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契約その276 変身item入手困難!?

 ―――某月某日 午前8時 大手オモチャチェーン店「トイジャラス」前―――


「うわーもう並んでる人いるな」


 長蛇の列を見て、ユニは開口一番素直な感想を口にした。


「アタシはここでいいか?」


 丁井先生が、路肩に車を停めてから言う。


「はい。朝早くありがとうございました」


 ユニ達は、丁井先生に頭を下げてお礼を言うと、去っていく車を見送った。


「さてと、作戦を説明するぞ」


 自分達も列に並んだ後、今回のメンバーであるユニ、アキ、萌絵、ミズキの四人は、アキのスマホを見ながら今回の作戦の確認をする。


「今から1時間後、開店と同時に私達含めた全ての客が一斉に売り場へと殺到する事になる」


 アキのスマホには、店内の地図が表示されていた。アキはそれを指差ししながら説明を続ける。


「アイテムチームと武器チームの二手に分かれ、各自目当てのアイテムをゲットする。一種類につき一個だ。他の人が買えなくなるから」


 そして、各自ケガだけはするなとアキは最後に言って締めた。


 ユニ達は今日、アキから頼まれて特撮の変身アイテムの買物に来た。


 オモチャはいつでも買えるのではと言うユニ達に対して、アキはこう言う。


「本当は()()()一番理想なんだ。だが現実はそうはいかない。特に今季は注目度が高くてだな……SNSでも買えた買えぬの阿鼻叫喚の声が多いんだ。本編さながらの争奪戦が予想される」


 ユニには、アキの並々ならぬ決意が感じられた。だから協力しようという方向になったのである。


「ルーシーとアザエルにも声かけようとしたけど、最近学校以外で姿を見ないからな……」


 激しい争奪戦に彼女達の力も借りたかったが、やむなくアキ、アキを手伝いたいユニ、アキの同志萌絵、運がいいミズキの四人というメンバーになったのである。


 午前9時、いよいよ店の自動ドアが開き、戦いの火蓋が切って落とされた。


 ものすごい勢いで店内になだれ込む客達。その勢いに、ユニ達は思わず面食らった。


「速っ!福男選びみたいだ」


 だが驚いている場合ではない。少し遅れたが、ユニ達も売り場へと急ぐ。


「いいか?さっき言った通りに二手に分かれる。ミズキが武器の確保。それ以外はアイテムの確保だ!」


 わかった!と決意を新たにミズキは武器玩具の売り場へと走り去っていった。


「こっちを三人にした理由は、こっちの小物系収集アイテムの確保が一番難しいからだ。私達も急ごう!」


 ユニ達もまた、変身アイテム売り場へと急行するのであった。



 売り場は、すでに多くの人でごった返していた。


「この中に突っ込んでいくんですか!?」


 さすがに萌絵も怖気ついた様である。


「じゃあ役割分担しよう。私とユニでアイテムを回収するから、萌絵はそれを受け取って、レジへ走って欲しい」


「わかりました!」


 スムーズに役割分担が済み、ユニとアキはまさに争奪戦のど真ん中へと突撃していくのであった。


「うおっ!痛いな!誰かに足踏まれたぞ!?」


 しかしそれはまだ序の口である。踏まれたり、髪を引っ張られたり、ひどい時には殴られたり噛みつかれたりしながら、二人は売り場の最前列にやってきた。


「すでにもう売り切れも出てきてるな……」


 それでも、アキは辛うじてオモチャのパッケージを手に取り、その瞬間に群衆はレジを目指して一気に離散した。


「いてて……ユニ、大丈夫?収穫は?」


 アキの問いかけに、ユニは両手をひらひらさせながらダメだった、丸坊主だと呟いた。


「そうか……でも無事でよかった。それに一番欲しかったやつが手に入ったし、付き合ってくれてありがとう」


 手に入れられなくてごめんと謝るユニに、アキはフォローを入れた。


「じゃあ萌絵に……あれ?萌絵?」


 二人は辺りを見渡したが、どこにも萌絵はいない。


「たぶんさっきの人の波に流されてレジの方へ……」


 ユニの推測に、アキはあり得ると納得しながら首を縦に振る。


「ミズキはどうなったのかな?とにかく私達もレジへ行こう」


 二人がレジへ向かおうとした時だった。


 ある親子が、遅ればせながら売り場へやって来ていた。どうやら変身アイテムのオモチャを買いに来たらしい。


 しかし何一つ残っていない売り場の惨状を見てか、男の子は涙目になり、しまいには泣き出してしまった。


 それを()()()()()()アキは、ユニに一言、ごめんと言うと、その男の子にせっかく大変な思いをして手に入れたオモチャを譲ったのであった。


「よかったの?……いや、いいと思ったから譲ったんでしょ?」


 ユニの言葉に、アキは大きく頷いた。



 ともあれこれでユニ達側の収穫はゼロになったわけだが、おそらくレジまで流されていった萌絵を探しに、二人はレジへと向かった。


「一体どこにいるんだろ……」


 辺りを探していると、アキは何かを見つけたのか、荒い足跡を立てながらどこかへと向かった。


「あれ?まさか萌絵見つけたの?」


 ユニの言葉も気にせず、アキはレジに並んでいた男の背後に立つと、肩を叩いてこう言う。


「あの、あんた。どうしてそんなにオモチャが必要なんだ?」


 アキに話しかけられた男は、ビクッと驚くと、大量の脂汗を流しながら言う。


「こ……子供に買うんですよ」


「あんたの所にはそんなに子供がいるのか?何個も買う程の?」


 確かに、男は買い物カゴいっぱいになるまでオモチャを入れていた。


「いや、その、あの……私もファンなんですよ。この作品の」


 それを受け、アキは耳元でそっとこう呟く。


「この作品のヒーローの基本フォームを答えろ」


「え?いや……それは……」


 ファンならば答えられて当然の問題に、思わず言葉に詰まってしまう男。


 そんな男に、アキはこう言う。


「あんた……『転売ヤー』だろ」


「転売ヤー」とは、限定品や新商品を狙って買い占め、不当な金額でフリマアプリなどで売る人物の事である。


 本当に欲しい人が定価で買えない事態になるので、危険視されている。


 アキに転売ヤーだと指摘された男は、勤めて冷静に受け答えする。


「いや、そんな……人聞きの悪い……。私は『小売業者』ですよ」


「オモチャ屋()()()小売業者なんだよ!あんたらが横に入る必要はない!」


 アキはピシャリと言い放った。


「……知った事か」


 これ以上は付き合ってられないと、男は話を切り上げて再びレジに並び始める。


 だが、目の前で行なわれている迷惑行為を見過ごせるアキではない。


 逃がさないと言わんばかりに両腕で男を捕らえると、耳元でこう言う。


「どうする?二度と転売に関わらないか、それとも私に()()()()()!」


 アキの並々ならぬ殺気を感じ取ったのか、男は転売を諦めて商品を戻した後で逃げ去っていった。


「結局誰だったんだあの人」


「君が知る必要はないよ」


 ユニに対して、アキはそう諭した。


 その後、出口の方まで流されていったという萌絵も合流し、あとはミズキを待つ事になった。


 そのミズキは、武器玩具をしっかり入手しただけでなく、ユニ達が逃したオモチャも全種類買っていた。


「戸棚に戻していた人がいたから、一種類ずつ買ってたんだ」


 どうやらたまたまあの転売ヤーが商品を戻している所に遭遇し、ちゃっかり手に入れていたのだ。


「皮肉にもあいつが全種類キープしていたから、私達は全種類買えたというわけか……」


 複雑そうな顔をするアキだが、ミズキのファインプレーに、アキは感謝するのであった。


 その後「トイジャラス」は全国的に転売対策を実施、転売被害は最小限に抑えられる事となった。


悪魔との契約条項 第二百七十六条

転売は悪魔の所業である。許される事ではない。

読んで下さりありがとうございます。

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