契約その54 Devilとの契約不履行!?
目ざとい週刊誌が財亜グループの不祥事を一斉に報じたのは、その翌日の事であった。
数々のパワハラ、セクハラに加え、賄賂や不正の話も出て、ネット上では多くの批判が寄せられる事になったのである。
「想像以上の反響だな」
ネットの反応を見たユニが言う。
「まあ、財亜グループは大企業、これがダメージになるのかどうか……わからぬのう……」
紫音が言った。
そもそも財亜グループは、食品、出版、建設、工業、薬品、保健、貿易、AIなど様々な分野を手掛けている。
社長が判断ミスをしない限り、財亜グループが崩壊する事はないだろう。
それはメイの願いでもある。
最初から、彼女はただ、心から謝って欲しいだけなのである。
「そろそろ記者会見が始まるみたい」
由理がリビングのテレビをつける。
この問題は、世間の注目が非常に高い。どのテレビ局も生放送でその模様を放送するらしい。
黒いスーツ姿の社長兼総帥、財亜万太郎がカメラの前に出てきた。
途端に報道カメラのフラッシュが多くなる。
記者会見が始まり、記者からの質問が寄せられた。
「数多くの不祥事について、あなたはどこまで関与してますか!?」
「我々はまったく知らなかった。全ては現場の社員が勝手にやった事です」
「被害者についての謝罪は!?」
「我々がやった事ではないのでありません」
「あなたの進退については!?」
「この事態に真摯に行動していきたいと考えているので、社長や総帥をやめるつもりはありません」
そんな一問一答が数回続き、三十分程で記者会見は終わった。
この記者会見の様子をテレビで見ていたユニは、こう呟く。
「最悪だな。対応としては」
「そうですわね。まずは謝る、それが一番重要なのですわ!」
どれみが言う。
事実、その知らぬ存ぜぬの姿勢に、ネット上ではますます批判の声が強くなっている様である。
「これ本当に財亜グループの崩壊もあるんじゃないかな」
ユニが呆れた様に言った。
その時、どれみが電話に出た。
「もしもし?あっはい、はい、そうですか……」
「誰からの電話なの?」
ユニが聞いた。
「財亜グループに来て欲しい、できれば同居人全員を連れてとの事ですわ」
どれみが答えた。
その後、ユニはルーシーの病室を訪れた。
死んではいないとはいえ、ルーシーは未だに目を覚まさない。
そんなルーシーに、ユニは語りかける。
「ありがとう。キミがロボットの爆発からみんなを助けてくれたんだろ?自分の犠牲と引き換えに」
ユニは拳をグッと握り、心の底から搾り取る様な声を出して言った。
「だから、おれ達はキミの仇を討つ。だからキミも……負けないでいてくれ」
そう決意したユニの背中から、まるで悪魔の様な翼が生えたのだった。
そしてどれみは、ユニ達を連れて財亜グループの本社を訪れた。
財亜グループの株主総会に、火殿グループ代表として、そして被害者代表として呼ばれたからである。
そもそもユニ達も財亜グループの被害者である。仲間を傷つけられ、挙句家をメチャクチャにされた。
実の娘が被害を受けているという事実は、火殿グループとしては大きなカードなのである。
一応ビジネススーツを着て本社を訪れたユニ達は、二百メートルはありそうなその大きさに圧倒された。
「現社長が成金趣味で、この社屋も今の代で建てられたものだらしい。デカい建物は権力の象徴なんだって」
ユニが言う。
「恐ろしい話……」
ユニ達は息を呑んだ。
ユニ達はエレベーターで案内された本会議室へと向かう。ここが何階なのかもあまりわからない。
本会議室の扉は開け放たれており、ユニ達はそれがすぐにわかった。
本会議室に着くや否や、挨拶回りに行くどれみ。
こういう所に慣れているルア(仕事を休んで来た)や紫音はともかく、他の面々はその場違いさに居心地の悪さを感じていた。
まもなく株主総会が始まる。ユニ達は、順番にイスに座らせられた。
社長達はまだ来ていないので、今回の株主総会のだいたいの流れが確認された。
三十分程遅れて件の社長とその子供、財亜百がやってきた。
彼女はもっともユニ達と因縁の深い人物である。噂によると、社長は彼女を後継者にしようとしていたらしい。
三十分も遅刻してきた社長らに対して、ユニは「まさに社長出勤だな」と皮肉るのだった。
社長の登場で、ようやく株主総会が始まった。
目下の話題は不祥事について、そして社長の進退についてである。
「言っておきますが、私は社長も総帥も辞任するつもりは一切ありません。私は知らなかった。ただ知らなかったのです」
記者会見の時の主張を続ける財亜万太郎に、株主達はついに怒った。
「あなたが今回の不祥事に関わっていた事は明白。よって我々は財亜万太郎の社長及び総帥からの辞任を求めます!」
株主総会でそう言われてしまったら、もう詰みである。やめるしかない。
ユニの席は社長の席からは遠かったが、そこからでも彼が怒りで震えている事がわかった。
社長は全てから逃げる様に、会議室から走って出た。それを追いかける財亜百。
「たぶん社長室だ。おれ達も行くぞ」
ユニに促され、みんなは会議室を出て社長室へ行くのだった。
社長室は、本社の最上階にある。
鍵は閉まっていなかったので、財亜万太郎はその扉を思い切り開け放って部屋に入った。
「あら?会議は終わったの?」
社長のイスにどっかりと座った「アモン」が聞いた。
「頼むよ!おれを助けてくれェ〜!このままだとおれ、社長も総帥もやめさせられちまう〜!」
泣きながら、情けなく「アモン」に追い縋る財亜万太郎。
その場に百、そしてユニ達も追いついた。
「バカな男……」
「アモン」はゴミでも見るかの様な目で財亜万太郎を見下す。
「バカで愚かで無能なあなたが!今まで何でこのイスでふんぞり返れたと思う!?」
「アモン」は財亜万太郎を蹴り飛ばしながら言った。
「私がいたからよ……!あなたは社長として何もやってない!あなた……もし悪魔との契約の代償を払えなくなったらどうなるかわかる……?」
「アモン」はそう言うと、口を大きく変化させた。
その口に吸い込まれていく財亜万太郎。
「そう、代償を払えなくなった者は、悪魔に喰われる!」
「は!?バカやめろ!お前……誰のお陰で長い間甘い汁を吸えたと思ってんだ!」
口に吸い込まれながら、財亜万太郎は喚いた。
「バカね……たかだか数十年……悪魔にとっては誤差よ」
冷酷に吐き捨てる「アモン」。
「ひぃぃぃ!わかった!そうだ!あそこにいる娘の百をくれてやる!それでいいだろ!?」
「え!?ちょっとお父様!?」
いきなり父から売られる事になった百は動揺した。
「それが遺言でいいのかしら?」
尚も手を緩めない「アモン」。
「アモン」にとって、百の事などどうでもいいのである。
「うわあああ!嫌だああああ!」
財亜万太郎は喚きながら、ついに全身を吸い込まれ、喰われてしまった。
その光景を、ユニ達はただ見ている事しかできなかったのだった。
悪魔との契約条項 第五十四条
悪魔との契約の代償を払えない者は、悪魔に喰われる。
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