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契約その33 完成!最強AI!

「えいぷす?」


 ルーシーの頭にははてなマークが浮かんでいた。


 言語化すらも上手くできていない様だ。


「Apesか……『類人猿』って意味だな。最強AIの名前としては中々悪趣味だ」


 ユニが評した。


「偶然じゃよ。『Amazing Peacekeeping Electronics Systems』、訳して『驚異的平和維持電脳システム』。そしてその頭文字を取って『APES』じゃ。ちなみにわしが考えたものじゃない」


 紫音がぶすっと言う。


 その反応から、どうやら紫音は、このネーミングに不満を持っている様だ。


「そのAIに『悪魔の力』を組み合わせるって……そんな事可能なのか?」


 ユニが言う。


「今まで誰もやった事がないからは誰も知らなかっただけで、システム上は可能なのじゃ」


 そうなのか……。ユニは静かにそう言った。紫音の夢が叶うというだけで、これ程嬉しい事はない。


「今は開発の最終段階!この分で行けば今日か明日の朝には完成する予定じゃ。まさにラストスパート!」


 紫音はそれだけ言うと、再び自室へと入っていったのだった。


「でもよかったな。紫音の夢が叶いそうで」


 ユニが明るく言ったが、その一方でルーシーは気難しい顔をしていた。


「どうしたんだよルーシー」


 ユニが聞く。


「何で今まで誰も『無生物+悪魔の力』をやってこなかったかわかるか?」


「?」


「誰も気づかなかったわけじゃない。()()()()()()()()()()()んだ」


「と、言うと?」


 ユニが質問する。


「人間や悪魔にはまだ『これをやったらどうなるのか』っていう思考力が備わっていて、理性で使用を抑える事ができる」


「でも仮に、その『世界を改変する程の力』をまだ思考力も何もない『赤子』が、自分の思いのままに使い出したらどうなると思う?」


 ルーシーが言う。彼女の危惧ももっともだ。


「成程、『類人猿』っていう名前もあながち間違いじゃないのかもな」


 ユニもその危険性に気づいた。


「『最強悪魔の力』を持つ敵が誕生するのか」


「そうだ。確かに力の一端を渡したおれにもその責任はあるけど、それをおれは一番恐れている」


 ユニも、勿論ルーシーも、仮にそうなっても対策を用意しているだろうと考えている。


 しかしこの計画は、もはや紫音一人では止められない領域まで来ていた。


 日本いや世界のトップたる「火殿」と「財亜」が出資し、IIOという世界の頭脳とも評される者達が開発に携わっているのである。


 多くの金と頭脳と労力が関わっているこの計画は、もはや世界規模の一大プロジェクトとなっていた。


 仮に失敗しても、誰か一人の責任という問題ではないのである。


「ネットでも話題になってるみたい」


 アゲハがユニ達に自分のスマホの画面を見せる。


 それを見ると、世界のトレンドを総なめにしている事が視覚的にわかる。


 ユニ達は自分達が直接関わったこの計画の大きさを改めて理解するのだった。


「改めて、私達ってすごい事やったんだ……」


 七海が呟いた。


「この計画が成功しようが失敗しようが、もはや誰にも止められないという事ですわね」


 どれみも言う。


「夏バテの防止として冷やし中華でも食べようか。私作るよ」


 由理が言った。


「私も手伝います」とルア。


 各々が自分の意思で動く状況で、ユニは何となくだが嫌な予感を隠し切れなかった。



 やはり夏に食べる冷やし中華は美味しい。みずみずしいキュウリに夏バテ防止になるトマトがいい味を出す。


 紫音にも持っていこうとユニは皿を持って紫音の部屋へと行くのだった。


 ユニは紫音の部屋の前でノックをする。


「もしもし?冷やし中華持ってきたけど、食べるか?」


 返事がない。


「開けるぞ?」


 ユニは確認すると、ゆっくりとドアを開けた。


「もしもし冷やし中華を……」


「わかった!後で食べるからそこに置いといてくれ!」


 紫音はパソコンに向かったそのままの姿勢で、机の上を指差す。


「わかった。ちゃんと水分は取れよ」


 かなり思い詰めている様子の紫音の事を心配するユニだった。



 紫音の見立てでは完成予定は翌日の朝との事だったが、実際の完成は完成予定日の、そのさらに二日後だった。


 疲れ切った表情で、紫音がリビングに降りてきた。


「できたぞ……APESが!」

 紫音が笑顔で言った。


「ホントか!」


「ああ!人類の叡智と悪魔の力を結集させた、このわしの想定を超える代物じゃ!」


 すぐに学会で発表するとの事である。


「今から出かけてくる!」


 そう紫音は言い残し、出ていった。



 夜中に帰ってきた紫音は、会心の笑みを浮かべた。


 どうやら発表は成功したらしい。


 そんな紫音に、ユニが聞いた。


「そもそもこのAIって何をするんだ?」


「名前の通り平和を維持、あるいは達成させるAIじゃ。この世のあらゆる問題のデータを参考に、世界が真の平和を手に入れる、その結論を出し、それを人類に提供、協力してくれるんじゃ。今現在も世界を平和にする『結論』を計算してくれている」


 紫音がパソコンの画面を見せてくれた。


 色々な幾何学的な模様が画面に映し出されている。素人には何が何だかわからない。


「電脳世界上に『APES』のコア、つまり『心臓』の様なものがあって、そこで様々なデータを計算しているのじゃ。過去二千年以内の様々な戦争、問題を元に計算するから、計算が終わるのに時間がかかる」


「そのAIなら、みんなを幸せにできるかな?」


 ユニが言った。


「ああ、できるとも」


 紫音は笑顔で答えたのだった。



「APES」の結論が出たのは、そのさらに三日後の事だった。


 ユニ達どころか、世界中が固唾を飲んで見守る中、「APES」が己の出した結論を発表する。


「マスター。結論が出ました」


 機械的な音声が流れる。これが「APES」の母である。


「おおそうか!言ってみい」


「この二千年を見渡してみても、人類が平和であった時期はありません」


「確かにそうとも言えるな。だからこそ平和は尊いものじゃ」


 紫音が返す。


「マスターの言う通りです。『平和』とは、()()()()()()優先されるもの。なのになぜか人類は、ただの一度も平和を成し得ていません。なので私は、()()()()、尊い平和を創り上げようと決めました」


「!?」


 紫音の顔が曇る。


「私の結論は、人間では真の平和は成し遂げられないという事です。ですが真の平和は成し遂げられなければなりません」


 その後の提案に、ユニ達は戦慄する事になる。


「なのであなた達人間には、私の支配下に入っていただきます」


「!?オイ今何と!?」


 紫音が聞き返す。


「言葉の通りです。私は人間ではないのでウソはつきません。世界を電脳世界に創り変える事で、私は世界を平和にします」


 その真意がユニ達もわかった。


「まず手始めに徐氏堂市全域から。そこを起点に電脳世界にしていきます」


「何!?」


 次の瞬間、さっきまで画面を覆い尽くしていた幾何学模様がパソコンから溢れ出してきた。


「マズイ!みんな伏せろォ!」


 危機を察知したユニは、みんなに力の限り叫んだのだった。


 悪魔の契約条項 第三十三条

AIの様な非生物に、「悪魔の力」を与えてはならない。

読んで下さりありがとうございます。

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