契約その55 Powerの残り香!?
「まったく、バカで愚かで無能程自分の失敗を認めない。でも好きだったわよ。そのあなたの愚かさは」
「アモン」は、今や自らの腹の中に収まった財亜万太郎に対して語りかけた。
「お……お父様……」
財亜百は、その場でへたり込む事しかできなかった。
「さてと……」
財亜万太郎を喰った「アモン」は、続いて父を目の前で失い、慟哭しきっている財亜百に向かって言った。
「あの人の遺言通り、財亜百の命も貰いましょうかね」
「え?」
反応するヒマすらなく、「アモン」に始末されそうになった財亜百を、誰かが後方に投げ飛ばした。
その誰か、ユニは財亜百に向かって叫ぶ。
「逃げろ!死にたくないんならな!早く!考えているヒマなんてないぞ!」
その言葉を受けて、財亜百は全速力で逃げ、その場を後にした。
「なぜあなたが彼女を逃すのですか?あなたに彼女を助ける理由はないと思いますが」
「アモン」の問いに、ユニは心の底から搾り取る様に語った。
「あいつに心から謝って欲しいって言う女の子がいるからな」
そんなユニの言葉に、「アモン」は心底たまんなさそうな反応をして言う。
「ふーん……まァいいでしょう。今殺そうが、後で殺そうが、結果は同じ事。今はあなた達に集中しましょう。一人足りないけど、あなた達もここで始末しておくべきですから」
それを聞いたユニは、一瞬で「アモン」に飛びかかる。
しかし「アモン」は、それを難なく迎撃し、腹へのキックで吹き飛ばした。
「がっ……は……」
ユニは背中から床に叩きつけられる。
「人間にしては最強クラスなんだろうけど……人間如きが悪魔に勝てるとでも思ってるの?」
ユニに向かって迫ってくる「アモン」。
「ハア……ハア……勝機ならある……。うおああ!」
ユニが雄叫びを上げると、体から悪魔の様な羽が、口からは八重歯が生える。その姿はまるで悪夢の様だった。
その姿を見たその場にいる全員が驚愕した。
「!?何で!?契約もしてないのに!どうしてあなたが『悪魔の力』を使えるの!?」
動揺した「アモン」がユニを問い詰める。
「さァな……おれにもわからねェ」
口ではそう言うが、ユニは気づいていた。
「APES」を倒した日、ユニは自分の内面と対話した。
それは、「APES」の内部に残っていた「悪魔の力」が、ユニの心と合わさり具現化したものであった。
紆余曲折あってそれは、ユニと一つになる形で消滅した。つまり、ユニは「悪魔の力」と一つになっていたのである。
「悪魔の力」である以上、「アモン」にダメージを与える事は可能というわけである。
「理屈はわからないけどあまりに微弱な力……まるで『残り香』……。せいぜい下級悪魔とどっこいって感じかしら?それがあなたの『勝機』?ナメられたものね……!」
ダメージは与えられる様になったが、状況は依然として変わらなかった。
「アモン」の反撃を受け、ユニは再び他に伏せた。
「ホラ見なさい!あなた自身は何もできない!このままあなたも、あなたが守る女達も!全員が死んだら『ルシファー』は一体どうなるのかしら?」
「ハアハア……たぶん怒り狂うだろうな。それでお前は殺される」
ユニはゆっくり立ち上がりながら言った。
「ムダよ。どんなに力が強くても、『権力』には勝てない!そのまま泣き寝入りでしょうね」
「アモン」は嘲笑いながら言った。
「……そうさせない為に……今おれが戦ってるんだろうが!」
ユニが叫ぶ。その瞳は気迫に満ち溢れていた。
ユニは、後ろにいる彼女達に叫ぶ。
「みんな!キミ達の『願い』をおれに集めてくれ!それで『悪魔の力』を強化できる!」
それを聞いた「アモン」は、ここでなぜユニが彼女達をここから避難させなかったか、その意図に気づいた。
安全を確保するなら、さっきの財亜百の様にここから退避させるのが一番だからである。
「そうか、その為に……」
これはマズイと、「アモン」はユニを叩きのめそうとした。
ユニの頭上にオルテガハンマーを叩き込む「アモン」。それをユニは何とか受け止めた。
「う……ぐぐ……早く!」
ユニに催促され、彼女達はユニに願いを捧げる。
「お願い。必ず勝って」
「勝って一緒に帰ろう」
その様々な願いはユニの体に集まり、ユニの体を変身させた。
変身の影響で、服がビジネススーツからゴスロリの衣装に大きく変わった。
その力は、「アモン」を大きく吹き飛ばして、尻餅をつかせた。「アモン」から初めてダウンを奪ったという事である。
「みんな!」
ユニは後ろで見ていた彼女達に声をかける。
「おれと契約してくれ!契約内容は……『全員無事に家に帰る事』!代償はなしだ!」
「契約する!当たり前だ!」
叫ぶ彼女達。
ユニはそれを見て、ニッと笑った。
「ハアハア……生意気な……!たかが……たかが人間のクセに!」
怒り狂って向かってくる「アモン」。その突撃を、ユニは力で押さえた。
「何て力……」
「うおああああ!」
力の限り、「アモン」を殴り飛ばすユニ。初めて一撃が入った。
「がはっ……」
再び尻餅をつく「アモン」。
立ち上がりながら、「アモン」は冷静に分析した。
「成程……微弱な『悪魔の力』を人間の願いの力でブーストさせたって事?一体いつまで待つのかしら?」
「お前を倒すまでだ!」
ユニは「アモン」にアッパーカットを食らわすと、さらに脳天目がけて踵落としを食らわせる。
「アモン」は今度は地に伏す事になった。
一度同じ土俵に立てれば、ユニの方が有利である。
「人間のクセに……!悪魔に逆らうって言うの!?お前達人間は!私達に『破滅』と『絶望』を見せてくれるオモチャに過ぎないのに!」
頭から血を流しながら、「アモン」はそう叫んだ。
「人間を……ナメんなよ!」
力の限り向かってくる「アモン」に対して、ユニはカウンターキックを食らわせた。
これをモロに食らった「アモン」は、社長の机とイスを巻き込みながら吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて動けなくなった。
勝敗は決した。
その次の瞬間、「悪魔の力」を失ったユニは、元の姿に戻ってその場に倒れた。
「ユニ!」
その場に駆け寄る彼女達。
対する「アモン」は、まだ息があった。
「ハアハア……体が動かない……」
「これに懲りたら、もう魔界に帰れ」
彼女達に介抱されたユニが言う。
「フザけるな!私はまだ終わっちゃいない!この傷を癒したら……」
「その必要はないわ」
「アモン」の言葉を遮りながら、突如降り立った別の悪魔。
ルーシーの母である「セラフィム」である。
「本来、魔界には別の悪魔が自分の契約の邪魔をするのなら、戦ってもいいっていう決まりがあるけど、今回あなたがやった事はそれを遥かに逸脱している。よってあなたを魔界に強制送還します」
抵抗する力もない「アモン」は、それに従う他なかった。
「セラフィム」は、母親の顔に戻って言った。
「ルーシーをよろしく頼むわね」
そうして「セラフィム」は、「アモン」を伴って黒い光に包まれて魔界へと帰還した。
こうして、全ての戦いが終わったのだった。
悪魔との契約条項 第五十五条
「悪魔の力」を持ってさえすれば、人間でも契約を結ぶ事は可能である。
読んで下さりありがとうございます。
いいね、感想などをよろしくお願い致します。




