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契約その286 ヒナの本当のheart!

「あれがカピバラでしょ?かわいい〜♡」


 カピバラふれあいコーナーにやって来たユニとヒナ。どうやら実際に抱いたりできる様である。


「ウサギとかモルモットとかは聞いた事あるけど、カピバラ抱けるって珍しいんじゃないかな」


 看板を確認しながらユニが呟く。


 そこそこの客が並んでいたが、すぐに二人の番は来た。


 飼育員に持ってきて(?)貰ったカピバラを自分の膝の上に乗せるヒナ。


「ふふっ……背中の毛がふかふかしてる……」


 その姿を見たユニは、ヒナの穏やかな顔にどこか慈母の様な優しさを感じていた。



「ああいつの間にかお昼か……」


 カピバラとのふれあいを終え、スマホの時計を見ながらヒナが呟く。


 厳密には正午からは少し過ぎているのだが、正午ピッタリに昼食を食べようとすると、やはりかなり待つ。


 なので、ご飯の時間は正午からは少しズラそうという話になっていたのだ。


「お昼どうしようか」


「園内にレストランがあるからそこで食べよう。ネットのパンフレットならすぐに待ち時間が見れるし」


 ユニはそう言うと、園内に何ヶ所かあるレストランの待ち時間を確認するのだった。


 現在地から程近いレストランを見つけ、ユニ達は入店する。


 繁忙期から少し時間がズラした事で、待たずに席に座る事ができた。


 レストランの奥の方に座る二人。


「ヘェ……こんなにたくさんあるんだ。メニュー」


 机の上に置いてあったメニュー表を見て、ヒナはそう呟いた。


「結構値段高いな。観光料金か」


 見るとどのメニューも1000円台を超えている。高校生には結構痛い出費である。


 だが、彼女とのデートに、ユニはあらゆる出費を惜しまない。ユニはカレーを頼んだ。


「じゃあ私はナポリタンで。交換しようね」


 ヒナはそう言いながら笑いかけた。


 程なくして二人分の料理が机に届いた。ヒナはナポリタンを丁寧にフォークに巻き付け、左手を添えながらユニの口元へと持っていく。


「はい。あーん」


「いやちょっと待っててね」


 それを見たユニは慌ててヒナを制止すると、スプーンの上のご飯とルーの比率がちょうど半分になる様に調整しながら掬う。


「ほら、同時に……ね」


「……っ!」


 それをヒナの顔は、ぼっと赤くなったのであった。


 その後、料理の交換を経てレストランを出た二人。


「じゃあ今度は遊園地方面に行こうか」


 そう言うユニの手を、ヒナは強く握りしめた。


「このままで行こう。周りの目なんて気にせずにさ」


 ヒナがいいのならそれでもいいと考えたユニは、手を繋ぎながら一緒に遊園地方面へと向かうのであった。


 一度に楽しめる人数が決まっている遊園地は、極論動物を見るだけの動物園と比べて必然的に待ち時間が多くなる。


 それはユニ達が最初に乗ろうとしたメリーゴーランドもまた然りである。


 とはいえ、それ程待つというわけでもないのだが。


 一通りメリーゴーランドを楽しんだ二人は、今度はジェットコースターの方へ向かう。


 ジェットコースターは人気アトラクションという事もあってか他と比べて待ち時間が多い。


 例のネット用パンフレットを見ると、一、二時間待ちとなっていた。


 これを待つとなると他のものに乗る時間がなくなってしまう。


 そう考えたユニはやめようかと聞くが、ヒナの考えは違った。


「いや、あなたと一緒に待ちたいの。あなたと一緒なら、きっとどんな時間でも楽しいから」


 手を強く握られながらそんな事を言われては、ユニは断る事はできない。そのまま並ぶ事にした。


 並んでいる最中、ヒナはユニの手どころか腕全体をガッシリと掴んでいた。


 これはもう恋人を超えて夫婦の様な雰囲気である。


 状況を察してか、周囲の人が心なしか避けている様な気もする。


 子供連れなんかはユニ達のそばを通る時は足早に去って行った程である。


「ヒナ……」


「いいの!」


 自分はともかくヒナが避けられている状況がイヤだったユニだったが、ヒナは頑なにその体勢を崩さなかった。


 その体勢は、ジェットコースターに乗るまで続いたのであった。


 ジェットコースターに乗り終わると、そろそろ閉園の時間かという時刻になる。


「でも、あと一つぐらいは乗れるな。どうする?」


 ヒナは園内の中央にある観覧車を指差した。



 閉園時間が近づいてきたのもあってか、観覧車へは待たずに乗る事ができた。


 従業員の指示に従い、二人はそれぞれ向かい側の席に座る。


 観覧車からは、冬の夜景がよく見えていた。


 だが、二人はお互いの顔をじっと見つめている。


 先に口を開いたのはヒナだった。


「今日ね、すっごく楽しかった!」


「本当にそうだった?」


 ユニの言葉に、ヒナは思わず口ごもる。


「おれには、キミが必死に自分にアピールしている様に見えた。まるで……」


「やめて!それは、私の口から言わせて」


 ()()をユニの口から言わせるのは、それこそ自分が惨めな気持ちになる。


 そう思ったヒナは、ユニを制止するのであった。


「私ね、あまりに『普通』すぎる自分がずっとコンプレックスだった。前にそれでいいってあなたは言ってくれたけど……それでもね」


「……」


 ユニは黙っていたが、今にも自分を殴り出しそうになっていた。


 まさかそんな事を思っていたとは。そしてそれに気づかなかった自分が情けなかったのである。


 ヒナは話を続ける。


「だから!それが怖くて、あなたにアピールしてたけど、やっぱりこういう時は楽しまなくちゃダメか……」


 ヒナは二回深呼吸をし、落ち着いたのか再びユニの方をじっと見る。


「それで私は、『普通』をやめる事にしたの」


 ヒナは自分の荷物からあるものを取り出す。刀大教育学部の受験票だった。


「成績的に難しいって言われたけど、私は目指す。そして私は、『普通』を卒業するんだ!」


 幼稚園の先生になるという夢はそのままに、ヒナはそんな決意をしていたのだ。


「……!」


 そんなヒナに、ユニは驚愕の表情を浮かべる。


「これが終わったらもう受験のラストスパート、勉強三昧になるでしょ。だから最後だけは……楽しみたい」


 ヒナはそう言うと、アップに結んでいた髪を解き、ロングヘアの姿になった。


「だからお願い。キスして」


 ユニには断る理由がなかった。


 ここで観覧車は頂上に達する。最上級の夜景をバックに、二人は熱いキスを交わすのであった。


悪魔との契約条項 第二百八十六条

「自分のままでいい」という結論は、必ずしも最適解ではない。

読んで下さりありがとうございます。

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