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契約その34 APESを止めろ!

 真っ先に目を覚ましたのはユニであった。


「みんな大丈夫か!?」


 辺りに広がる幾何学模様。


 それに加えてユニ達の体は所々に黒いノイズの様なものががかかっており、その姿はまるでバグに侵食された様であった。


「うわっおれ達どうなった!?」


 続いてルーシーも飛び起きた。


「わわっ!何だコレ!」


 ルーシーも、自分の体のあちこちを観察しながら、ノイズがかかった自分の体に驚いた。


「これがたぶん『APES』が言ってた『世界を電脳世界に創り変える』って事なんだろうな」


 落ち着きを取り戻したユニが言った。


 そして次々と起き上がっていく仲間達。彼女達もまた一様に黒いノイズに蝕まれている様だ。


「あのさ……紫音」


 ユニが声をかけようとしたその時、紫音は慟哭した。


「くそっ……これが……これが『平和』なのか……『幸せ』なのか……?」


 そしてパソコン越しに「APES」に叫んだ。


「オイ!本当にこれがお前の出した『結論』なのか!?答えろ!『APES』!!」


「APES」はすぐに答えを返した。


「その通りです。マスター。先程も申し上げた様に、私は人間の手では真の平和など不可能という結論を出しました。全世界が電脳世界に変わり次第、私自身が選出した『真の平和』に必要な者を生かし、そうでない者を()()フェーズに入ります。人間の平和と幸せは、全て私自身が管理します」


 こちらに一切反論させない冷たい言葉だった。


「つまり人間の選別……間引きをするっていうのか……!?」


 パソコンを前に、紫音が呟く。


「フザけんなァア!」


 声を荒げたのはユニだった。


「平和も幸せも!人間自身が叶えていくものだ!お前の好きになんかさせない!」


「ユニ……」


 そのあまりの剣幕に、みんなは動揺する。


 そんな中でも、「APES」は極めて冷静だった。


「……まあいいでしょう。『真の平和』に必要ない者は消す。ただそれだけです」


「APES」はそれ以降、沈黙してしまった。


 紫音の問いかけにも、一切応じなくなってしまったのである。



 この結果に、紫音のスマホにはひっきりなしに連絡が届く。そのほとんどが「APES」に関する事だ。


 紫音はその対応に追われる事となった。


「一体どうする?」


 アキが言う。



「ねェ大変!」


 アゲハがそう言いながら、みんなに自分のスマホの画面を見せた。


「『APES』、めちゃくちゃ炎上してる。ネット上で色々な議論が勃発しているみたい」


 中には、承認欲求を満たす為か、ノイズに侵された自分の体をSNSにアップされている者もいた。


 みんな事の深刻さに気づいていない様である。


 その様子を見て、さすがのユニも呆れていた。


「なあみんな」


 ユニが聞く。


「みんなはどうしたい?このまま支配されるか、あるいは戦うか。どっちに転んでも、おれはその意志を尊重する」


 ユニも、さっきの人々の反応を見て自信が持てなくなっていた。だからみんなに意見を問うたのである。


「そんなの決まってる。おれは戦う!」


「私も。お姉ちゃんが諦めても、私が諦めない」


「当然私も!このまま黙っているなんてできない!」


「アイツを止められるのは私達だ!」


「そもそもこのノイズ全然オシャレじゃないし!」


「漫画だって描けなくなるかも知れないし」


「アイドル活動だって!」


「私もこの一件の片棒を担いだ責任がありますわ!」


「みんな……」


 揺れ動いていた自分がバカみたいだとユニは思った。彼女もまた、覚悟を決めた。


 ユニは紫音の方を向く。


 紫音のクレームの電話もようやく落ち着いた様だ。


「みんなの意見は決まった。キミはどうしたい?」


 ユニが聞く。


 それを聞いた紫音はみんなの方を向いて、そして深く頭を下げた。


「みんな、すまない。わしの勝手で巻き込んで……謝っても謝り切れない」


「紫音……」


「わしにはあの怪物をこの世に生み出してしまったという罪がある!必ず止めなくてはならない!だから頼む……力を貸してくれ……」


 紫音はさらに深く頭を下げたのだった。


 ユニは、紫音の両肩を叩いて言った。


「もう、謝罪は終わりだ!アイツを止める方法を考えよう!」



「まず()()()結論として、こういう事が起こる可能性も考えていた。その対策もな」


 紫音はそう言うと、コードで繋がれているヘルメットの様なものを取り出した。


 ヘルメットは八つあり、それぞれが枝分かれしてコードで一つになっていた。


「何だコレ」


 ユニが聞く。


「このヘルメットを一人ずつ被って、コードでパソコンに繋ぐ。そうする事で、被った人の思念を()()()()電脳世界に送る事ができるんじゃ」


「でも九つしかない。僕達は十人だ。一人はどうするんだ」


 藤香が聞いた。


「そこがキモじゃ」


 紫音が人差し指を立てながら言う。


「まずわし達の誰かが『悪魔の力』を使いながら電脳世界に突入する」


「その間、残された九人はその代表に思念、つまり「思い」を送り続け、『悪魔の力』を増幅させる」


「そして増幅させた『悪魔の力』で、同じ『悪魔の力』を有する『APES』のコアを砕く。それがその作戦じゃ」


 しかし、問題は誰が電脳世界に突入するのかである。一番危険な立場。その役割を自ら志願した者がいた。


 ユニである。


「このメンバーはみんなおれへの『思い』で集まってきたんだ。それに『悪魔の力』を使った前例もある。おれが適任だろ」


 ルーシーは、悪魔である自分が志願しようとしていたが、そう言われると引き下がる他なかった。


「じゃあルーシーと契約して、悪魔の力を一時的に貰い、その力と思いの力を合わせて、『APES』のコアを破壊する。それでいいか?」


 ユニが聞く。


 もう議論の余地はない。


「時間がない。早速やるぞ」


 紫音はパソコンの前に座る。電脳世界に突入したユニの身を守るプロテクトデータを常に作り続ける役目があるからである。


 その紫音を含めた九人は、ヘルメットを被り備える。


 ルーシーは「ルシファー」となってユニと再び契約した。


「契約、成立」


「ルシファー」はユニの髪をむしると、それを口に含んで飲み込んだ。


「『代償』は?」


 ユニが聞く。


「『代償』は、お前が無事な姿でここに戻ってくる事だ。必ず守れよ」


 それを聞いたユニは、強く頷いた。


「よし!」


 ユニは「悪魔の力」を行使した。背中から翼が、口からは八重歯が生える。


「行くぞ!」


 現実世界と電脳世界の境目は曖昧になっている。何か特別な事をせずとも、電脳世界に飛び込む事はできる。


「うおォォ!」


 ユニは「悪魔の力」を使い、加速していった。すかさず九人はユニへの「思い」を伝え始める。


 ものすごい力だった。プロテクトデータの力もあり、ユニは「APES」の妨害をもろともせずに突き進む。


「世界を……平和に!世界を……平和に!」


 しきりに繰り返す「APES」。ユニは右腕を前に突き出し、さらに回転を加える。


 こうする事で軸が安定する上に突貫性も高くなるのである。


 まもなく「APES」のコアに到達する。ユニはドリルの様に回転し続け、ついには穿った。


 尚も平和と連呼する「APES」。ユニはその様をどこか悲痛な顔で見ていた。 


 その時、紫音の指示が飛ぶ。


「いいかユニ!『APES』崩壊の余波で、こっちの世界への穴が開く!それを通って脱出するんだ!」


 しかし、その衝撃の大きさは紫音の想定を超えるものだった。


「マズい!衝撃が大きい!早く逃げるんだ!ユニー!」


 ユニは爆発に飲み込まれ、見えなくなった。



 悪魔との契約条項 第三十四条

「悪魔の力」は、「人間の思いの力」と合わさる事で、より強い力を発揮する。

読んで下さりありがとうございます。

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