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契約その284 Doctor candidateの夢への第一歩!

「キミなら絶対受かる!」


「それでは、行ってきます!」


 ユニ達の応援を受けて、風月は医学部の試験会場へと向かうのだった。


 刀大医学部の受験はかなり早く、一月の下旬にはもう始まる。


 風月はそれに向けて、ここしばらくはずっと勉強をしていたのだ。最近口数が少なかったのはその為である。


 とはいえ、彼女の勉強は困難を極めた。


 元々風月は大正時代の人間である。最初は現代の風俗についていくのすらままならなかった。


 幸いユニ達の助けを得て、今では現代の技術にも適応できる様になったが、やはり他人とのディスアドバンテージは埋めがたいものがあった。


 その事について風月が悩んでいると、ユニはこんな事を言って彼女を励ました。


「心配するな!キミにはそれを補って余りあるものがあるじゃないか!」


「私に……?」


「ああ!それは『心』さ!()()()救えなかった命を、今度は救いたい、そういう心は誰にも負けないはずさ!」


 ユニはそう言って笑いかけてくれた。


(由仁さん……)


 風月はまもなく駅につき、大学への最寄りの駅に着く電車に乗る。


 平日のラッシュから少し遅れた時間という事もあってか、席は風月が座れるぐらい空いていた。


 風月はここで、荷物の中から手紙を取り出す。


 百年を超えて届いた、忌部しおねからの手紙である。


 ふとした時に読める様にしてあるのだ。


(しおねさん、イヅさん、そしてお父様。私は今から未来を……)


 その時である。


「うっ……くっ……ああっ……!」


 突如、優先席に座っていた妊婦らしき女性がうめき声を上げながら倒れた。


「何だあれ……」


「まさか陣痛?」


 そんな声が周囲から聞こえてくる。


 その様な状況を見てか、誰かが電車の非常停止ボタンを押した様だ。電車は急激に速度を緩めて止まった。


 状況確認の為に車掌が客車までやってきて、女性がうずくまっている状況を見た。


「これはまさか……産まれるのか?あの!すみません!どなたかお医者さんはいませんか!」


 叫ぶより車内アナウンスを使った方がいいと考えた車掌は、車掌室へ戻ると陣痛を起こした乗客がいる事、医者や看護師を探している事をアナウンスで伝えた。


「私がやりましょう」


 名乗りを上げたのは恰幅のいい男性であった。


「産婦人科の医者の端くれです。私がやるべきでしょう」


 そして急遽、電車内での出産が始まったのだった。


「どなたかタオルを!ハンカチでも!」


 医者の指示に従い、周囲の人がタオルやハンカチを渡す。


「やはり手が足りない……!どなたか手伝ってくれる人はいないか!」


 医者が叫ぶ。


 だが、タオルやハンカチを提供するのならまだしも……という漠然とした雰囲気が周囲に流れた。


 そんな中、手を挙げる人物がいた。風月である。


「私、手伝います。医学部の受験をして、今は試験会場へ向かう途中だったんですけど……」


 ただの素人よりいいと、医者は風月に手伝いをする様に伝えた。


 それから数分かけて、風月は医者の助手として出産の手助けをした。


 そしてついに、その時はやってきたのであった。


 突如周囲に響き渡る元気な泣き声。


「元気な女の子だ……よかった」


 タオルで包まれた産まれたばかりの赤ちゃんを見て、医者はそう判断した。


 今まさに誕生した命に、周囲からも拍手が湧き起こったのであった。


「あ……あわ……うっ……」


 そこで改めて「実感」がわいた風月は、安心、感動、あらゆる感情が爆発する。


 妊婦……もとい母親と赤ちゃんは、駆けつけた救急車で運ばれていった。


 それを見送った風月に、医者は声をかける。


「あの状況で声を上げる事は中々できない。キミはきっといい医者になれるよ」


「あ……ありがとうございます!」


 そう言って去り行く医者に、風月は頭を下げたのであった。


「って!こうやってる時間ないのでは!?」


 風月は慌てて腕時計を見る。


「このままじゃ間に合わない!」


 電車は、先程の出産で大幅に遅れが生じている。


「そんな……やっと未来を……」


「諦めちゃダメですわ!」


 落ち込む風月に、何者かが声をかける。どれみだった。


「どれみさん!」


「電車が遅れているという情報があったので!この距離と道路の混雑具合ならバイクが一番速いですわね……」


 どれみはそう呟くと、スマホで何者かに電話をかける。


「大至急、オートバイ一台とライダーを一人!それとヘルメットを!」


 そう電話越しに叫んだ数分後には、頼んだ通りのものが二人の前に届いた。


「とにかく、これで試験会場へ向かってください!」


 どれみはオートバイの後部に風月を乗せ、ヘルメットを被せながらこう言う。


「武運を、祈ってますわ!」


「あ……」


 どれみのその姿に、風月はどこかイヅの面影を見た。


 元より二人は瓜二つなのである。


「さあ急いで!」


 どれみに背中を押され、風月はオートバイに乗せられて試験会場へ向かうのであった。


 試験会場へはギリギリ間に合った。


 試験を前に、精神を集中する風月。


(私ならきっと大丈夫……これまで皆さんが良くしてくれたから……!)


 程なくして配られたテスト用紙。風月はテストへ向かい、順調に解いていくのであった。



 それからしばらくして、いよいよ試験の結果が届いた。


 風月は勿論、ユニ達もまた一様に息を呑む。


 封筒から出てきたのは「合格」の二文字だった。


「やったな風月!夢への第一歩だ!」


「はい……!はい……!」


 この現実に、風月は涙が止まらなかった。


 これこそが、のちに「世界で一番優しい名医」と呼ばれる花鳥風月の、誕生の第一歩だった。


悪魔との契約条項 第二百八十四条

夢を叶える原動力は、「思い」である。

読んで下さりありがとうございます。

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