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契約その29 どれみの昔のmemories!

 どれみは案内を執事に任せると、一足先に自室へと戻っていった。


 どうやら色々と準備する事がある様である。


「こちらでございます」


 どれみの命令通り、豊かな白いヒゲを蓄えた執事がユニと紫音を案内する。


 その道中も中世ヨーロッパの芸術品が並んでおり、まるで博物館でも案内されている様だった。


 芸術品の解説をしてくれる音声ガイドが欲しいぐらいである。


 紫音はそれらの芸術品にワクワクしながら進んでいたのだが、ユニは違った。


 さっきからどれみの発言の真意を考えているのか、そういった芸術品には目もくれなかった。


「ユニ、ワクワクしないのか?どの展示品も博物館クラスの代物じゃぞ」


 紫音が言う。しかしユニは反応を返さず、ずっと思考を続けている様だ。


 紫音はやれやれとため息をついた。


 しばらく行くと、一際大きな扉があった。扉と言っても学校の教室の様にスライドさせるタイプのものである。


 執事はドアを二回ノックし、入ってもいいか聞いていた。


 中から「入ってもいい」という声が聞こえる。


 執事は大量の鍵束からどれみの部屋のものを素早く見つけ出すと、流れる様な所作で鍵を開け、ついでドアを開けた。


 ごゆっくりお過ごし下さいませと言いつつ、執事は去っていった。


 ユニも一応開いたドアをノックすると、入ってもいいか伝えた。


 変わらず入ってもいいという返事が帰ってきたので恐る恐る部屋の中に入った。


「お待たせしましたわ」


 どれみはTシャツにショートパンツというラフな格好で二人を出迎えた。


 真ん中にあるイスに座る様に言われたので、二人は隣同士で座る。


「何でおれ達を自室に招いたんだ」


 一息ついた後で、早速ユニが聞いた。


「それは……」


 どれみは何かを言おうとした瞬間、ぼっと赤面した。


「あなた達と……お話がしたくて……」


 どれみはもじもじしながら言う。


「そうか、それはちょうどよかった。おれもキミに興味があったんだ」


「キミはまるでおれを旧知の仲みたいに言うけど、おれには覚えがない。申し訳ないけど、教えてくれないかな?」


 それを聞いたどれみは、少しショックを受けた様である。


「……わかりました……」


 どれみは了解すると、ゆっくりとした口調で話し始めた。


「それは今から十年前の事です……」



 ―――十年前―――

 どれみは非常に好奇心旺盛で、「火殿グループの社長令嬢」という立場にも関わらず勝手にどこかに行ってしまう子供だった。


 その日もまた、商談中の父親や従者の目を盗んでどこかへ行った結果、ある公園に迷い込んだ。


「どこ……ここ……」


 その時は別の場所に住んでいたどれみにとって、その公園はまさに未知の場所だった。


 そこへある女の子が遠くから駆けてきて、話しかけてきた。


「よう、見ないかおだな。なんでここにいるんだ?」


 突然話しかけられたので、どれみはビクッと驚く。


 どれみに話しかけてきたのは、ひらがなの「つ」の様なアホ毛を生やし、大きな目が特徴の女の子だった。


「何でここにいるのか……わたしにもわかりませんわ」


 どれみはビクビクしながら答えた。


「そうか、おまえまいごなんだな。まあじぶんの子どもがいないのにきづかないおやなんていないと思うから……」


 少女はどれみに手を差し出して言った。


「いっしょにあそぼう!」


 笑顔が眩しい。どれみはその手を取るのだった。


「ユリ!ナナミ!ごめんまたせたか?」


 少女はどれみの手を掴んで連れてきた。


()()、また人だすけしたの?」


「まあおねえちゃんらしいとおもうけど」


 二人はそれぞれ感想を漏らす。


「ごめんごめん。しょうかいするよ。えっと名前が……」


 その少女……ユニは彼女の名前を聞いていなかった事に気づいた。


「火殿どれみ……七さいですわ」


 お見知り置きを……とどれみはドレスの裾を掴んで挨拶した。


「七さいか。おれとナナミより一つうえだな」


 ユニ達もまたそれぞれ自己紹介をするのだった。


「みなさん、なにをしてあそびますの?」


 どれみが三人に聞く。


「今やってるのはすなあそび!あそこのじゃぐちからみずをくんできて、すなのお山にかわをとおすの」


 七海がニコニコしながら言う。


「じゃあわたしがくんできますわ」


 どれみがユニ達が持ってきていたバケツを持ち、公園の入り口近くにある水道に持って行く。


 バケツに水を並々入れて、両手で持ちながら戻ってきた。


 その時である。


 どれみは地面と砂場の境目の縁石につまずいて転んでしまった。

 幸い転んだ場所は柔らかい砂なのでケガはない。


 と思いきや、どうやら中に小石が混じっていた様で、それがどれみの膝に当たって血を流してしまった。


 その時、じわっと涙目になるどれみ。いよいよ泣き出してしまい、その光景に三人も動揺する。


 そんな中、真っ先に行動したのはユニである。


「だいじょうぶ。ないていいから。歩けるか?あそこの水道ですなをあらおう。おればんそうこうもってるからだいじょうぶ」


 ユニは適切な判断で処置をする。そのお陰で絆創膏を貼って貰った時にはすでに泣き止んでいた。


「これでよし」


「ありがとうございます」


 素直にお礼を言うどれみ。「感謝はする様に」という両親の教えの賜物である。


「キミがもうあそびたくないっていうんならいいけど、どうする?」


 ユニが聞く。


 どれみは、何も言わずに近くのスコップを持つと、砂の山を創り始めた。


 どうやら彼女なりの一緒に遊ぶというサインらしい。


 それを察したユニも、由理も七海も、そのまま暗くなるまで遊んだのだった。


 外が暗くなると、四人は泥人形の様になっていた。


 砂場に四人で寝っ転がっていると、どれみの父が迎えにやってくる。


 お別れの時がやってきたのだ。


 別れ際、どれみはユニにこう伝えた。


「すきですわ、ユニ」


 その「好き」が何なのか、当時のユニにはわからなかった。


 しかしそれを「結婚の事」だと曲解したユニはこう返す。


「どれみ、けっこんのことなら、おとなになってからかんがえてやるよ」


 こうして二人は別れたのだった。


 その後、どれみはその「結婚する」という言葉を胸に、高校生にしてやり手の実業家として名を馳せる事になった。


 全てはユニと結婚し、彼女を養う為である。



「というわけですわ」


 話が終わったが、ユニはまだ首を傾げていた。


「どうなんじゃ?ユニ」


 紫音がユニの顔を覗き込む様にして聞く。


 確かに記憶の片隅にそういう思い出は朧げながらあるが、そもそもその時点ではユニは男だったはずである。


 なぜどれみの記憶の中のユニが女の子なのか。


「契約の代償で『瀬楠由仁は元々女である』っていう認識と事象にすり変わっているからかな」


 ユニはそう考えた。


 気を取り直し、ユニはどれみに例の事を相談する。


「それで相談なんだが……」


 ユニは紫音が資金繰りに困っている事を話した。


 ユニに対する好意を利用する様な形になってしまい申し訳ないが、どうにか考えてくれないかと頼み込む。


 どれみはその頼みを了解するが、ある条件を付け加えた。それは……。



「というわけで、新たに『火殿どれみ』さんがウチに住む事になりました……」


 ユニがまた女の子を連れてきた事に、彼女達はもはや驚かなかった。


 どれみが出した条件とは、紫音と提携を結び、親睦を深まるという形で同居するという事だった。


「これからよろしくお願いしますわ!」


 かくして、女子高校生実業家「火殿どれみ」が彼女のメンバーに加わったのだった。



 悪魔との契約条項 第二十九条

悪魔の力による世界改変は、過去の記憶や事象にまで及ぶ。

読んで下さりありがとうございます。

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