契約その36 おれのhappy、みんなのhappy!
「APES」の計画は失敗に終わり、火殿グループと財亜グループは揃って大損する事になった。
この件については「痛み分け」という意見が大半である。
そして紫音はIIOからの永久追放もあり得たが、まだ幼い事や事態収束などから、中学卒業までのIIOとしての資格停止処分という非常に寛大な措置がなされた。
幸いにも犠牲者がいなかった事が大きいだろう。
ユニ達は、ぐちゃぐちゃになった家の掃除を余儀なくされた。
割れた食器を片付け、壊れた家具の買い直し、床や壁、天井も入念に拭いた。
ルーシーが「悪魔の力」を使えば一瞬なのだが、本人曰く使いすぎたせいでしばらく回復に時間がかかるらしい。
そしてそれら全てが終わった時、すでに八月上旬に差し掛かっていた。
ユニは、自室のベッドに横になり、考え事をしていた。
「『みんなの幸せはおれの幸せ』おれはそう言ったが、果たしてみんなは幸せなのか?」
気になったユニは、みんなに聞いてみる事にした。
リビングに降りると、どれみが自分のパソコンの前に座り、商談を取りまとめていた。
ユニはひと段落ついた所を見計らって、幸せか聞いた。
「当然ですわ!あれぐらいの損失、火殿グループにとってははしたもの、リスクを恐れていてはビジネスなどできませんから!それにあなたはまた、私を助けてくださいましたし……」
どれみが笑顔で答える。
「そうか。よかった……!」
続いてユニは、紫音の部屋に移動する。
「いい?入るよ?」
紫音は、新しく買い替えたパソコンの前に座っていた。オンライン会議をしている様だ。
「誰と話しているんだ?」
ユニが聞く。
「IIOのジジイ共じゃ。別に交流は禁止されてないからな」
ユニは、紫音に幸せか聞いた。
紫音はパソコンから目を離し、ユニの方を向いて言った。
「あのAIを創ったのはわしの責任。なのにみんな真摯になって助けてくれた。これ以上幸せな事があるか」
「そうか、よかった」
ユニは再びリビングに戻った。
すると、ルアが家に帰ってきていた。仕事の合間に帰ってきたのだろう。しきりに制汗スプレーを全身に吹きかけている。
「ルア……」
「わー待って!今の私汗臭いから!」
ルアは近づこうとするユニを両手で静止した。
「別に気にしないよ」
「え?そう?」
それはそれで何かイヤだったルアだったが、とりあえず気を取り直す。
それからユニはルアに幸せか聞いた。
「勿論、幸せだよ。ユニはアイドルしかなかった私に『愛』を教えてくれた。ありがとう。ウソつきさん♡」
ルアはユニに投げキッスをした。値千金のファンサービスである。
再び仕事に出かけたルアを見送り、ユニは今度は藤香の部屋へと足を運んだ。
藤香もまた、自分のパソコンと睨めっこしていた。
ユニに気づいた藤香は、作業がひと段落すると、ユニの方へ体を向けて言った。
「今週は巻頭カラーなんだ。忙しいから用なら手短に済ませてくれないかな」
それは悪いと思ったユニは、また改めて来ると出ていこうとした。
「僕は、幸せだぞ」
去ろうとするユニの背中に、藤香が言った。
「『初恋エターナル』を僕の手で完結させるっていう目標ができた。『黄桃ハル』も『足塚藤香』も、両方とも自分なんだって気づけたから」
ユニが幸せかどうかを聞きに回っている事は、誰かから聞いていた様である。
「それはよかった」
ユニはそう言うと、藤香の部屋を去った。
次にユニが訪れたのは、アゲハの部屋だった。
アゲハは冷房が効いた部屋でベッドに寝っ転がり、SNSをチェックしている。
「アゲハ」
アゲハはユニの存在に気づき、体を起こすと、いつもの様に明るく言った。
「あ!ユニち!どんなごよーけん?」
「キミは今幸せか?」
「もっちろん!」
アゲハは胸を張って答えた。
「だってウチさ、今まで友達いなくてさみしかった」
「でも!ユニちとみんなと出会えたから、今ではこんなに友達もいて!毎日が充実ちゅー!感謝してるよ!ありがとう!」
「よかった」
アゲハと別れたユニは、学校の指定ジャージを着て外に出てみる事にした。
真夏の太陽が照りついていて暑い。どこかで涼みたいと考えたユニは、「甘味処たちばなし」に寄った。
「いらっしゃい。あ、ユニ!」
店内に入ったユニを、バイトしていたアキが出迎える。
暑い日中にわざわざ外に出る人はほとんどいないらしく、店内の客はユニ含めて数人しかいなかった。
注文を聞きにきたアキに、ユニは言う。
「なあアキ。キミは今幸せか?」
いきなりの質問にアキは少し驚いた様だが、答えてくれる。
「何だいきなり。幸せだよ。自分にピンチの時に助けてくれる人がいるだけで。ありがとう。マイヒーロー」
「それはよかった」
ユニは注文した白玉あんみつを食べ終えると、再び炎天下の外に出た。
次にユニは学校を訪れた。指定ジャージを着たのもその為である。
夏休みなので授業はない。しかし部活中の生徒達の声が響いている。
そんな中、グラウンド上で一際目立つ女子生徒がいた。
女子総合陸上部主将、七海である。ユニに気づいた七海は、駆け寄ってくる。
「調子はどうだ?七海。」
「うん。バッチリ。夏にもまた大きな大会があるからね。それに向けて練習しないと」
ユニは七海にペットボトルの水を渡す。七海はそれを飲みつつ、ユニの隣に座った。
「なあ七海。キミは今幸せか?」
「……幸せだよ。あの時ルーシーが応援に来てくれなかったら、どうなってたかわからない」
「あの時女子陸上部を廃部にしなかったら……もしあの事故で……そんな積み重ねで今の幸せがあるんだって思ってる」
「女子総合陸上部を救ってくれてありがとう」
「ああ」
後輩に呼ばれて七海は去っていった。ユニは今度は校舎内に入る。
「あ、姉さん」
「由理」
どうやら由理はまた委員会の活動で忙しいらしい。大量のプリントを持たされている様だ。
「持つよ。どこまでだ?」
「ありがとう。あそこの教室まで」
横に並んで歩きながら、ユニは由理に話しかける。
「なあ由理、今幸せか?」
「勿論!」
由理は食い気味に言う。
「大好きなお姉ちゃんと一緒に暮らせるだけで幸せだよ」
「ブレないな……よかったよ」
少し呆れたユニだったが、プリントを運び終えると由理に別れを告げて帰っていくのだった。
その道中、黒い光が現れたと思うと、その光は人の形を取り、中からルーシーが現れた。
「ルーシー。里帰りは終わったのか?」
「大変だった!例の事件について色々聞かれたんだ。もうクタクタ!早く帰ろうぜ」
「なあルーシー。今キミは幸せか?」
ユニの質問に、ルーシーは少し考えて言った。
「初めて会った時さ、お前おれの事を対等に見てくれたよな」
()確かにそうである。
「あの時まで、人間は悪魔って聞いたら恐れるか、利用しようとするかっていう奴ばかりだったんだ」
「そんな中対等に接してくれる奴ができて、たぶんおれの恋はそこから始まったんだと思う。だから幸せだよ」
「よかった」
ユニは胸を撫で下ろした。
夕食の時間になり、全員がリビングに集まる。一週間前後みんな休みが取れるとの事で、海に行こうという話になった。
「そういえばさ、ユニみんなに幸せかどうか聞いて回ってたんだろ?そう言うお前はどうなんだ」
ルーシーが聞く。
みんな聞きたいという顔をしている。
聞かれたユニは自信を持って、満面の笑顔でこう返すのだった。
「ああ、幸せだよ!」
悪魔との契約条項 第三十六条
誰にでも、幸せになる権利がある。
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