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契約その289 ふわふわ娘とカチカチmother!

 全員の進路が決まった翌日の事である。


 みんなが志望校合格に喜んでいる中、不意にモミの携帯が鳴る。誰かからのメールの様だ。


 そのメールを見た瞬間、モミの顔がみるみる青ざめていく所を、ユニは見逃さなかった。


「……どうしたの?大丈夫?」


 心配になったユニは、モミの事を気遣う。


 モミは軽く咳払いした後、努めて明るくこう言った。


「はい大丈夫です。ですが、一旦実家へ帰省しなければならなくなりました。ユニさんにも着いてきてほしいのですが……」


 どうやらメールの主はモミの親らしい。一旦帰ってくる様に言うメールだった様だ。


 そして当然、ユニの回答はYESである。


「それは別に構わないけど……実家ってどこなの?」


 ユニの質問に、モミは意を決した様子で答える。


「ええモミの実家は……長崎県です」




 さらに翌日、ユニはモミに連れられて、彼女の実家のある長崎県を訪れていた。


「着きましたね。ここはもう長崎県です」


 長崎駅に降り立ち、開口一番モミが言った。


 そんなモミは、今回はいつものお団子ヘアを解き、ストレートヘアにスーツという出で立ちである。


 とても今から実家へ帰省する様には見えないスタイルだとユニは思った。


 ユニの実家へは駅から通るバスに乗っていく。


 すぐに着いたバスに乗り込み、二人は隣同士で座った。


 しばらくそのまま乗っていたが、バス停を2、3ヶ所通り過ぎた後でユニが話題を振る。


「ここに来るまでの道中で、キミの両親について色々調べてたんだけど、夫婦で国会議員やってるみたいだね」


 ユニの質問に、モミはゆっくりと頷く。


「夫は(くし)()(あま)()議員で、妻は(くし)()()()議員だ。どちらも5年前に自真党(自由真実党)から出馬、『児童福祉制度の強化』を公約(マニフェスト)として当選、当時夫婦議員として話題になっている」


 ユニのスマホには、当時の二人の選挙ポスターが映し出されていた。


 どちらも選挙ポスターにありがちな凛々しい顔つきで写っており、ミステリアスな雰囲気のモミの印象とは程遠い。


 確かに言われてみれば親子で似ているが、逆に言えば親子だと言われなければ気づかないだろう。


「その事を今の今までおれ達に言わなかった事、そして昨日の様子を見るに……」


 そこから先は、ユニはあえて言わなかった。モミがバスが実家へ近づいていく程に、息切れが激しくなっているからである。


 ユニは、モミを落ち着かせる為にゆっくりと抱擁する。


「大丈夫だよ。()()()()ついてる。おれの胸を揉んで落ち着くんだ」


 モミがユニに着いてきて貰った理由は、まさにその為にあったのである。


 ユニとのスキンシップに、モミはようやく落ち着きを取り戻すのだった。


 最寄のバス停で降り、二人は住宅街の中を歩く。


 建っている家はどれも大きく、高級住宅街である様だ。


(国会議員の家なんだから当たり前か……)


 すれ違う住人に挨拶をするモミを見ながら、ユニはそう考えていた。


 そんな高級住宅街の中でも、一際大きな家がある。そこがモミの実家である。


 実家を前にしてか、ここにきてまたモミの息切れが激しくなってきたが、ユニの励ましでどうにか落ち着きを取り戻した。


 モミは軽く咳払いをした後で、ゆっくりと指を伸ばしてインターホンを押す。


 ピンポーンというチャイムのすぐ後に、門が自動でゆっくりと開いた。どうやら自動ドアだったらしい。


 二人は門の中に入ると同時に、門は冷たく閉まった。まるで二人を逃がさない様である。


 モミはユニと顔を見合わせた後、ゆっくりと玄関のドアに手をかけてドアを引き、中へ入った。


 内装は、やはり家の外観に相応しい小綺麗なものだった。


 おそらく来客用であろうスリッパが二セット置いてあったので、二人はそれを履いて中へ入る。


「お母さんはリビングで待っているはずです」


 モミは声をひそめて言う。


 実家なので当然だが、モミは迷わずリビングのドアまで行き、大きく深呼吸をしてから意を決してリビングへ入るのであった。


 中では、おそらくスーツを着た女性が二人の方へ背を向けたまま待っていた。


「部屋に入る前はノックよ。それから入ってもいいか聞く。入る時は『失礼します』と言う。政治家としてそれは当然の事」


 背を向けたまま、矢継ぎ早に話す女性。娘との再会の第一声とはとても思えない言葉だが、おそらくこの人物がモミの母親だった。


「お母さ……」


「いいわ。そこにいなさい。私は忙しいから手短に話すわ。モミ、ウチに戻ってきなさい。コネクションを築くのに役に立つと思ったけど、あなたを関東へやったのは間違いだったわ」


 娘の言葉を遮る様にして、早口で話す串田実衣。


 この状況においても、彼女はモミに一瞥もくれてやらなかった。


「でも、私はもう大学に合格してて……」


「こっちの大学の二次募集がある。県内一の学校を志望しておいたから。あなたは優秀な私達の娘……失敗などあり得ないわ。今ならまだ取り返せる」


 モミの反撃に対して、それ以上の火力で応戦してくる串田実衣。口論に強いタイプである。


 そんな今にも押しつぶされそうなモミを救い、反撃したのはユニだった。


「『取り返す』とはどういう事ですか?まさか関東地方での生活が全部ムダだったとでも!?」


 そんなユニの発言を聞いて、串田実衣はようやく二人の方を向いた。


 選挙ポスターで見た明るい印象とは違い、目は淀み、少し口角が上がっている様に見えた。明らかに二人を見下している様子である。


 モミに似て美人だが、やはりモミとまったく印象が異なる。


「『全部ムダだった』……それ以外の一体何だと言うの?それに、あなたは誰かしら?」


「……!おれは……モミの、アンタの娘の『彼女』だ……!彼女との思い出を『ムダ』と軽んじる人間に、おれは、いやおれ達は絶対に負けない!たとえ誰であってもだ!」


 それを聞いた串田実衣は、大きくため息をつくと再び背を向ける。


「これ以上は時間のムダね……先程言った様に、私は忙しいの。娘ならともかく、どこぞの有象無象に構ってるヒマはないわ」


「その有象無象に構うのが、政治家の仕事じゃないのかよ……!」


「……ずいぶんと突っかかってくるわね。煩わしい」


 壮絶な舌戦を繰り広げるユニと串田実衣。


 ユニは、モミと串田実衣の性格がまるで違う事に、ある一つの結論を出していた。


(モミは頭が硬いカチカチな親で育ったからこそ、『ふわふわ』を求めてたっていうのか……。この状況、絶対に引き下がれるか!)


 こうしてユニと串田実衣、両者の壮絶な舌戦が幕を上げたのであった。


悪魔との契約条項 第二百八十九条

たとえ誰を相手にしても、絶対に引き下がれない戦いがある。

読んで下さりありがとうございます。

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