契約その43 大変!mamがやって来た!
瀬楠家が大幅改築されたされた日の、その十九時頃。
アメリカはニューヨーク発の飛行機が東京に降り立った。
お盆が近い事もあり、乗客はそこそこ多い。その中でも、一際目立つ女性が降りてくる。
この真夏にタイトスカートにスーツを着ている所を見ると、どうやらキャリアウーマンらしい。
クール系の美女で周囲の視線を集めているが、外見では正確な年齢はわからない。
そんな彼女は、数年振りに日本に足を踏み入れた。
「久しぶりね……日本も……」
彼女は機内に持ち込める程度の小さなキャリーバッグを引き、空港を後にしたのだった。
その日の夜、夕食の時間にユニ達は自分達の親の話になっていた。
「おれの父親?」
「そう。お母さんの話は聞いた事あるけど、お父さんの話は聞いた事ないからさ。私も見た事ないし」
夕飯のカレーを口に運ぶユニに、七海が言った。
「……さあ、知らないな。どこにいるのかもわからない。でもおれがこうして存在している以上、おそらくいる、あるいはいた事は確かだろうが……、生まれてこの方顔も見た事がない」
ユニは割と不機嫌そうに語った。
「逆に由理には母親がいなかったから、おれの母親と由理の父親が結婚したって聞いた。まあ、そのおれにとっての義理の父親も、ちゃんとは会った事ないんだけどさ」
「結構複雑なんだな」
アキが言った。
「みんなはどうなんだ?」
ユニが聞く。
「わしは結構自由にさせて貰っとったよ」
紫音の家は発明一家、娘の発明にも寛大なのだろう。
「私達の親も……まあ普通だと思う」
七海、アキ、藤香が言った。確かにそんな感じがする。
「おれの両親は、まあ母親はテロリストを検挙する役割を持つ人物、まあ警察官みたいなもので、父親もそういった警察組織のトップなんだ」
ルーシーが言った。母親には会った事があったユニだが、父親がそんな重職にいたなんて知らなかった。
「私の両親は……火殿の超重役についているのですわ!」
どれみが言うには、持っている固定資産や株などもとんでもない額になっているらしい。
仮に亡くなった際の遺産分与などをもうすでに始めているという。
「ウチは……パパはどこにいるかもわからないかな。だからママは女手一つでウチを育ててくれた」
アゲハは素直に語った。その瞳はどこか寂しそうだった。
「私の……両親……?」
次は自分の番だと思ったルアは両親について思い出そうとする。
しかし、ルアは途端に動揺し出した。
こめかみの、露骨に髪で隠していた部分を激しく掻き出す。
「う……うう……」
その尋常じゃない行動に、ユニは全てを察し、ルアを強く抱きしめた。
「もういい、もういいよ。何も話さなくてもいいからさ、そうだよな。両親の話なんてしなくてもよかったよな。ごめん」
夕食どころではなくなったルアは、そのまま席を立ったのだった。
その深夜。ユニの部屋にルアが現れた。いつものテレビで見る華やかな雰囲気はなく、どこまでも弱々しい雰囲気を伴っていた。
「ルア……」
ユニが呟く。
「今日は……一緒に寝て欲しいの」
ルアが訴えかけた。涙目になっている様だ。
ユニの持つ答えは一つである。
「ああ、当然だ」
ユニは快くルアを受け入れたのであった。
「家族の事を思い出すのがイヤなら、おれ達がキミの新しい家族になってやる!」
ユニは、まるで自分にも言い聞かせる様に、ルアに約束するのだった。
翌朝。瀬楠家のインターホンが鳴った。
「はい、どなた?」
インターホンに出たユニが聞いた。
しかし、その姿を見るなりユニは驚いた。
「ウソだろ……」
ユニは、意を決して玄関に出たのだった。
「……おかえり」
そのスーツ姿の女性は、これまで纏っていたクールな雰囲気をかなぐり捨て、顔を歓喜に歪ませながらユニに抱きつきながら言った。
「ただいまー♡いやーどうしたの?しばらく見ない内に女の子になっちゃって!」
「!!?」
それを聞いたユニは驚く。
そもそもこの世界は、ルーシーとの契約の代償として、ユニが元々女性であるという前提の世界に改変されている。
ユニが元男性であるという事は、義理の妹である由理すらわかっていなかった事である。
肉親だから例外的に覚えているのか?
「まあ、これはその、ちょっとヤボ用で……」
「まあ、世界はそういうのにも寛容になってきたし、今更それについて批判するのはナンセンスだと思うけど!」
母はそう言った。
「ユニ?一体何が……」
みんながリビングから出てきた。
「ああ、みんな、紹介するよ。この人がおれの実母の……」
「瀬楠由衣でーす!よろしくねっ!」
何かイメージと違うとみんな思っていたが、各々自己紹介をした。
「今はみんなで住んでいるんだ。それに伴って家も色々改装してる。見る?」
ユニが聞く。
由衣は少し考えて言った。
「いや、今はやめておくわ。それに今日あなた達の元を訪れたのはたまたま日本に帰る予定があったからだし」
「え?もう行くのか?せっかくだからゆっくりしていけばいいのに」
ユニが言う。
「中々そうもいかないのよね〜。忙しいし」
そうか。とユニはどこか残念そうだが納得した。
「今はこの娘達があなたの家族なのね。じゃあね」
由衣はドアを開けて去ろうとする。そこに、ユニが言う。
「別に、帰ってきてもいいんだぞ!ここはあなたの家でもあるんだから」
ユニのその言葉に、由衣はどこか嬉しそうに反応すると、去っていったのだった。
「何だか嵐みたいな人だったな」
ドアが閉まるのを確認してから、ルーシーが呟いた。
瀬楠家を立ち去った由衣は、「高校生ぐらいの少女達と一緒に住んでいる」事と「息子がいつの間にか女の子になっている」事について考えていた。
理由は一つしかない。
「悪魔と……契約したのね……かつての私の様に……」
由衣はそう意味深に呟くと、新たな取引場所へ向かっていくのだった。
悪魔との契約条項 第四十三条
悪魔と契約した者は、悪魔の力による世界改変に対してある程度の耐性を持っている。
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