契約その47 Gamerのからをやぶる!
ルアとメイのコラボの翌日の朝、瀬楠家のチャイムが鳴った。
「朝から一体誰が何の用だ?」
疑問に思いつつも、すでに起きていたユニが出た。
「あ、えっと……」
そういえば名前を書いていなかったので、ユニは言い淀む。
「高橋芽生だ。よろしく」
少女……メイが手を差し出してきた。
ユニは差し出された手を強く握り返すのだった。
「よろしくって言うのはつまり……」
「そう!ぼくもここに住みたいと思っているんだけど、どうかな?」
ユニには断る理由がなかった。
「歓迎するよ。メイ」
その後、メイの歓迎会も兼ねた朝食が振舞われた。
「それでさ!あの男を転ばせた手際のよさって言ったら何の!それでアゲハさんにも花持たせるんだからすごいよ!」
「ものすごくわかる!」
メイはユニが以前見せた男前ムーブを披露する。それに彼女達は同調し、ユニの話に花が咲いた。
新参者だが、秒で馴染んだのである。
「さすがVライバーなだけあるな。コミュニケーション能力が高い」
ユニが感心した。
「あ、そうだ。今日もまたゲーム実況しなくちゃならないんだ」
部屋はどこだ?と聞くメイ。ユニは実況するなら防音機能がある部屋の方がいいだろうと地下一階のある部屋へ招いた。
紫音謹製のその部屋は、いくらうるさくしようと隣の部屋へは3.0デシベル以下の音に抑えるというものである。
「よし、広さも十分、Wi-Fiも配信できる速度は維持できてる……。ありがとう。いきなり乗り込んできたのにこんなによくしてくれて」
メイの感謝の言葉に、ユニは構わないと言ってくれた。
地上に戻ったユニは、リビングにスーツ姿の男性が来ていた事に気づいた。
「誰?その人」
「ああ、紹介するね。『ポリプロ』の『Vライバー部門』のプロデューサーをやってらっしゃる越蓮さん。メイちゃんに話があって来たんだって」
ルアに紹介され、越蓮はユニに名刺を渡す。材質は軽いが、それなりの重さを感じた。
「同社所属のVライバー、『幻夢めいと』の移住を認めて下さりありがとうございます。彼女が移住を決めたのには様々な理由がありまして……」
越蓮が言うには、まず事務所が隣にあり、何かと便利な事。次に自分のガワを担当してくれた『黄桃ハル』も一緒に住んでいて、衣装違いなどのオファーをしやすい事という理由があるらしい。
「それと一番の理由が……」
越蓮はユニの耳元で言う。
「彼女、どうやらあなたにホレているそうなのです。ゲーム以外であんなに笑顔になる彼女を、我々は今まで見た事がありませんでした。これからの活動も、『あなたに見てほしいから』続けていくでしょう。おかしな話だとは思いますが……」
「全然おかしな事じゃありませんよ」
ユニは毅然とした態度で言う。
「そうだ!ここにいるみんな、全員ユニにホレてここにいるんだからな!」
ルーシーが言う。
「だからメイの気持ちはわかる。応援します」
全員がメイに同調したのだった。
ユニが言う。
「そうだ、越蓮さん。あなたがここに来たのはそれを言うだけじゃないと思いますが」
それを聞いた越蓮は、「本題」を切り出した。
いつもの配信が終わり、メイは大きく伸びをした。
チャンネル登録者も視聴数も上々、やはりルアとのコラボから大きく注目された様だ。
配信が終わったのを見計らい、誰かがドアをノックしているのが聞こえた。
「もう配信終わったから入ってきていいぞ」
入ってきたのはユニである。
ユニは、メイに越蓮が持ってきた「本題」の話をした。
「はあ!?ぼくが『顔出し』!?何でそんな話に……」
メイは乗り気ではない様だった。
「ルアとのコラボが思いの外好評だったから、次は実写でやろうっていう話になったらしい」
メイはしばらく黙ると、口を開いた。
「……ぼくが何でゲーム実況始めたかわかるか?」
「?」
「元々ゲームは、ぼくの生きがいだった。中学生の頃嫌がらせ……つまりイジメに遭っていて、引きこもりになったぼくを救ってくれたのがゲームだったんだ。始めて数ヶ月でオンラインゲームの大会で優勝して、ゲームの才能があるってホメられた。あの時は嬉しかったなあ……」
まるで語りかける様な語り口に、ユニも魅せられる。
「あれはゲームの世界大会の帰り道だった。優勝したぼくに、『ポリプロ』のスカウトマンが声をかけてきたんだ。『実況者』にならないかって。最初は断った。『顔出しはしたくない』って。自分に自信がないから。なら顔を出さない『Vライバー』はどうかって言われて……。才能があるって言われたから受けた。変わんないな」
メイは静かに笑った。
「名前は本名を文字って、それに行きつけのゲーセンの名前をつけた。キミ達と出会ったあの店だ。そして活動を始めて、じわじわと人気が出て……キミと出会った」
メイはイスから立ち上がって話を続けた。
「自分と同じ『才能』に出会えて嬉しかったよ。気づいたらキミを助けに行ってた」
メイはユニに背を向けて言う。
「『顔出し』するって事は、中学のアイツらにもバレるって事だ。もしかしたらファンの中に当時の奴らがぼくとは知らずに推してるのかも知れないな……」
メイはイスにゆっくり座って話を続ける。
「怖いんだ……アイツらがもしまたキバを剥いてきたらって考えると……しかも今回はそれがぼく以外にも及ぶかも知れない!もしそうなったら……ぼくは……ぼくは……!」
感情が昂り、だんだんと落ち着きがなくなっていくメイを、ユニは優しく抱きしめた。
「気にするな。おれ達はみんな強いからさ。『顔出し』の件はおれ達一緒に断ろう。わかって貰えるはずだから」
大粒の涙を流しながら、メイは強く頷いた。
リビングに戻り、ユニは待っていた越蓮に早速話を切り出す。
「大変勿体ない話なのですが……」
「ユニ!大丈夫だよ!そんな事しなくても!」
リビングまでやって来たアゲハが言う。
「顔出ししても、メイだとバレなければいいんだから!」
それから一週間後。
「幻夢めいと」と「ルア」の二回目のコラボが実現した。
メイは「幻夢めいと」のコスプレをやっている。
「よく考えたね」
ユニが言う。
「そう!元々衣装はウチの制服が参考になってるからそれを改造すればいけるし、髪型もウィッグを使えばOK!メイクも『幻夢めいと』に寄せちゃえば、誰にもバレないよ」
よく考えれば、「顔出し」と言ってもメイの真実の姿を映す必要はないのである。
コメント欄も「顔晒せ」という心ないものが散見されるが、メイにはそれすらもネタに昇華する強かさがあった。
コラボは大成功に終わった。
「ああそうだ!最後に……」
ルアを先に退場させ、「幻夢めいと」は神妙な顔持ちになった。
「まさか……!」
ユニには彼女が何をしようとしているのかがわかった。
悪魔との契約条項 第四十七条
イジメを行う者は、悪魔以下の存在である。
その行為を反省しなければならない。
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