契約その45 漆黒の最強gamer!
ユニとアゲハの代わりを申し出た少年の姿は、その周りにいた者達の視線を一身に集めていた。
その少年は黒のスニーカーに黒いジーンズ、黒いTシャツの上からは黒のパーカーを羽織り、時々口からフーセンガムが覗く。
「少年」とは言うが、よく見ると顔は中性的で、どっちが本当の性別なのか判断できなかった。
勝利を邪魔された男が威圧する様に言う。
「何だお前……遊びじゃねェんだぞ」
「遊びだよ。ゲームは」
一切動ぜず、負けじとその少年も言い返す。
「それに、言ったはずだろ?この人でも何でも連れてこいって。交代は認められるはずだ」
少年の言葉に、男は言い返せなかった。
「決まりだな。ぼくは百円(ゲームの1プレイ料)を入れて、そこから出たカードで戦う。さっきと同じルールだ」
少年はそう言うと、財布から百円玉を取り出し、筐体の中に投入した。
「ホントはウチもアイツに仕返ししたいんだけど……」
アゲハがそう呟くのを、ユニは黙って聞いていた。
さて、少年が召喚したのは、さっきユニが使ったチャイナ服姿の女性キャラだ。
いや正確には、そのキャラは水着を着ているので、チャイナ服姿ではないが。要するに衣装違いなのだろうか。
「ギャハハハハ!その水着バージョンは!最強と言われる通常盤のいい所を潰して悪い所をさらに伸ばしたっていう通常盤とは打って変わって最弱キャラと名高い奴じゃねェか!」
そのキャラを見た男は、そう言いながら嘲笑した。
「これはいいキャラが出たな」
少年は嬉しそうに語る。
「そうなのか?」
ユニが聞いた。
「ああ。キミが使ったキャラの下位互換のキャラを使って完膚なきまでに叩き潰される。あいつにとってこれ程までに屈辱的な負け方はないだろ」
確かにそうだ。
「でも負けたら元も子もないぞ」
「大丈夫。負けないから。格下相手に」
「格下?」
腐ってもあの男は全国大会の出場経験者である。それより格上とはどういう事だろうか。
男はさっきユニ相手に出したおじいさんのキャラを繰り出してきた。
ゲームの画面にReady Fight!の文字が表示され、戦いが始まった。
「さて、適当にボコってやるか……」
男はほくそ笑んだ。
それはまさに圧倒的だった。
男が少年を圧倒しているのではない。少年が男を圧倒しているのである。男の動きを、少年は完全に読んでいる。
男には、だんだんと余裕がなくなっていた。
「オイ!やれ!」
そんな中、男が指示を飛ばす。
別の男が少年に襲いかかろうとしたのである。
ユニはその男に関節技をかける事で制圧した。
「二度も同じ手は食わないよ……!」
頼みの綱の妨害行為も不発に終わり、男は少年に手も足も出ずに敗れたのだった。
男の方のゲーム画面には「You Lose!」という文字が浮かび上がっている。
怒りで震えている男。
「約束だ。カードを返せ」
少年が言い放つ。
「そもそもお前が使っていたジジイのキャラは、最強たるキャラのメタとして使われてたものだ。そんなキャラの下位互換にやられた気分はどうだ?」
それには反応せず、男は逃げようするが、ユニに腕を掴まれ、容易に止められてしまった。
そんな男に、ユニは追い討ちをかける。
「お前の罪はそれだけじゃない。お前、奪ったカードをネットオークションに出してるな?調べてみたら同一のアカウントから何枚も出品されている事がわかったぞ。おそらくあの共犯の男が出品してたんだろう。しかもついさっき『ザビー・ファクター』が出品されたのも確認済みだ。さっき奪った奴だろうな。限りなくお前の仕業である可能性が高い」
男はユニの腕を無理やり振り解いた。
「それにしても、かなりお粗末な作戦だ。まず夏休みだからっていつも小学生がいるとは限らない。いたとして小学生がレアカードを持っている保証がない。そして何より悪手なのが、そもそも子供からカードを巻き上げる事それ自体だ!」
「何をォ!?」
激昂した男は、ユニの方へ向かっていった。
ユニはその足を軽く引っ掛けてつまずかせると、アゲハに言った。
「アゲハ!そのまま拳を思い切り前に突き出してみろ!」
「え?こ、こう?」
アゲハは言われるままに拳を力の限り突き出した。
すると、ちょうどアゲハの拳の所につまずいた男のアゴが来る形になり、拳が男のアゴにクリーンヒットした。
「ゴッ……!」という鈍い音が響き渡る。人体の急所を突かれる形になった男は、そのままうつ伏せに倒れて気絶した。
「あ、やった」
「さっきコイツに仕返ししたいって言ってただろ?それと警察だ」
ユニが言った。
「さてと……」
ユニは男のポケットからカードを奪うと、カードを取られた小学生の少年の方に行く。今回の被害者は彼だけである。
ユニは、そんな少年に腰を落として同じ目線に立ち、言った。
「ごめんな。少年。キミの持ってたカードは、すでにあの共犯の男が持って行っちゃったみたいだ。そのお詫びとしては何だけど、ほらあげるよ。このカード。最強なんだろ?」
ユニがあげたのは自分がさっき当てたチャイナ服姿の女性のカードである。
「大切にしろよ」
ユニはそう言うと、少年の頭を撫でる。そして立ち上がると、「帰ろうか」とアゲハに言う。
そして自分の代わりに戦ってくれた少年にお礼を言うと、その場を後にした。
「一夏に、自分に優しくしてくれたギャルのお姉さん」
それが小学生の少年の初恋だった。
「中々面白かったな。ネタになりそうだ」
ゲームに勝った少年、いや少女「高橋芽生」はそう呟くのだった。
彼女は、世界大会で優勝する程の実力者だった。
家に帰ってきた二人は、ルアがあるVライバーとコラボする事を知った。
「そうなの。ウチの『ポリプロ(ルアの所属する芸能事務所)』がね、所属しているVライバーと私とのコラボを決めたの」
「ポリプロ」は最近、時代に合わせてルアが所属するアイドル部門の他にも「Vライバー部門」を作ったらしい。
その宣伝も兼ねたコラボなのだという。
ルアが話を続ける。
「そしてチャンネルの名前が『めいとちゃんねる』っていうらしいんだけど」
驚愕するユニとアゲハ。ちょうどその時、家のチャイムが鳴り響く。
コラボ相手が来た様だ。
悪魔との契約条項 第四十五条
人間の人生はゲームではない。誰もその人生を好きにしていいはずがない。
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