契約その298 卒業式のpreparationをしよう!
三月も下旬に入り、ユニ達の卒業の日が近づいてきた。
そんなある日の下校前、クラスの前で丁井先生が言う。
「というわけで、あらかじめ各個人で持ってきた写真を係に渡して欲しい」
とはいえ、スマホ全盛の現代、わざわざ写真を現像して持ってくる者は少なかった。
係のルーシーの机に数少ない写真が並べられてゆく。
「アルバムのページは1クラスにつき4ページだから、まあ足りるかな」
写真の枚数はルーシーの机に収まるぐらい。拡大などすれば十分足りるだろう。
卒業式の準備の集まりがあるとユニに言い残し、ルーシーはそそくさと退散していった。
受験も部活もすでに終わっている以上、ユニ達が学校に残る理由はない。
ユニ達は瀬楠家へ帰っていくのであった。
帰ってきたユニ達を出迎えたのはエリーであった。
「お帰りなさいませ。皆さん」
ユニ達は、少し驚いた様な顔をしたが、少し笑ってこう返す。
「……うん。ただいま」
ユニ達の手によって財亜百から切り離された「APES」は、エリーによってエリー自身の体へ吸収された。
元々これは既定路線だった様で、紫音とは事前に示し合わせていたらしい。
「本来はもっと時間をかけてから『APES』を取り戻したかったのじゃが……そうもいかなくなってな」
エリーが「APES」を吸収した後、紫音は自分達の目的を素直にみんなに話した。
電脳世界で事実上宙吊り状態になっていた「APES」の力の残滓を、「愛」を学んだエリーの手で完全に吸収し、第三者による悪用を防ぐと同時にエリーの支配下に置く。
それこそが紫音とエリーの目的であった。
しかし紫音の想定より早く、「APES」は目をつけられ、今回の様な混乱を引き起こしてしまった。
もはや「APES」が世界中から狙われるのも時間の問題だったのである。
故に、紫音は計画の大幅な前倒しを余儀なくされたのだった。
現在のエリーに「APES」を支配できるか、それが勘案だったのだが、そこは得た「愛」の強さか、支配下に置く事に成功したのだった。
そしてエリーは、その力で今回の混乱に関わった人々の記憶を消去。現実世界と電脳世界も完全に分離し、それでもカバーしきれない部分は火殿グループがどうにかしてくれたらしい。
ただ、ユニ達と当事者の記憶はそのまま残された。
ユニ達はともかく、財亜百の記憶まで残したのにはわけがあった。
財亜百は、自分が起こした混乱の責任を強く感じていた。
そんな彼女にどう言葉をかけるのか、それを決めるのはメイだった。
その場でうずくまる財亜百に、メイはこう声をかける。
「迷惑をかけた、そう思うんなら、これから一年間、ぼく達に弁当を奢って欲しい。それでチャラにする。もう誰も、犠牲にするんじゃない。自分自身もな」
その言葉に、財亜百は堰を切った様に泣き出す。
それを優しく見守るメイの姿に、ユニ達は胸を撫で下ろした。
以降、「APES」の力はエリーの力の一部となった。
「APES」もエリーも、元々は同じく人類の平和を守るという目的で創られたAIである。
「自分の力が正しく使われる事、それを『APES』が強く望む事、わたくしも頑張らなくてはなりませんね」
エリーはみんなの前で、そう宣言するのであった。
以上が、この前起こった事の顛末である。
そして、ユニ達の高校生活最後の戦い、「卒業式」の布石は、すでに今日この日のタイミングで仕込まれていた。
卒業式の係の会合が終わり、ルーシーは一人、家路に着こうとしていた。
「もうすっかり暗いや。早く帰らないと」
学校の階段を1段、2段飛ばしながら、ルーシーは小走りで駆け降りていく。
「卒業か……」
頭では感慨深い事を考えつつも、ルーシーは踊り場を最短ルートで曲がり、ちょうど20段目に右足がかかる。
それはまさにその時だった。
「待ちなよ」
「!」
背後から誰かの声が聞こえる。
そしてその声の主を、ルーシーは知っていた。
ルーシーが振り返ると、今さっき通り過ぎた踊り場に男性が立っていた。
「お前は……『悪魔殺し』!」
姿を現した因縁の相手に、ルーシーは臨戦体勢を取る。
「今は戦う気はないんだ」
「お前がそうでも、こっちは大ありなんだよ。何なら、今ここでお前を始末すれば万事解決だ」
嘯く「悪魔殺し」に、ルーシーはそう吐き捨てる。
「勝てるのか?たった一人で」
「!」
「一人」というワードが、ルーシーに強く突き刺さる。
「悪魔殺し」は話を続ける。
「彼の事だ、きっと悩むキミに優しい言葉の一つや二つ、かけてくれたのだろう。だが、それは本当に正しいか?」
「何が言いたい!?」
明らかに苛立つルーシーに、「悪魔殺し」は確かな手応えを感じつつも、変わらず話を続ける。
「悪魔と人間の寿命の話だよ。100年もすればだいたいの人間はいなくなる。悪魔にとっては些細な年月なのに……だ」
「……!」
ルーシーは、彼女らしからぬ弱々しい後ろ足で階段を何段か降り、階下に尻餅をついた。
「悪魔殺し」は、そんなルーシーを追いかける様にして、踊り場から1段ずつ降りながらこう言う。
「瀬楠由仁がいなくなった後の世界で、果たしてキミは生きていられるかな?」
「……!あ……おれは……」
完全に戦意を喪失したルーシーの姿に、「悪魔殺し」は好機を感じた。
「今だ……"強制契約"!キミの願い、そしてその代償は……」
しばらくして、校舎内にはまた再び静寂が訪れる。
その日から、ルーシーはユニ達の前から姿を消した。
悪魔との契約条項 第二百九十八条
悪魔は、ありとあらゆる面で人間の力を上回る。
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