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契約その28 アイツが社長令嬢でgirl in love!?

「あーダメじゃー!やっぱり資金が足りない!」


 紫音は、パソコンを前にして自室で机に頭を打ちつけて唸っていた。


 彼女はかねてより世界平和に役立てる超高性能AIの創造を目指していた。


 だがそれを作るのには、最低でも数兆円クラスの資金が必要であり、とても個人では賄いきれなかった。


 やはりスポンサーが必要だ。そう思った紫音は、ユニに相談してみる事にした。


「そんな……どれぐらい必要なんだ。お金が」


 自分で賄えるならと、ユニは自分の財布を取り出しながら聞いた。


「えーっと……低く見積もっても五兆円ぐらいじゃな」


 申し訳なさそうに紫音が言った。


「ゴ、ゴチョウエン!?何に使うんだ!そんなの!」


 自分の財布を取り落としながら、ユニは驚く。

 紫音はユニの財布を拾ってやりながら、事の次第をユニに話した。


「成程、世界平和の為の超高性能AIの創造か……。でもさすがに五兆円なんて融資をしてくれる人間なんて……」


 ユニは力になれずすまないと言った。


「やっぱりそうか……」


 やはりIIOで実績を積み重ねて地道に頑張るしかないのだろう。今はその実績を積む為の資金すらもないが。


 そんな紫音に、ユニはせめてものの助言をした。


「まあ可能性としてありえるのは()殿(でん)グループだろうな」


「火殿グループ……」


 火殿グループとは、(ざい)()グループと並んで日本を支配してきた大財閥である。


 始まりは江戸時代は大坂(現在の大阪)の商店だったが、明治に入って軍需産業や運輸業などで財をなしてきた。


 今や「火殿と財亜がなければ日本経済は立ち行かない」とすら言われる程である。


 その火殿の社長令嬢が晴夢学園の二年にいるらしい。


 と言っても接点など皆無である。


 そもそも常に十人規模のボディガードが脇を固めており、何か不穏な行動を取れば即拘束される。


 近づく事すらままならないのである。


「自分で助言出しておいてアレだけど、一体どうするんだ」


 紫音は少し考えてのち、あるものを自分の白衣のポケットから取り出す。


「これを使えば何とかなるな」


 紫音が取り出したのはクレジットカードぐらいの大きさのカードである。


「これは……?」


 そのカードを指差しながら、ユニが聞く。


「これは『IIO会員証』じゃ。この存在を()()()()者なら通じるじゃろうな」


 そもそもIIO側から企業に資金援助を申し出る事はよくある話である。


「IIO会員証」は、その証明となるのだ。


 翌日。


 夏も本番になる七月中旬、「()殿(でん)どれみ」は、スマホを片手にその日も会社経営に精を出していた。


「資金はここに……」


「このプロジェクトは……」


 廊下を歩きながら従者の持つ書類にサインや押印をする様は異様と言える。


 その眼前に紫音が現れた。


「あなたは……」


「お願いがあるのじゃが」


 紫音はIIO会員証を示しながら言った。



「それで、通ったのか?」


 ユニは火殿邸へ向かう高級車の中で聞いた。


「まだじゃ。五兆円融資する事について、プレゼンする事になっておる」


 ユニ達が乗っている高級車は、所謂リムジンという奴である。


 床もシートも信じられないぐらいフカフカで、ユニは落ち着かなかった。


「何でおれここにいるんだろ」


 落ち着かないユニは呟いた。


「一応付き添いとしてじゃ。他のメンバーは予定がつかんし」


 慣れているのか、落ち着き払いながら紫音が言った。


 こうして二人が訪れた火殿邸は、とにかくすごかった。


 学校の運動場ぐらいある広い庭園に、五階建てぐらいある巨大な建物。まるで社会の教科書に出てくる世界遺産だ。


 その四階にある現代的な会議室に二人は通された。


「お待ちしておりましたわ。忌部さんに瀬楠さん」


 煌びやかなドレスに身を包んだ火殿どれみが出迎えた。


 金髪縦ロールの髪型は、まるでおとぎ話に出てくるお姫様の様であり、自分達とは住む世界が違うという事をまざまざと見せつけられた。


 しかし、現代の会社のオフィス風の会議室とはややミスマッチである。


「この様な場でも常に気高い立ち振る舞いを求められますの」


 どれみは言った。


 まもなく紫音のプレゼンテーションが始まる。


 特に何をするわけではないのだが、ユニはまるで自分の事の様に緊張していた。


 ユニとどれみ以外にも割と多くの聴衆がいた。彼らが皆火殿グループの人間かどうかはユニにはわからなかった。


 しかし、いかにもやる気のなさそうな人も見受けられる。


 いくらIIOの試験に最年少で合格した実績を持つとはいえ、まだ十三歳の少女だ。ナメられててもおかしくない。


 ユニはそのやる気のない者を殴り飛ばしそうになったが理性で抑える。


 ここでそんな事をすればどんな事になるのか、この場にいる誰もが知っている事である。


 拍手に出迎えられ、紫音が登壇する。拍手が鳴り止むのを待ってから、紫音はプレゼンテーションを始めた。


「まず今後の日本のAIの展開についてですが、日本はこの分野では大幅に遅れを取っており、その現状を打破するには……」


 いつもの年寄りくさい話し方は鳴りをひそめ、非常にハキハキと発表をする紫音。発表に慣れている様だ。


 ユニは、ふと真横に座っているどれみを見る。その視線に気づいたのか、どれみはニコッと笑いかけてくれた。


「しかし、どっかで見た事あるんだよなあ」


 ユニは彼女の笑顔を見てそんな事を考えていた。


「以上でプレゼンテーションを終わります。質問がございましたら挙手をお願い致します」


 どうやら質問コーナーが始まった様だ。


 何人かの聴衆が挙手をしている。紫音はその質問に実に真摯に答えていた。


 自分は融資を受ける側で、完全にアウェーな事は紫音も理解していた。


 なのでミスのない様に発言には最大限気をつけているのだ。


 質問も終わり、紫音は退場する。ユニも一緒に会議室から出て、紫音を労った。


「お疲れ様」


「あーダメじゃー!どうしてもあの雰囲気に慣れん!」


 紫音は今度は壁に頭を打ちつける。


「手応えはどうだ?」


「まったくわからん。だってあいつらうんともすんとも言わんもん」


 紫音はため息混じりに言った。


「お疲れ様ですわ。お二人様」


 全ての行程を終えたどれみが話しかけてきた。


「ああどれみ()


 ユニがどこか他人行儀に言った。


「そんな……様づけだなんて……()()()()『どれみ』と呼び捨てにして下さいな」


 それを聞いた紫音はめちゃくちゃ驚く。


「は!?まさか二人は知り合いなのか!?」


 紫音の質問に、ユニは首を振り切る勢いで横に振る。


「いやいやいや!知らないよ!何で火殿のご令嬢とおれが知り合いなんだよ!」


 それを聞いたどれみは軽くショックを受けてこう言った。


「そんな……あなたと私は将来を誓い合った仲だというのに……」


 どれみはもう完全に恋する乙女の顔になっている。


 わざわざこんな事せずとも、ユニが一言融資を頼めばそれで解決したのではないだろうか。


「ちょっと待ってよ!いつおれがそんな事言ったんだ?」


「そんな……覚えてらっしゃるクセに……イジワルな方……」


 さっきから「そんな……」から話し始めているが、口グセなのだろうか。


 そんな呑気な事を言っているヒマはなく、ユニは動揺しながら言う。


「本当に覚えてないんだって!」


 頑ななユニの言葉に、どれみはようやく信じた様だ。


「あら、本当ですの?それなら、しばらく時間を取らせて下さいませんか?お茶でもしながらお話し致しましょう」


 そう言うと、どれみは、ユニ達を自室へと招いたのだった。


 悪魔との契約条項 第二十八条

 悪魔にとっても、人間にとっても、恋とは盲目である。

読んで下さりありがとうございます。

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