契約その277 Xmasのエリー!
今日は12月24日。ユニが女の子になって三回目のクリスマスイブがやって来た。
商店街まで来たみすかは、自分のスマホを見て買うものを確認する。
「買うものは……ケーキの材料と……夕食のシャケ……シャケ!?」
スマホの買い物メモを見て、みすかは絶句した。
「何でクリスマスにシャケなんですか?」
「それはアキさんからのお願いです。『クリスマスにはシャケを食え』、燦然と輝く格言だそうです」
ついて来ていたエリーが答える。
「それはわからないけど……どこで買えばいいんでしょう」
「本格的なものなら魚屋さんがいいと思われますが、アキさんは『そこまで拘らなくても良い』と仰っていました。スーパーで買うのがよろしいかと」
エリーの進言に従い、二人は商店街から少し離れたスーパーへと向かうのであった。
「しかし、今年はホワイトクリスマスじゃないんですね」
スーパーで品物をカゴに入れながら、みすかが呟く。
「今年のクリスマスは快晴の予定です。わたくしの天気予報でもそうなっています」
「確かにそうですが……」
どうせならロマンチックなクリスマスがいい。そう思っていたみすかは微妙そうな顔をする。
その顔が、エリーには忘れられなかった。
買い物を全て済ませ、スーパーから出て来た二人。
「買えたー!ケーキの材料まで全部!商店街が衰退する理由がわかりますね」
「はい。若い世代になればなる程『商店街』に馴染みのある人は少なくなっていく傾向にあります。『商店街』という文化が過去の遺物になるのも、もはや時間の問題だと思われます」
「何だかわからないけど、大変ですね……」
そんな会話をしつつ家路を急ぎ、近いからと公園の中を突っ切る二人。
「まったくじゃ……商店街もわしも、必要なくなれば消えていく……まるで名残の雪の様に……」
二人の会話を聞いていたのか、公園のベンチに座っていたある老人がそう呟いた。
「……みすかさん。先に帰っていて下さい」
「どうしたんですか?何か買い忘れ?」
そうは聞くが、みすかにはエリーが買い物を忘れるとは思えなかった。
「いいえ、困っている人がいたら助ける様に。そうプログラミングされていますので」
「そうですか。わかりました。先帰ってますね」
荷物を託されたみすかは、エリーを公園に残して去っていった。
エリーは老人の隣にゆっくりと座る。
老人は、まるで仙人の様な白く長いヒゲを蓄えていた。
深緑のジャンパーを羽織り、一応赤いマフラーを巻いている姿は路上生活者の様である。
だが手に持っている大きな袋は、たとえばサンタクロースが持つ様なものであった。
「何の用じゃ」
「何となくですが、どこか困っていらっしゃる様に見えたので」
エリーは老人の方を見ながらそう答えた。
「……このジジイの話を、聞いてくれるかの」
「承知致しました」
「お前さんもこんな事聞いたら笑うと思うが」
「笑わそうとしているのならともかく、真面目な話をしている人の事を笑うのはいけない事だと教わっています」
エリーの返答に、老人は少し気が楽になったのか、少し笑顔になり、話を始めるのであった。
「さてと……単刀直入に言うと、わしはサンタクロースじゃ」
「サンタ……クロース?」
エリーは自分の記憶を探り、「サンタクロース」についての情報を引き出す。
「サンタクロース、一般的には良い子にしていた子供達にプレゼントを送る存在です。ですが存在しているとは……」
そこまで言って、エリーは紫音のある言葉を思い出した。
「サンタクロースがいるかじゃと?」
以前、ユニ達の間でそんな事が議題に上がった事がある。
「はい。果たして紫音は『いる派』か、それとも『いない派』か聞いてくる様に頼まれました」
エリーにそう聞かれた紫音は、難しい議題じゃ……としばらく頭を悩ませていたが、こう答える。
「わしはいると思うぞ。だって悪魔も天使も神様だっているんじゃし。むしろ会ってみたいもんじゃ。科学的には興味が尽きないからな」
紫音はそう言って笑いかけるのであった。
「そのサンタさんがなぜここにいるのでしょうか。今日はクリスマスイブ、今年で一番忙しいはずです」
当然の疑問を呈するエリー。
そんなエリーに、サンタクロースはどこか遠い目をしながらこう答える。
「誰もサンタクロースを信じなくなった。子供へのプレゼントは親が買い、それを子供に渡す。その事を、子供も薄々感じ取っておるのじゃ」
「そうですか……」
「信じるのか?」
「ええ。信じます」
エリーは自信を持って答えた。
正直、ここまでの話は老人の戯言だと多くの人は思うだろう。
だがエリーにウソは通用しない。なぜなら彼女は人がウソをついている時のわずかな動揺や緊張を感じ取れる能力が備わっているからである。
だが彼からはそういったものが一切感じ取れなかった。
だからこそ、エリーは彼がサンタクロースである事を信じたのである。
「サンタさん。少なくともわたくしは、サンタさんの存在を信じていました。この世界には天使も悪魔も神様だって存在しますから」
そう紫音が言っていたと、エリーは付け加える。
「そして今、会えたという事は、少なくともわたくしには存在が証明されたわけです。ありがとうございました」
エリーは頭を下げてお礼を言う。
「……良い子じゃな。あなたは……」
サンタクロースは、持っていた大きな袋に手を入れると、中にあったものをエリーに渡した。
両手で持つぐらいの立方体の箱である。
「これは……」
「わしからのクリスマスプレゼントじゃ。まだサンタクロースを信じている子供達の為に、わしにもやるべき事ができた。ありがとう」
「いえわたくしは、わたくし自身の考えを言っただけで……」
お礼を言われて照れたのか、目を逸らしつつ答えるエリー。しかし、あの老人はいつの間にか姿を消していた。
「……?」
エリーは戸惑いつつも、待たせては悪いと家路を急ぐのであった。
家に帰って来たエリーを待っていたのはユニだった。
「お帰り。よかった。変なおじさんと会うってみすかから聞かされてたから、迎えに行こうと思ってたんだ」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
頭を下げて、今度は謝罪をするエリー。
ユニは、エリーが持っている謎の箱に気づいた。
「それは何?クリスマスプレゼントみたいだけど」
「サンタさんから貰ったのです」
「?」
頭にはてなマークが浮かぶユニ。
「おかしいのう……さすがにウソをつけるまでシンギュラリティは進んでないはずじゃが……」
そのやり取りを見ていた紫音が首を捻る。
サンタクロースはいると思っている紫音も、実際に見た事はないのでサンタクロースと会ったという話を信じられない様だ。
「その……神社グラビティの話はいいからさ、開けてみようよ!」
玄関までやって来たアゲハがそう急かすので、エリーは恐る恐る開けてみる。
開けた結果は、何もなかった。
イタズラだったのかと訝しむユニ達。
その時である。
「みんな!窓を見てみて!」
突然ルーシーが玄関までやってくる。
「窓……?」
ユニ達が窓を見てみると、そこには一面の雪景色が広がっていた。
「ホワイトクリスマスか!」
「ロマンチック!」
口々に言い合うユニ達。
(きっと、サンタさんからのプレゼントですね)
エリーはそう心の中で思った。
その夜、街の至る所でソリに乗るサンタクロースの姿を見たという人が続出するのであった。
悪魔との契約条項 第二百七十七条
天使も悪魔も神様もいるのなら、サンタクロースも確かに存在する。
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