契約その30 Let's go!魔界へ行こう!
ユニ達との同居を始めたどれみだったが、やる事は変わらなかった。
パソコンの前に座り、様々な人達とオンラインで色々な商談をまとめている様だ。
その姿は、とても一歳しか年が変わらないとは思えないものである。
紫音もどれみの融資を元に自室に引きこもってIIOのメンバーと共にAIの開発に勤しんでおり、ここの所姿を見ていない。
学校も夏休みに入り、それぞれが自分のやるべき事をこなしている中、ルーシーがユニに言った。
「少しぐらい魔界に帰省したらどうだって親から連絡が来てんだけど、一緒に来てくれないかな」
それを聞いたユニは、家族の団欒に自分が加わるのは忍びないと考え、乗り気ではない態度を取る。
「別にいいけど……何でおれも行かなくちゃいけないんだ?別にキミ一人でもいいだろ」
しかしルーシーは親にその恋人を連れてこいって言われたからだと答えた。
「そういう事なら仕方ないな」
ユニは納得すると、みんなに書き置きを残して出かける事にした。
「さて、荷物は持った?」
ユニは服や日用品などをスーツケースに収めていた。
「そういえば、魔界ってどうやって行くんだ?」
「それはこれを使うんだよ」
ルーシーが取り出したのは、全ての始まりとなったあの魔導書である。
「悪魔か悪魔と契約した者しか使えない『帰還の呪文』が書いてあるんだ」
ルーシーは魔導書のページをパラパラとめくり、あるページで止める。
ユニの腕をしっかり握った後、ゆっくりと呪文を唱えた。
「最強の悪魔、名を『ルシファー』、これより帰還する」
すると二人は黒い光に包まれ、忽然と姿を消してしまったのだった。
気がつくと、ユニは街中のベンチに座っていた。
「何だここ」
どうやらここは公園の様だ。子供達が笑い声を上げながら駆け回っている。
確かに魔界に来たはずなのだが、ユニが持つ「魔界」というイメージには明らかに程遠い。
「起きた?」
そこへルーシーがやってきた。ペットボトルを二本持っている。
ルーシーはその内の一本をユニに差し出して言った。
「はいこれ。魔界も暑いな。少し休んでから行こうか」
そう言いながら、ルーシーはユニの隣に腰掛けた。
ルーシーは渡されたペットボトルをジロリと見つめる。何の変哲もないコーラのペットボトルだった。
蓋を開けると「プシッ」という耳慣れた音が鳴る。ユニはそれを恐る恐る飲んでみた。
味も人間界で飲まれているものと変わらないものであった。
「おれ達、本当に魔界に来たんだよな?人間界じゃなくて」
ユニはルーシーに確認した。
「それは人間界も同じじゃない?都会になると程度の差はあれどどこの国もビルが立ち並んでいるし。魔界も同じ様なもんよ」
そういうもんなのか……確かにそうなのかも知れない。ユニはそう自分に言い聞かせた。
しばらく経って、ルーシーらおもむろに立ち上がって言った。
「さてと。行こうか。おれの実家に」
実家までは普通に路線バスで行くらしい。ユニは、本当にここが魔界なのか益々信じられなくなってきた。
運賃を払い、バスに乗る二人。普通に日本円が使える事に驚いた。
二人を乗せたバスは街の郊外で止まり、二人はそこで降りた。さっきの街より落ち着いた雰囲気だ。
ここからは歩きで行くらしい。ユニはルーシーの後ろへついていった。
しばらく行き、ある所でルーシーの足が止まった。
「ほら、ここだ」
どうやらここがルーシーの実家らしい。さすがに火殿邸よりは小さいが、それでも結構な豪邸だ。
ルーシーは家の門の前に立つと、チャイムを鳴らす。
「おれだけど」
ルーシーがそれだけ言うと、門が自動で開いた。
門が完全に開くと、そのままルーシーは家の敷地内へ入る。庭も広かった。
玄関まで行く道のりで、ルーシーはユニに言う。
「おれのお母さん変わり者だから注意してな」
玄関の前に着くと、ルーシーは恐る恐るドアを開ける。
開けると、いきなりクラッカーの音が鳴り響いた。
「おかえりー!ルーシー!」
二人を出迎えたのは、ルーシーをそのまま大きくした様な女性である。かなり若々しい。
「もしかしてキミの姉さんか?」
ユニはルーシーの耳元で囁く。
ルーシーは頭を抱えながら言った。
「おれのお母さんだ……」
「マジで!?」
ユニは驚愕する。
「はーい!お母さんでーす!」
ルーシーの母、『セラフィム』は軽いノリで挨拶した。
成程、変わり者だ。
「あまり変な事しないでよ。こんなパーティみたいにクラッカーなんて用意して。恥ずかしい」
娘からのガチな苦情に、「セラフィム」は少し悲しそうな顔をする。
「セラフィム」は気を取り直し、ご飯があるからお風呂に入ってこいと二人に言う。
確かにこんなに炎天下の中を歩いてきたので体中汗だくだった。
「一緒にね」
「セラフィム」はユニの耳元で囁き、赤面するユニの反応を楽しむのだった。やはり悪魔である。
家が広ければ、当然風呂も広い。二人が楽々入れるスペースがあった。
ルーシーが聞く。
「髪型どうする?お団子でいい?」
ユニは邪魔にならないのなら髪型なんて何でもいいとの事なので、ルーシーはしっかりお団子型に結んでやった。
二人で向かい合う形で湯船に浸かり、旅の疲れを癒した。
ルーシーはため息をつくと、しみじみと言う。
「こうやって二人だけで過ごすのってものすごく久しぶりな気がする」
確かにそうだ。
色々ハーレムのメンバーが増えて、ルーシーと二人でこうする事は最近はなくなってしまったかも知れない。
「ねェユニ」
ルーシーはユニに顔を近づけて言う。
「お前……おれの事好きか?」
ユニは何も言わず、ルーシーを抱きしめると、そのまま顔を近づけて……。
「返事はそれでいいか?」
ルーシーは風呂だからか、それとも別の理由からか、すっかり顔が赤くなってしまった。
「ズルいってこんなの……」
風呂から上がると、すでに「セラフィム」が料理を作って待っていた。
ピザにフライドポテトにハンバーガーにスパゲッティ……ごちそうである。
「今日は帰省記念で!お母さん奮発しちゃった!」
ちゃんとしっかりいただきますと言った後、二人はそのごちそう達を手当たり次第に食べ始めた。
やはり味は人間界のそれらと変わらない様だ。
何で異世界の筈なのに文化や風俗が人間界とほとんど同じなのか?ユニは疑問に思った。
その疑問をルーシーにぶつける。
「逆だよ。むしろこれらは魔界の食べ物で、人間界にやってきた悪魔がこれらの料理を伝えたんだ」
ルーシーがスパゲッティを口に運びながら言う。
「そうなのか」
「だって悪魔の平均寿命は五千年だぞ?それだけ寿命が長ければ文化も人間界と比べて成熟するよ」
確かにそうだ。ならば本場の味を楽しもうと、ユニは食べるスピードを上げた。
その時、家の電話が鳴り響く。
「セラフィム」はその電話を取り、その電話内容に驚愕する。
「ごめん、仕事が入っちゃった。お二人はゆっくりしててね」
「セラフィム」はそう言うと家を出ていった。
「一体何だ?」
ユニが訝しむと、ルーシーが言った。
「そんなに気にするなら、行ってみようか。おれのお母さんの仕事現場!」
ルーシーはユニの腕を掴むと、そのまま母の後を追って行くのだった。
悪魔との契約条項 第三十条
悪魔の平均寿命は、約五千歳である。
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