契約その282 丁井先生のpunkな怒り!
「"守護者の矢群"!」
「"上位の死撃"!」
人間、悪魔、天使の三人の力が宿った攻撃が、「しもべ」達を瞬く間に倒していく。
「よし、十分戦えるな」
会心の笑みを浮かべるユニ。だが、ルーシーは少し不満げな様である。
「どうしたんだルーシー」
それに気づいたユニが聞く。
「いやまあ、確かに不満はないけどさ……」
ルーシーは一瞬言い淀むが、隠していても仕方がないと考え直し、アザエルに言う。
「技名、どうにかならなかったの?何だよ『デストライク』って」
「デスとストライクのかばん語だ。わからなかったか?」
「わかった上でだよ!?」
あっけらかんと言うアザエルに、ルーシーは反論した。
ユニは、それを何とか仲裁しながら言う。
「まあまあ。とにかく、『しもべ』は粗方倒した。あとは……」
ユニ達は、丁井先生の方へ目を向けるのであった。
ユニ達が目を向けた先では、今もなお丁井先生と岩倉が戦っていた。
「知ってるよ。アンタが瀬楠の説得を受けて、ちゃんと自首したっていうのは」
拳を交えながら、丁井先生は岩倉に問いかける。
「だから、これはアタシのただの八つ当たりなのかも知れない!でも!」
丁井先生は、岩倉の両腕をガッシリ掴むと、足の力で力一杯投げ飛ばす。巴投げである。
「アンタはもう、二回も生徒を裏切ってる!その信頼を取り戻すには、これから行動していくしかないんだ!」
丁井先生がそう言い終わった瞬間に、岩倉は地面へと投げ落とされた。
「アタシも、人の事言えないけどな……」
その丁井先生の口振りは、どこか自分に言い聞かせている様でもあった。
岩倉はというと、幸い積雪がクッションとなってケガはない様である。もっとも、今は悪魔の力を持っているので高所から落ちたくらいではケガはしないが。
だが、それよりも丁井先生の言葉が岩倉にとっては響いた様である。
「ア……ぐあ……アア……ス……スマナイオ前ラ……」
岩倉はしきりにそうつぶやきながら、頭を抱えている。
その光景を見て、ユニはこんな見立てをした。
(自我が戻ってきている……?悪魔の力は人間の思いと密接な関係があるから、丁井先生の思いが届いているって事か……!)
それはユニの見立て通りである。他の契約者とは違い、岩倉は自ら望んで力を手に入れたわけではない。
それはつまり、力を渇望する思いは薄く、ほんのきっかけ一つで力から解放されるという事である。
「もう一押しだ丁井先生!あと少しで彼を解放できる!」
ユニの言葉に、丁井先生は強く頷く。
「気をしっかり持て!力に打ち勝て!お前がまだ、本当に、『教師』であるなら!」
「ウワアアアア!」
ものすごい叫びと共に、岩倉の体から紫のもやの様な「何か」が放出される。
「……!そうだ!」
何かを思い立ったアザエルは、ユニの体を動かすと、その「何か」に向かって飛び上がる。
「ちょっ……!何をする気!?」
「これを捕まえるんだ!"聖なる捕獲網"!」
ユニ、もといアザエルがそう唱えると、両掌から光の網が出てくる。
二つの光の網は複雑に絡み合うと、「何か」を残らず捕える。
「"封印"!」
アザエルがそう唱えると、光の網が透明な小瓶となって中の「何か」を完全に封じ込めた。
「それをどうする気だ?」
ルーシーが聞くと、アザエルは得意げに言う。
「『力』っていうのは天使や悪魔によって波長が違う。例えば人間の指紋みたいにな」
「成程、それを調べれば、力の元になった悪魔とか、被害者達の詳細がわかるかも知れないって事か」
ユニが納得した様に呟いた。
「さてと」
元の姿に戻ったユニ達と、丁井先生は岩倉が目覚めるのを待つ。
いつの間にか吹雪は止み、太陽が顔を出していた。
数分程で岩倉は目覚めた。
「お前ら……」
体を起こしながら呟く岩倉。
「岩倉先生、大丈夫ですか?」
「ああ……」
ユニが聞くと、岩倉はそう短く答えた。
「早速ですけど、教えてください。あなたがあんな事になった経緯を」
ユニが聞く。
「わかった。おれが知る全てを話そう。どうやらお前らはあいつとは因縁があるらしいからな」
「あいつ……」
「悪魔殺し」の事である。ユニ達はお互いに顔を見合わせながらそう確信した。
「まずおれがあいつと強制的に契約させられたのは約二週間前。人目のつかない路地まで誘い込まれたんだ」
岩倉が言うには、そこで無理やり『契約』を結ばされたらしい。
「おれの他にも、『契約』を結ばされた奴がいるらしい。どんな奴かはわからないが、おそらくお前らと因縁を持つ者達だろうな」
どうやら「悪魔殺し」は、ユニ達を完全に敵と見なしているらしい。
だから「嫌がらせ」としてかつてユニ達と敵対した者達と強制的に契約させているのだという。
「強制的に契約か……最低限のモラルもないな。悪魔の契約は一応でも契約者の願いを叶えるものだ。奴はその体裁すら守ってない」
ルーシーが吐き捨てる様に言う。
そもそも人間の「悪魔殺し」なので、悪魔側のルールを守る必要はないという事だろうか。
「しかしおれ達と因縁のある者達か……多すぎてわからないな……」
ユニ達はこれまで多くの悪事を暴き、あるいは「敵」を倒してきた。
それが巡り巡ってまた「敵」として立ち塞がってくるという事である。
「とにかく、用心する事だ。じゃあな……」
岩倉は立ち上がると、そのまま去ろうとする。
その背中に、ユニは声をかける。
「これからどうするつもりですか?また『先生』になるんですか?」
「一度警察に世話になったんだ。『教師』には戻れない。だがなるだけやってみるよ。お前らの無事を祈る」
岩倉はそれだけ言うと去っていった。
その後ろ姿は、どこか堂々としたものだった。
「さてと、これからどうしようか」
ふとスノーモービルに目をやると、やはり黒い煙を吹いて壊れていた。
「あちゃー壊れてるなこれ。何て説明すれば」
「その心配はないぞ」
いきなりスノーモービルから聞き慣れた声がした。
「紫音!」
声の主は紫音である。
「このスノーモービルにはな、カメラとスピーカーがついているんじゃ。これまでの事は全てこっちで理解している。一旦こっちに戻ってこい。話はそれからじゃ」
紫音にそう言われ、ユニ達は瀬楠家へ戻ってきた。
ちなみにスノーモービルはユニとアザエルが担いで持ち帰った。
家まで帰ると、すぐにみんなが出迎えてくれた。
「お帰り。さてと、だいたいの事は把握してるが、詳しい事を話して貰おうか」
ユニ達は、外に出てからの事を洗いざらい話した。
「成程、改心した人も含めて、結構たくさんの人から恨まれてますからね私達」
風月がため息混じりに呟いた。
「そういうのは逆恨みって言うんです」
みすかが言う。
「とにかくこれからは、敵は確実におれ達を狙ってくるって事だ。でもおれは、みんなに幸せに……いやみんなと幸せになりたい」
ユニは自分の心の内を吐露した。
それを聞いた彼女達に、もはや言葉は不要である。
「そういえばさ、新年になって一度もやってないな。キスを」
ルーシーの言葉に、彼女達は皆一斉に相槌を打つ。
「……というわけで!新春キス大会を始めまーす!」
じりじりと近づいてくる彼女達を、ユニは快く受け入れる。
大会の会場となったリビングのテレビでは、やがて雪が止む事を報道していた。
悪魔との契約条項 第二百八十二条
強い思いの力をぶつければ、「悪魔の力」から契約者を解放できる。
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