契約その32 どれみのkidnap!?
「どれみが……誘拐されたって本当か!?」
魔界から帰ってきたユニは改めて聞いた。
「本当にごめん……『買い物に行く』って言ってたから……止めずに……帰ってこないと思ってたら……テレビで『誘拐された』って言ってて……」
みんなはかなり責任を感じている様だった。
「ごめん。そんな大事な時に一緒にいれなくて」
ユニはみんなに心から謝罪した。
「何で誘拐されたの?」
ルーシーが言った。
ユニは自分の推測を口にする。
「動機は……色々考えられるな。まずは身代金目的。どれみは社長令嬢だ。一番わかりやすい。それと……おれが一番可能性があると考えているのが……」
「敵対勢力による誘拐だろ?」
藤香が続ける。
「ああ。それに身代金目的の誘拐ならわざわざテレビで公開する必要はないからな」
むしろ水面下で解決しようとするはずである。
「大方火殿グループ内のスパイがマスコミに情報をリークしたっていうのが真相だろう」
まったく、ひどい事をする。みんなは憤った。
「娘が誘拐されたとあっては火殿グループの信頼はガタガタ、それで一番得をする勢力と言えば……」
「財亜グループ……」
みんなは口を揃えて言った。
「だろうな……」
その時、紫音が口を開いた。
「要するに、どれみの場所がわかればいいんじゃろ?」
「わかるのか!?」
ユニがすがる様に紫音に聞く。
「火殿グループから支援を打ち切られたら困るのでな」
紫音はそう言いながら、自分のスマホを取り出した。
「わしのヘアピン、どこにあるかわかるか?」
確かに、今の紫音の頭にはヘアピンがない。
「それを発信機としてどれみに渡してた。やはりこういうのは身につけてても違和感ないものに仕込むに限る」
紫音のスマホに、どれみの現在の位置情報がカーナビの様に映し出される。
「アイコンのスピードが速い。これはたぶん車だな」
ユニが言う。
「車だと追いつけなくないか?」
アキが言った。
「いやおれの悪魔の力があれば……」
「ダメだよ。街中で超音速出す気か」
ユニが嗜める。
「だから、これを使うんじゃ」
紫音は謎の板を自室から持ってきた。
「これって……?」
「これは『家庭用(予定)ホバーボード』!最高時速は二百キロ!これなら車にも追いつけるぞ!」
ホバーボードは、タイヤのないスケボーに、後ろに二十センチぐらいの立方体の燃料タンクがくっついているデザインである。
「ここに水を入れればいいのか」
「ああ、正確には液体だな」
ユニは、二リットルペットボトルの水を燃料タンクに全部入れた。
ちょうどタンクは満タンになる。
「そしてこれが専用ヘルメット。操縦者の脳波をキャッチしてホバーボードの加速減速方向転換を自動的にやってくれる」
紫音はユニにヘルメットを渡した。
「助けに行くの、本当におれでいいのか?」
「ああ、きっとキミなら上手くできる。それにわしは常に現在位置を知らせないといけないしな」
紫音が言う。
「……わかった。行ってくる」
ユニはヘルメットを被り、サーフボードの要領でホバーボードの上に乗る。
―――浮かべ!
そう強く心で念じると、一気に二メートル程浮上した。
「うわっ高っ!」
「もう少し低くてもいいぞ!」
紫音が叫ぶ。
しばらくしてホバーボードは地上十センチ程の高さに収まった。
「よしこれなら……行くぞ!」
「頑張れ!」
みんなの声援を背に、ユニは出発するのだった。
ホバーボードで移動しているユニを、通行人が不思議そうな目で見ている。当たり前である。
ユニはどこに行けばいいのかとスマホのイヤホン越しに聞いた。
「そこの交差点を右折しろ!そして二つ目の交差点を左折じゃ!」
指示に従い、徐々にどれみとの距離を詰めていくユニ。だが問題が起こった。
ホバーボードがだんだんと速度を落としていき、高度を下げ、ついには止まってしまったのである。
「何でだ?」
燃料切れである。
「紫音!燃料が切れたぞ!」
「マジで?試作品だからか……。近くのコンビニとかで水とか買えないか?」
「生憎近くに店はないみたいだ」
「参ったな……じゃあ代わりになる様な水は?いやこの際水じゃなくてもいい!」
そんな事言われても……とユニは思ったが、自分が魔界に帰ってきた時身の着のままであった事に気づいた。
確かここに……。
荷物を漁り、ユニは何とか代替品を見つけた。
「ある!あったぞ紫音!代わりのものが!」
「そうか!よかった!」
これ使っていいのか疑問だが……とにかくこれで走れるはず。
ユニはそう確信した。
一方、どれみは車の後部座席に縛られて寝転がされていた。
アイマスクをされていて、自分がどこにいるのかわからない。時々止まったりしているが、おそらく信号のせいだろう。
それはまさに一瞬の出来事だった。一瞬でどれみは車の中に押し込まれた。
誰にも気づかれずに高二女子を誘拐するのは並大抵の事ではない。相当強い誘拐犯だ。
「早く助けて……みんな……」
どれみは心の中で祈り続けていた。
ユニは、魔界でルーシーが買ってきてくれたコーラを燃料タンクに入れた。
「水じゃないから走るかどうかはわからないけど……」
ユニの心配は杞憂だった。ホバーボードは十センチ程浮くと、水の時と遜色ないスピードを出す事に成功した。
「よし!これなら……」
ユニは再びホバーボードを走らせるのだった。
「そこを右折しろ!車の真ん前に飛び出せる!」
紫音の指示が飛ぶ。
「わかった!任せろ!」
ユニは車の前に飛び出すと、ホバーボードに乗りながら、仁王立ちした。
「返せよ。火殿どれみを」
ユニを火殿グループの社長令嬢を取り戻しにきた「敵」だと認識した誘拐犯は車を降りてきた。
二人ともかなりがっしりした体型である。
「力じゃ勝てそうにないな……」
誘拐犯達はユニに向かってくる。ユニはホバーボードを乗りこなし、何とか攻撃を避け続けた。
「全速力で……」
ユニはホバーボードを全速力で走らせると、その勢いで男の一人にラリアットをかます。
男は吹き飛ばされ、車に体を打ちつけて気絶した。
残る一人はナイフを取り出してユニに襲いかかる。ユニは咄嗟にホバーボードを盾にナイフを受け止めた。
男のナイフの攻撃をホバーボードの盾で何とか受け止め続けるユニ。
隙をついて男の腕を掴むと、そのまま上昇、地面に男を投げ落とす。車の上に落下し、その男も気絶した。
「誘拐犯を倒したぞ。どれみを保護する」
電話越しに歓喜の声が響いていた。
「どれみ、大丈夫か?」
ユニはどれみのアイマスクを外し、縄を切って救出した。
ユニの胸に飛び込むどれみ。
「助けてくれてありがとうですわ……怖かった……」
「安心していい。もう大丈夫だ」
ユニはそう言うと、どれみを強く抱きしめた。
「えェ!?財亜グループにも融資を取り付けた!?」
家に帰ってきたユニは、まさかの状況に驚いた。
「そうなんじゃ。この件は財亜側の『弱み』でもあるから、その代わりに融資をしろと脅して、何とかな」
「いい性格してるよ」
ユニは呆れた。
紫音は両手をパチンと叩いて言った。
「さて!火殿グループと財亜グループの『金』、わしとIIOの『技術』!そしてルーシーの悪魔の『力』!これだけあれば夢にまで見た『最強のAI』を作る事ができる!その名も……」
「最強AI、『APESじゃ!」
悪魔との契約条項 第三十二条
「悪魔の力」は、AIの様な非生物にも付与する事が可能である。
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