえる。同居人の内誰なのかは、ユニにはわからなかった。
そんな場合ではなかったのである。
「う……うえ〜気持ち悪ィ〜」
ユニは便器にしがみつく形で吐いていた。
「あー生理か……」
玄関で彼女達が噂をし合う。その苦しさは彼女達にも理解されている様だ。
「元男性でもなるんだな」
「そりゃ元男性だろうが何だろうが、今の体は女性だからな。そういうのも女性の体に準ずる」
ルーシーが言う。まだ車イスに座っている。
「この体になってから何回か起こってるけど、やっぱり慣れねェな……」
女体化してからというものの、そういう女性の体の仕組みについても調査、メモに残していた。
最初の頃はカゼかと思ったりもしたが、体温計で測っても平熱が出るだけだった。
病院に行き、医師から生理だという診断を貰い、その苦しみを軽減する薬を貰った。
生理中の飲食物についても色々調べ、実践した。だが何をしようが気持ち悪いものは気持ち悪いのである。
「重いタイプなのかおれ……」
生理の重さ、影響などには当然個人差がある。比較的軽めの人もいれば、重い人だっているのである。
こりゃダメだと思ったユニは、彼女達に先に行く様に伝えた。
それを聞いて、次第に遠くなっていく足音達。これで彼女達を巻き添えにする事はなくなった。
とはいえ、ユニとてなるべく遅刻はしたくない。
ユニは死ぬ程辛いのを我慢し、フラフラする足をなるべくしっかり踏みしめ、玄関のドアを開けて、外に出た。
ここまでしてユニが学校に行く理由は、生理に負けると女である自分自身にも負ける様な感じになるからである。
しかし悪い事というものは続くものである。
家から出ると、額に汗をかきつつ、大きな荷物を背負って歩いているおばあさんがいた。
ユニには放っとけなかった。
「もしもし……?お荷物お持ちしましょうか?」
ユニはそのおばあさんに話しかけ、手伝うか聞く。
「本当かい。悪いねぇ。あそこのバス停までよろしくね」
おばあさんが指差したのは大通りにある市営バス停である。
話を聞くと、おばあさんはどうやら息子夫婦の所へ行く所らしい。
普通はお盆の時期に行く所だろうが、息子夫婦はあまりに忙しく、お盆には休みが取れなかったとの事である。
バス停に着くと、タイミングよくバスが止まった所だった。
おばあさんはお礼として、ネットに入ったメロンをプレゼントしてくれた。曰く自分の畑で採れたものだという。
お礼を言いながら、おばあさんはバスの中へと消えていった。
バスを見送った後で、ユニはそんな事してるヒマがないと慌てて学校へ向かうのだった。
しかし、やはり悪い事というのは続くものである。
ユニ達の通学路の途中には川がある。今度はそこから子供の泣き声が聞こえて来た。
ユニはまさかと思い、河川敷の上から川を見下ろす。
「やっぱり……」
恐れていた現実がそこにはあった。
子供が川で溺れているのである。
小学校はまだ夏休みのハズなので、おそらく遊んでいて溺れたのだろう。
溺れ始めてまだ時間が経っていないのか、まだ誰も気づいていない様だ。
そもそもこの道は数十分前にユニの彼女達が通ったハズであり、彼女達がこの状況を見過ごすとは考えられない。
ユニは今すぐ消防を呼んだ。
しかし、それを待っているヒマはない。ユニは自分で助ける事にした。
子供の泣き声はまだ続いている。という事はまだ意識はあるという事だ。
近くにロープや長い棒などがあればよかったのだが、そんな都合のいいものはなかった。
悩んでいるヒマはない。
ユニは自分の制服を脱いで下着姿になる。制服を結んでロープ代わりにする為だ。
靴下……はユニが裸足派なのもあってなかったが。
抵抗はあったが、少しでも距離を稼ぐ為にブラジャーも脱ぐ。
それらをキツく結んで、その先に先程おばあさんから貰ったメロンが入ったネットを結んだ。
ウリ科のメロンは水に浮くので、浮き輪代わりにする為である。
こうして準備は整った。ユニはできたロープを抱えながら、溺れる子供に叫ぶ。
「おーい!大丈夫か!?」
答える余裕はない様である。
「頼む!メロンに掴まってくれ!」
ユニは投げ縄の要領で、子供を超える様に結んだメロンを投げる。子供も死に物狂いで掴んだ様だ。
「よし!かかった!」
子供が掴んだ事を確認すると、続いて真ん中辺りで、ユニ自身にロープを結ぶ。
そして投げていない方の端を、近くの木に結ぶ。
これでメロン→ユニ→木という順番に結ばれた事になった。
そしてユニは躊躇せずに川に入り、何とか子供の元へ辿り着く。
子供をしっかり抱きしめるユニ。
「大丈夫、大丈夫だから」
しかし、パンツ以外には何も身につけていないユニ、その上生理中である。コンディションはまさに最悪だった。
さらに水の冷たさは、ユニの体力をどんどん奪っていく。
ここに来て、周囲の人々も異変に気づき始めた様だ。
しかしほとんどが野次馬、役に立たない。
その人波をかき分ける様にして、ようやく消防が現場に駆けつけ、その数分後にはユニと子供は助け出されたのだった。
ユニと子供は、すぐさま病院に搬送された。幸いにも二人共命に別状はなく、ユニはすぐに退院できた。
それから数日後、ある日曜日の事である。
「しかし、結局学校に来なかったかと思ったら、まさかそんな事になってたなんてな」
ルーシーが言う。あの後学校へ連絡が行き、みんな病院に駆けつけてくれた。
命に別状がない事がわかると、みんな胸を撫で下ろしたのだった。
「まったく驚きだよ」
そんな話をしていると、家のチャイムが鳴る。
玄関で待っていたのは、助けた子供と、そしてバスに乗ったおばあさんである。
どうやら祖母と孫の関係だったらしい。
「まさか息子夫婦の家が、バスで行ってすぐの所にあったとは」
ユニが呟いた。
ユニはてっきり遠くの場所にあるのだと考えていた。
そしておばあさんがダンボールを渡して言う。
「孫を助けてくれてありがとうございます。そしてこれはお礼なんですが……」
ユニ達がお礼として渡されたのは、ダンボールに大量に入ったメロンだった。
「これすごい高いメロンだけど!?仕事で食べた事がある」
ルアが驚いた。
ユニ達は、その高級メロンに舌鼓を打ったのだった。
「しかしよかったのう」
メロンを食べながら紫音が呟く。
「確かに高いメロン食べられてよかったけど……。それがどうかしたの?」
ユニが聞くと、紫音はこう返した。
「メロンは生理にも効くからじゃ」
それを聞いて、ユニは顔を赤くするのだった。
悪魔との契約条項 第五十八条
人にした事は、いずれ自分に返ってくる。
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