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契約その299 送り出せ!highest grade!

 その日、ルーシーは帰って来なかった。


「メールも反応なしか……」


 スマホを見ながら、アザエルはため息をつく。


「事故とか、事件に巻き込まれたとか?」


 アゲハが言うが、それなら警察なり病院なりから連絡が来るはずだと紫音が指摘する。


「真っ先に考えられる可能性は……」


「『悪魔殺し』……!」


 それしか考えられなかった。みんなの間に鬱屈とした雰囲気が漂う。


 その雰囲気の中で、口を開いたのはアザエルだった。


「とにかく、今はルーシーを信じるしかないな。……()()もな」


「……」


 ユニはずっと黙っていた。先程も、ルーシーを探しに行こうとしてみんなに止められたのだ。


「恐らく、相手はおれ様達を狙ってくる。何度も邪魔されてるからな。相手からしてみれば潰しておきたいだろう」


 それから、アザエルはユニの両肩を叩きながら言う。


「だからさ、気持ちで負けちゃダメなんだ。気持ちで負けちゃ、どんな事態にも対応できない」


 いつもはそういうのはお前が言うんだけどな、とアザエルは笑いながら言うのだった。


「キミの言う通りだ。ありがとう」


 その言葉にユニは少し落ち着きを取り戻したのか、アザエルに礼を言い、そして気合を入れ直す。


「よし!ルーシーは絶対見つける。『悪魔殺し』とも決着をつける。だから色んな人に声をかけておかないとな。協力して貰う為に」


 こうして、ユニ達の今後の指針が決まったのだった。


「差し当たり思いつくのは……」


 ユニはスマホを取り出し、どこかに電話をかけるのであった。




 それから少し日が経った。


 ユニ達の学校では、卒業式の少し前に卒業生を在校生が送り出すという会が開かれる。


 今年はユニ達が送り出される番なのである。


(まあ、せいぜい歌を歌うぐらいなんだけど……)


 教室で歌の練習をしながら、由理は心の中でぼやく。


 建前上は一応サプライズとなっているが、そもそもユニ達もずっと送り出してきた身である。


 何があるのかわかっていた。


 送り出される者と送り出す者。それぞれの立場が交錯し、卒業式前最後の行事と言える会は始まりを迎えた。


 揃って体育館に集められる生徒達。(おごそ)かな雰囲気で会は始まった。


 在校生の代表者の伴奏が始まる。


 曲は定番の卒業ソングの「旅立ちの日に」である。これもまた、去年とまったく同じであった。


 結局特に何もないまま、合唱は終わったのだった。


 そもそもこの会は、生徒教職員含めて卒業式の前夜祭、予行練習という認識で行われている。


 その証拠に、生徒の並び方は卒業式当日のものである。全校生徒が並ぶまでにどれくらいかかるかの確認がされているのだ。


 合唱が終わった後、在校生の代表者による卒業生への感謝の言葉が送られる。この代表者も卒業式当日の者である。


 これもまたつつがなく終わり、会は終始厳かな雰囲気で閉幕したのだった。


 教室へ戻って一息ついたユニに、アキが話しかけてきた。


「その……お願いがあるんだが……」


「お願い?」


 アキはゆっくり頷くと、ユニに何か耳打ちをする。


 ユニの顔が側から見ても青くなっていくのが見て取れた。


「だから……見守っていて欲しい。いざって時もあるかも知れないから」


「……わかった」


 ユニはゆっくりと頷き、アキのある頼みを引き受けるのであった。



 そして、誰もいなくなった教室前の廊下。


 下校を促す放送が校内に流れる中、アキは待つ。


 やってきたのは、義屋楽人だった。


「キミが私を呼び出した理由はわかってる。単刀直入に言おうか。キミの思いには応えられない」



 会の直後の事である。


 アキの机には、義屋楽人宛の手紙が入っていた。内容は、要約すると廊下で会おうというものである。


 最初は冗談かと思ったが、その光景を目撃したアゲハやヒナは、きっとラブレターだと言った。


「たぶんあり得ないと思うけど、返事はどうするの?」


「答えはNOだ。私にユニを裏切る事はできない」


 アゲハの質問に、アキは当然だという口調で返した。


「でも断るにしても、断り方は気をつけないと」


 ヒナの発言に、アキはゆっくりと頷きながらこう言う。


「私の答えをしっかりと伝える。それしかできない」



 そして、アキは念の為ユニについていて貰う事にし、今の状況に至るのである。


 返事を聞いた義屋楽人は、ゆっくりと大きく深呼吸をし、少し笑いながら言う。


「そうだと思った。やっぱりあなたは……」


 そして、義屋楽人はそのまま背を向ける。


「これで踏ん切りがついた。ようやく『未来』へ歩いていける……。すまなかった。わざわざ来させて。じゃあこれで」


 そのまま、義屋楽人はしっかりとした足取りでアキの元を去っていく。


「ちょっと待て」


 そんな彼を呼び止めたのはユニだった。


「たぶんだけど、お前『悪魔殺し』の力持ってるな」


 義屋楽人の歩きが止まり、振り返らずにユニに問う。


「何でわかった」


「何となく。()()()()、悪魔の気配に敏感になってるみたいだ」


 そしてユニは、義屋楽人の前まで来て聞く。


「力ずくで奪おうとはしないのか?」


「最初はそうしようと思っていた。けど、キミからは奪えない。この力も返すよ」


 義屋楽人の体から、赤いもやの様なものが出てきた。


「悪魔の力」である。


「煮るなり焼くなり好きにしてくれ」


 義屋楽人は、体育の「休め」のポーズで言う。


「そうか、それなら……」


 ユニはそう呟くと、赤いもやに手を伸ばす。


 ユニがやろうとしている事を察し、アキは青ざめる。


「いやまさか……その力を自分のものにするつもりか!?ダメだ!そんなヤバいもの……」


 アキの制止に、ユニは首を横に振りながら言う。


「エリーが『APES』の力をものにしたみたいに、もしかしたらおれにも同じ事ができると考えた……!もしかしたら、この力がルーシーを救う一助になるかも知れないんだ!絶対に……取り戻す!」


 赤いもやは、ユニの掌から掃除機に吸われる様に吸収されていく。


 その間、ユニはずっとうめき声を上げていたが、もやは完全にユニの体へと吸収された。


「あまり気持ちのいいものじゃないな。でもこれのお陰でルーシーへの手がかりができた。急がなくちゃ」


「急ぐって、もしかして……」


 アキの問いに、ユニは頷きながらこう言う。


「下級生組のみんなが言ってたんだ。今日の会だってルーシーにも参加して欲しかったって。せめて卒業式には参加して欲しいって。だから、卒業式までには絶対ケリをつけるんだ……!」


 そんなユニの瞳には決意が灯っている様だった。


 卒業式まで、すでにあと3日を切っていた。


悪魔との契約条項 第二百九十九条

「悪魔の力」の形状は、契約者の心のあり方を示している。

読んで下さりありがとうございます。

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