契約その53 Surfingしようぜ!光るネットの波をくぐって!
「こりゃハデにやってくれたな……」
家に戻ってきたユニ達は、まずはその惨状に呆れるしかなかった。
「『APES』の一件で、一度壊れた家具とか買い替えただろ?その時買い替えた家具でも壊れたものがあるんだ。高いものもあったのに……。家に入らせずに戦った方がよかったか?」
ユニは嘆いた。
「姉さん、でもそんな事嘆いてたって仕方ないよ。まずはしっかり片づけなくちゃ」
由理は肩を落とすユニを慰めた。
ユニ達は、まずは家の掃除に着手する事にした。
ラッキーだったのは、主に一階のリビング部分が戦場になったので、それ以外の部分の掃除は(玄関からリビングまでの廊下以外)特に必要なかった事である。
しかし、特にリビングの床はどこもかしこも足跡だらけで、所々穴も空いている有様だった。
これは全面張り替えするしかないだろう。
「その施工と、壊れた家具の費用などはウチが全部引き受けますわ。費用は後であちらに請求すればいい話ですし」
そうアゲハが言ってくれたのが幸いだった。
「それでも、さすがに床にこびりついたトリモチは対象外だと思いますけれども」
「それは本当にすまん」
紫音が謝罪した。
それから、ユニ達は近所のホームセンターで食器などを買ってきた。
「トリモチってどう剥がすんだ?」
ユニが聞く。素手で剥がすのは難しそうだ。
「ああ、そうだった。藤香とルアには言ったけど、キミ達は知らなかったのう」
紫音は水で溶ける事を教えてくれた。
まもなく火殿建設の人達が現れ、早速床の張り替え工事に入った。
普通は一日から二日かかるのだが、技術力が高い火殿建設が手がけたので、だいたい二、三時間程で終わった。
「もう全身クタクタだー!」
五人は新しくなった床に寝っ転がった。
寝っ転がった途端、どっと疲れが出てきた。そういえば家での戦いから、これまで一睡もしてなかった。
ピカピカの床に寝っ転がり、ユニ達はしばしの睡眠を取ったのだった。
―――同時刻 財亜グループ本社 社長兼総帥室
新しくなったユニ達のリビングの、少なくともその倍はある部屋に、財亜グループ社長兼総帥、財亜万太郎がいた。
黒くフカフカな、例えるなら学校の校長室にある様な高級感あふれるイスに座っており、指には大量の指輪をつけている。
一目で成金とわかる風貌である。
「失礼します」
ノックが聞こえたかと思うと、側近と思しき男がそう言いながら部屋の中に入ってきた。
「火殿グループから損害賠償の請求です。ざっと……」
「知るか。お前達で対処しろ。おれは今忙しい」
側近の男の報告を、財亜万太郎は遮って一蹴した。
彼は業務中にも関わらず、ワインを仰いでいた。こんな朝からワインが飲めるのも、成功者の証である。
「おれは成功者。おれは世界一幸運な男だ」
そう自分に言い聞かせる財亜万太郎。
彼は日本トップクラスの大企業、「財亜グループ」総帥の子として生まれた。
そこまではよかった。彼にとって最悪だったのは、自分が末弟で、そのままではトップになる目がなかった事である。
プライドと権力欲だけは高い財亜万太郎は、それが許せなかった。
そんな時、「悪魔」が現れた。
悪魔は「アモン」と名乗り、甘い汁を吸わせてやると言った。彼は迷わず飛びついた。
「ただし、代償はある。それは私を社長夫人とし、私にも甘い汁を吸わせる事だ」
財亜万太郎は、その代償も二つ返事で了解した。
悪魔を名乗る女性は美人で、彼女を嫁にするのも悪くないと思ったからである。
そこから、万太郎は巨万の富を築いた。全ては「アモン」という優秀な社長夫人がいたからである。
悪魔である「アモン」との間に子供はいない。悪魔なんかと子を作りたくないと考えていたからである。
なので妾を取り、子を成した。
一、十吉郎、百、千尋のニ男ニ女、みんなかわいい子供達である。
万太郎は、この内誰かに自分の跡を継がせようと考えていた。
―――あの時までは。
数時間後、目を覚ましたユニ達は、紫音の発明室に来ていた。
紫音は自分の高性能パソコンを開く。
「成程、ネットサーフィンか」
ユニが納得した様に言う。
「そうじゃな。IIOにも情報収集を頼んではいるが、こういうネットの海に有力な情報がある事もある」
紫音は試しに「財亜グループ 不祥事」と検索をかけてみた。
「ビンゴじゃ」
あるサイトには、様々なパワハラやセクハラの一例が掲載されていた。
ある人は、ノルマの未達成を理由に「無能」「愚か」「バカ」などと理不尽な叱責をされた。
またある人は昇格したいなら……と上司とアレな事をやったなど悍ましい事が綴られており、五人はさすがに気分を悪くした。
メイに至っては昔を思い出したのか、ガタガタと震え出した程である。
メイは、ある時は頭上から水をかけられ、またある時は教科書やノートを破り捨てられた。
ネット上の一例は、まさにメイがやられた事を彷彿とさせるものだったのである。
上に挙げたのはあくまで一例に過ぎない。
中には明確な証拠となる上司からのメールなどが記載されているものもある。
「これをIIOに送って調べて貰う事にするか」
紫音はこれらをまとめてIIOに送信、更なる裏を取って貰う事にした。
「ここまで来るとさすがにな……」
ユニは顔をしかめたのだった。
財亜グループの、そして財亜家の崩壊。それは刻一刻と迫っていた。
悪魔との契約条項 第五十三条
生物学上、悪魔と人間との間に子を成す事は可能である。
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