契約その288 みんなのcollege entrance exam!
2月も後半になり、ユニ達の受験勉強も本格化してきた。
今日はリビングに集まっての勉強会をする事にした。
「ですから、ここでの『ゆめゆめ』とは『決して〇〇するな』という意味で、夢とは何の関係もないのです」
アゲハに古文を教える風月。彼女はすでに受験を終えているので、今日は先生役である。
「ぐおお……科学は苦手だ……」
すでにパンクしそうなルーシー。悪魔な彼女だが、一応大学へは進学するらしい。
「仕方ないですよ。今回ルーシーさんが受験するのは心理学科とはいえ、ある程度は理系学科も必要です」
シャーペンを持った萌絵が嗜める。
「だいたいHとHが合体したら……ってもうアレしかないだろ!」
「な……何て事言うんですか!」
萌絵が顔を赤くしながら怒った。
「むう……大変そうじゃなみんな……」
バレンタインに貰ったチョコを食べつつ、中々混沌としている現場を見て紫音が呟く。
「私達はそのまま高校にスライドしますから受験はまだ3、4年後ですけどね」
同じくバレンタインチョコを食べながらみすかも呟いた。
「丁井先生もこの所ずっと学校の方へ行きっぱなしですわ」
二人と同様にバレンタインチョコを齧りながらどれみも呟く。
一つ年上のどれみは、一年前(契約その196参照)に大学受験を終えている。
たまにあるレポートも、彼女にとっては楽勝である。
苦戦しているみんなの姿を見て、紫音はおもむろに立ち上がって言う。
「ここは、わしらが一肌でも二肌でも脱がなくてはならんな。新しいエリーの最終調整に入る!」
紫音は、どれみとみすかを連れて自室へ向かうのであった。
そこでは、パソコンから伸びる色んなコードに繋がれているエリーが正座の形で座っていた。
「こ……これは……」
驚愕するみすかに、紫音は得意げに説明を始める。
「過去10年分、1万社に及ぶ出版社から発行された全教科の参考書、さらに10万校の10年分の過去問をOSに詰め込んだ、名付けて『エリー先生』じゃ!」
ちなみに参考書や過去問の手配は、どれみが担当したらしい。
そのエリー先生は、確かに黒のタイトスカートに黒スーツやメガネを着用しており、その名の通り「女教師」という雰囲気があった。
(最近姿見せないと思ってたらこんな事されてたんだ……)
「それでは早速、起動じゃ!」
そんなみすかをよそに、紫音はそう言いながらパソコンのエンターキーを押す。
するとエリーに繋がれていたコードが次々と外れていく。
全てのコードが外れると、今まで下を向いていたエリーの顔が上がり、前を見据える様になった。
そしてそのままエリーはゆっくりと立ち上がり、しばらくどこか虚とした目をしていたが、突然目が据わると、お辞儀をしながら三人に挨拶を始める。
「Hola. Mi nombre es Ellie. Gracias por su continuo apoyo.」
「うわー!何語!?」
「スペイン語ですわ」
驚くみすかに、どれみは冷静に指摘する。
「言語設定を間違えたか……」
それならこれだ!と、紫音はエリーのうなじにさっき外れたコードの一本を突き刺すと、何かしらの操作を施す。
「これで日本語に……」
だが、また言語設定を間違えた。
「مرحبًا. اسمي إيلي. شكرا لدعمكم المستمر.」
「今度は何語!?」
「アラビア語ですわ」
「わかるか!」
思わずみすかが突っ込む。
「ならこれでどうじゃ!」
三度目の正直と言わんばかりに、紫音は勢いよくパソコンのエンターキーを押した。
だが、またどこか間違った様である。
「سلام. اسم من الی است. از حمایت مستمر شما متشکرم.」
「さっきのとどう違うんですか?」
また謎の言語を話したエリーを見て、みすかが呆れながら聞く。
「これは……ペルシア語ですわね」
先程よりは自信なさげだが、確かに正しい指摘だった。
「さっきからその異常な言語知識何なんですか……」
もう付き合い切れないという様にみすかは言うのであった。
そんなやり取りを経て、ようやく日本語を話す様になったエリー先生をユニ達の元へ派遣しようとする紫音だったが、ある問題が起こる。
ユニ達の元へエリーを歩かせようとした紫音だったが、その歩き方は妙にぎこちない上に遅かった。
「もう少し早くなりません?」
そうみすかが言うので、紫音は一旦エリーの電源を切ると、その内部を弄る。
「これで何とか……」
紫音がそう言って電源を入れる。
その結果は、一応動きはしたのだが……。
「イートーマキマキイートーマキマキヒーテヒーテトントントン イートーマキマキイートーマキマキヒーテヒーテトントントン」
「今度は何ですか!てか何で糸巻きの歌!?」
「バグってしまったか……」
頭を抱える紫音。こうなっては仕方がないと、エリーの電源を切る。
「残念ながら、エリー先生計画は凍結じゃな」
「参考書や過去問を取り寄せたのに残念ですわ……」
肩を落とす二人に、みすかは最初から自分が思っていた事を伝える。
「……その参考書や過去問を皆さんに提供する形じゃダメなんですか?」
その発言に、二人は思わず膝を叩くのであった。
みすかの言う通り、どれみは取り寄せた参考書や過去問をユニ達に提供するのだった。
そうこうしている内に、いよいよ全員の受験日となった。
瀬楠家の玄関で、ユニは改めて全員に聞く。
「みんな、どこを受験するんだっけ?」
みんなは口々に答える。
「某大学の心理学科だ」
「体育大学で陸上を続けるんだ」
「私も同じ大学で、そこからスーツアクターを目指す!」
「ファッション科!いつか自分のブランド持ちたいから!」
「漫画学専攻だ」
「丁井先生と相談して、芸能に理解がある大学にした」
「ルアに同じく。まあぼくはあまり顔出しはしないけど」
「マッサージ学科!なのです」
「無難に学力で選んだ理数学科です」
「神仏系」
「教育学科」
「おれ様は……ルーシーとおんなじ所だな」
それぞれ上からルーシー、七海、アキ、アゲハ、藤香、ルア、メイ、モミ、萌絵、ミズキ、ヒナ、アザエルの目標である。
「そう言うお前はどこだっけ?」
「おれは……」
ルーシーに聞かれ、ユニは受験票を取り出す。
刀大の受験票だった。
「おれはとにかく上を目指す。みんなと釣り合う人間になりたいから」
それを聞いた彼女達は思わず赤面するのであった。
「じゃあみんな、それぞれいい結果を持ち帰れる様に!頑張るぞ!」
「おー!」
空に拳を突き上げるユニ達。
その空は、間もなく訪れるみんなの成功を予言するかの様に、青く澄んでいた。
悪魔との契約条項 第二百八十八条
人生とは、常に勉強である。
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