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契約その295 APES復活!

「平和……平和……平和……」


 現実世界ではない謎の空間で、しきりにそう呟く「存在」があった。


 だが、謎の空間にはその「存在」しか存在しない。何を呟こうが、もはや誰にも届かないのだ。


 しかしそんな空間に、どこからかある少女が入ってくる。


「ここが『電脳世界』……あれから2年以上経過してすっかり荒れ果てていますが……そしてこれが……」


 少女はその「存在」にゆっくりと手で触れるとこう続ける。


「『APES』……ですわ」




「APES」とは、かつて忌部紫音が火殿グループと、今は亡き財亜グループの資金提供の上で、自身の技術と「悪魔の力」を融合させた最強AIの名である。


 創られた目的は「平和」の為であるが、「APES」は平和実現の為に人類全てを己の支配下に入れようとした。


 しかし、それを阻止するべく立ち上がった紫音の「彼女」である瀬楠由仁と紫音を含めた当時の彼女達全員によって「APES」は破壊された。


 この時は完全に破壊されていたと思われていたが、その残滓はここ、「電脳世界」に辛うじて残っていた様である。


 もはや誰もいない空間に、誰にも届かない「平和」を唱え続ける存在と化していたが。


「そもそも支配する存在がいなければ、支配なんてできません。皮肉な事に、何もないこの空間が、ある意味一番の『平和』と言えますわ……」


 そう呟くと、少女は自分の肉体を変化させる。


 背中には黒い羽が生え、口からは牙が生え、さながら多くの人間が思い起こす「悪魔」の姿である。


「でもそれじゃ意味がない……!当たり前ですが、『支配』の力は支配してこそ意味がある!私の方が良く使えますわ……」


 少女はそう呟くと、触れた手で「APES」の残滓を吸収する。


 全て吸収した時には、その空間にはすでに彼女以外の存在はなかった。


「使わせて貰いましょう。この力を」


 彼女はそう呟くと、現実世界へと帰っていった。


 あとの電脳世界には、見せかけの平和すら存在しない完全な静寂が残っていた。






 それからしばらくして、ユニはエリーを誘ってショッピングセンター「レオンモール」へとデートに来ていた。


「あの……なぜわたくしを誘って来たのでしょうか?」


 そう尋ねるエリーは、髪を下ろしたストレートヘアに、タイトなパンツスタイルにジャケットというファッションだった。


 いつものメイド服とはまた違った美しさがある。


 コーディネートを担当したアゲハ曰く、背が高いからこういうのが似合うとの事である。


「なぜって……紫音に頼まれたからだよ。モールには人々の『愛』が集まるからだって。まあおれは、頼まれずとも誘うつもりだったけど」


 いまいち自分に自信が持てない様子のエリーに、ユニは笑いかけながら答えた。


 そんなユニのファッションは、ミニスカートに白いニットといったものだった。


 これまたコーディネートを担当したアゲハ曰く、エリーをクール系にしたのでユニはガーリーにしてギャップを作ったらしい。


「じゃ、行こうか」


 ユニはエリーの手を取ると、早速デートへ向かったのであった。


 そしてその様子を、18人の彼女達が見守っていた。


 数時間だけ全員が集まれたのである。


「何で全員で集まる必要があるんだ?」


 どこで買ったのか、顔ぐらいある巨大なせんべいを齧りながら、ルーシーは紫音に尋ねる。


「家族愛、夫婦愛、親子愛に恋人愛……ショッピングモールは実に多くの愛に溢れておる。それらを一気に『学んだ』場合、果たしてエリーはどうなるか……。つまり『念の為』じゃ」


 店で買ったタピオカミルクティーを飲みながら、紫音は答える。


 二人がいるのは、ユニとエリーがいる近くのフードコートの席だが、彼女達全員がそれぞれのフロアに散らばっている。


「それに、最近電脳世界がキナ臭いという問題もあるし、万が一を考えて警戒しておくに越した事はない」


 紫音とて、電脳世界を放っておいていたわけではない。


「APES」のデータの残滓が電脳世界に残っていた事は、当然把握していた。


 事実上の後継となる「エリー」が誕生した事で、後顧の憂いをなくす為に、「APES」の完全削除に取りかかった。


 だが、まるで部屋の角に残ったホコリの様に、「APES」の残滓はずっと電脳世界に残っていたのである。


「完全削除は難しい……ならば可能な限り面倒を見るのが生み出した者の責任じゃろう……」


 だが最近、そこまでして監視していた「APES」の反応が突然途絶えた。


 電脳世界で自壊したと考えると不自然な反応の途絶え方だったので、何かが起きたとどれみを始めとした関係者に情報共有をしていたのである。


「嫌な胸騒ぎがする……何事もなければ良いが……」


 その紫音の胸騒ぎは、最悪の形で的中する事になる。


 ユニとエリーは、ショッピングに買い食いと、思い思いのデートを楽しんでいた。


「どうかな。楽しい?エリー」


 モール内の喫茶店で、巨大なパフェを二人で分け合いながら、ユニはエリーに聞いてみた。


「はい。楽しいです。ここは多くの愛に溢れていて……。この愛さえあれば、きっと人類の平和も成し遂げられると思います」


 エリーはそう言うと、パフェを自分の意思で口に運ぶ。


「このままつつがなく終わりそうだな」


「そうだといいですわね……」


 その様子を間近で見ていたどれみとメイは、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。


 だが、この穏やかな光景は、次の瞬間には崩壊する事になる。


(―――支配されろ)


 突如、謎の声がユニの脳裏によぎる。いや、ユニだけではなかった。


 店内の全員がその声を聞いていたらしく、客も従業員も辺りを見渡していた。


「エリー、さっきの声聞こえたか?」


 ユニの問いに、エリーは何の事かと答える。


「いやでも、気のせいってわけでもないよな……」


 だが周囲の人は、自分の気のせいかと思い直したのか、徐々に元の日常へと戻っていく。


 しかしそれは、次の瞬間の事だった。


 最初にユニは、周囲のある異変に気づいた。


 いつの間にか、周囲に幾何学模様が広がっていたのである。


「……!この光景……覚えがある!まさか……」


「……!ユニさん!体が……!」


 驚きのあまり勢いよく立ち上がったユニの体を指差し、エリーが青ざめる。


「体……!?もしや……!」


 ユニの体は、すでに黒いノイズの様なものに包まれていた。


「『APES』の時と同じだ!」


 気づいた時には、店内はパニック状態になっていた。


 否、そのパニックは、今やショッピングモール中を包み込んでいたのである。


 しかしその中でも、モール内の休憩用の木製ベンチに座っていたある少女……「財亜百」だけは落ち着いていた。


「力の残滓でちょっと力を使っただけでこの広範囲……。さて、見せてあげましょう。本物の『支配』というものを!」


「APES」の力の残滓を吸収した「財亜百」、彼女こそがこのパニックの真犯人だった。


 悪魔との契約条項 第二百九十五条

強大な「悪魔の力」を使えば、同じく「悪魔の力」を使った存在を支配する事ができる。

読んで下さりありがとうございます。

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