契約その41 夜空に咲くfireworks!
時刻は十八時を回り、ただでさえ多い人通りが多くなってきた。集合場所になる中央公園に行くのも一苦労である。
ユニは一人だけでも楽しもうと思った。
ユニは「わたあめ」と書いてある屋台が目についた。
こんなに混雑してるのに、店主のおじさんが無愛想であまり繁盛してない様だ。
ユニは小銭を差し出しながら言った。
「おじさん、わたあめ一つちょうだい!」
そのおじさんは小銭を受け取ると、何も言わず手早くわたあめを作って渡してくれた。
わたあめはユニの顔より一回り大きいサイズである。
「……まいど」
「ありがとう」
ユニはそう言い残し、屋台から少し離れると、立ち止まってわたあめに食らいついた。
「はむっ……甘くてうまいな。中々の腕だ。もっと繁盛しててもよさそうなのに。あの店」
ユニはそう呟いた。
これで少しお腹も膨れた。
「せっかくだから食い倒れるか……」
ユニは中央公園を目指しつつ、その道中にある屋台を回っていく事にした。
一方ルーシー、アキ、藤香サイド。
ルーシー達も人混みの多さで動きづらくなったので、とりあえず楽しむ事にした。
三人は「ヨーヨー釣り」の看板を見つける。
「ヨーヨー釣りか」
「やってみる?」
三人はお金を出し、フックがついた紐を受け取る。少しでも力を入れると切れてしまいそうだ。
「こういうのは慎重にやらねェといけないんだよな」
しかし、ルーシーは不器用である。ヨーヨーの輪にフックをかける事も叶わず紐が切れてしまった。
「私に釣られてみろよ!」
アキはそう言い、意気揚々とヨーヨー釣りに挑む。
ヨーヨーの輪にフックをかける事には成功したので、ルーシーよりは上手くできたが、途中で切れてしまった。
最後の砦は藤香である。
二人の期待を背に受け、挑む。
藤香はそーっとヨーヨーの輪にフックをかけ、持ち上げる。
「よし、獲れた」
獲れたヨーヨーをルーシーに渡し、また挑む。
さらに二個程追加し、何と合計で三個取る事に成功した。
藤香は坊主に終わった二人に獲ったヨーヨーをあげた。
「あ、ありがとう」
「まあ、漫画描く時は微妙な線のブレでキャラクターの表情が全然違うなんて事もあるし、こういう『指を使う』事に関しては僕はプロだからな」
誇らしげに藤香は語った。
三人はヨーヨーを弾ませながら、楽しみつつも中央公園を目指すのだった。
次に由理、紫音サイド。
「へー射的か」
「やってみる?」
お金を払い、二人は渡されたコルク銃を構える。
由理は早々に撃ち果たしてしまった。結果はなしである。
一方、紫音はメガネを操作していた。
「何してるの?」
由理が聞く。
「メガネで風速や風向きなどを測って射撃に役立ててるのじゃ」
そういえばそのメガネにはそんな機能があった。でもわざわざお祭りの縁日でそこまでしなくても……。
そんな呆れる由理に、紫音が言う。
「負けるのはイヤじゃからな。『自分の発明品を使ってはいけません』っていうルールがあるのか?」
そりゃ確かにないけど……。由理がそう思った瞬間、紫音が第一射を放つ。
見事キャラメルの箱に命中した。
「よし。何か欲しいものはあるか?獲ってやろう」
「じゃあ……」と由理はペアぬいぐるみを指差した。
「一つはお姉ちゃんに渡すの」
「よし、任せとけ」
紫音はぬいぐるみに見事なヘッドショットを決めたのだった。
その後もお菓子を中心に獲り、全弾命中という結果になった。
「ありがとう色々と」
由理はお礼を言った。
「何、安いもんじゃ」
紫音はワハハと高笑いしながら言った。
由理はさっき獲って貰ったぬいぐるみの一つを渡して言った。
「やっぱりこれあげる。あなたに獲って貰ったものだし」
紫音は少し驚いた顔をしたが、素直に受け取る事にした。
「ありがとう。大切にするぞ」
ぬいぐるみを抱えながら、二人は中央公園を目指すのだった。
そして七海、ルアサイド。
お祭りの最中だが、開いている一般の店もある様だ。ルアは脱げた草履の代わりのサンダルを買って履いた。
安物だがないよりマシである。
破れた浴衣も、上着を羽織る事で誤魔化した。
そんな二人がやってきたのは輪投げコーナーである。
二人はお金を渡してチャレンジする。
「そおれ!」
「うまいうまい!」
ルアの手首には「オーラ無リング」が光る。今の所不具合はない。
二人は楽しく祭りを楽しんだのだった。
アゲハ、どれみサイドは「くじ」の屋台の前にいた。
「成程……店員のご長老の方!このくじみんなくださりませんか?」
「ちょっと!?」
すごい事をやろうとしたどれみを、アゲハが必死に止める。
「何で止めるんですの?」
「他の人がいるし!それにくじの意味ないよ!?」
こういうのは運試しで、経済力によるゴリ押しは御法度だとどれみに言い聞かせた。
「じゃあ一つだけ……」
どれみはお金を払い、くじを掴む。結果はハズレ。
「ハズレですか……」
肩を落とすどれみに、アゲハは自分のスマホを自撮り棒につけて言った。
「はいチーズ!」
いきなりの事だったので、どれみの驚いた顔が写真に写った。
「ふふっこういう経験だけでも『イタイゲンキン』って奴でしょ!」
「値千金」の間違いである。
こうしてお金には変えられない経験をした二人は、中央公園へと急ぐのだった。
中央公園。真っ先に着いていたのは、一人で連れを気にする必要のないユニだった。
そこにやがて全員が揃う。
「やっとみんな揃ったな」
あれからユニはタコ焼き、イカ焼き、りんご飴、フライドポテト、かき氷と屋台を制覇して回った。今もなおたこ焼きを抱えている。
「次はどうするんだっけ?」
「打ち上げ花火だろ?二十時からやるんだ」
ユニはタコ焼きをルーシーに食べさせながら言った。
「じゃあよく見える位置に移動しなきゃ」
タコ焼きを食べ終わったルーシーが走り出そうとする。
「いやでものう……この時間じゃいい所は全部取られとるだろうし……」
紫音は自分の腕時計を見ながら言った。時刻は十七時四十五分過ぎ。今から場所取りしてても間に合わない。
「それなら……。あそこだな」
ユニはみんなについてくる様に言った。
訪れたのは学校の裏にある山である。
ここが実は穴場である事はあまり知られていない様だ。
「ほら。始まったぞ」
ユニが空を指差すと、色とりどりの花火が夜空を彩る。
ユニ達はそれに目が釘づけになった。
「なあユニ」
花火を見上げながら、ルーシーがユニに話しかける。
「何?」
「おれさ、今日の日を絶対忘れないよ。たとえ千年、二千年経とうがずっと……」
「そうか。それはよかった」
そう言うユニの笑顔を、花火が明るく照らすのだった。
悪魔との契約条項 第四十一条
人間と悪魔では寿命が違いすぎるが、共に過ごした思い出は永遠のものとなる。
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