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契約その273 Heroまでの、第一歩!

 泥棒を倒した後、通りすがりのある男性から名刺を貰ったアキは、家に帰った後もずっと考え込んでいた。


「一体何があったんだ?」


 気になったユニは、一緒にショッピングに出かけていたアゲハにその理由を聞いた。


「それがね……」


 アゲハは、ユニにその理由を耳打ちして伝える。


「さっき男の人に名刺を渡されたんだけど、その人がアキちゃんが好きな特撮にも出てるアクションスタジオのスカウトだったの」


 つまり泥棒を倒した身体能力を見て、スカウトしようとアキに声をかけてきたのである。


「成程……でもさ、それは別に悩む事じゃないんじゃないか?アキの夢だろう。ヒーローになるのは」


 ユニは、アキの状況を把握した上で言う。


 アキが目指しているのは、「特撮に出演できるヒーロー俳優」である。


 その会社からスカウトされたという事は、すでにその夢への内定を勝ち取ったと言っても過言ではない。


 一体、何を悩む事があるのであろうか。


 こればかりは、考えていてもわからない。


 ユニは、早速本人に事情を聞いてみた。


 アキの部屋のドアをノックし、入ってもいいか聞く。


 入っていいと言われたので、ユニはそーっとドアを開け、部屋の中へ入った。


 アキの部屋はよく整理整頓されている。


 紫音が作った壁一面の棚には、特撮ヒーローの変身アイテムのオモチャが放送順に丁寧に並べられていた。


 当然ユニが見ていた時のものもあり、部屋に入る度に懐かしいと感じていたのであった。


 だが、今回の目的はそこではない。当のアキは、机に先程貰った名刺を置き、頭を抱えて悩んでいたのである。


 ユニはその名刺を見ると、悪いがニセモノの可能性はないかと指摘する。


 その指摘に対して、アキは首を横に振りながら答える。


「私も調べてみたが、それはない。書かれてる電話番号も名前も、全て正規のものだ」


 アキが言うには紫音の手を借り、電話番号の逆探知をやったらしい。それなら確かに正確だろう。


「じゃあさ、一体何をそんなに悩む事があるの?キミにとって悪くない話じゃ……」


「私は、()()時期が早いと思ってる。でも、同時にだからってこのチャンスをムダにする事はないんじゃないかとも思ってるんだ」


 頭を抱えながらアキが言う。


「成程な……」


 確かに突然舞い込んだ話である。混乱してしまうのも無理はない。


「それに、成績的に大学進学を前提に今まで勉強してきたし、両親にも進学するって伝えてあるし……このタイミングで変えるとなると、色々迷惑がかかるんじゃ……」


 今はもう11月、土壇場で変える事はできないのでは?という懸念がアキにはあるのだ。


「一体どうすれば……」


 なおも頭を抱えているアキ。


 こういう時、どんな言葉をかければいいのか。ユニは考え抜き、あるアドバイスをする事にした。


「まず()()()、どうしたいんだ?誰かに迷惑をかけるんじゃないかとかは、その後だと思うよ」


「私がどうしたいか……?」


 アキは考える。これまで自分は迷惑をかけてはいけないと、人の事ばかりを考えていた。


「重要なのは自分がどうしたいか……か」


 アキは、ユニの方に向かうとこう言う。


「わかった。ユニ、ありがとう。お陰で吹っ切れたよ」


 それを聞いたユニは、笑顔で頷くとアキの部屋を去って行った。


「よし、決めた」


 アキはスマホを取ると、両親に電話をかけ、自分の決意を伝えるのであった。


 両親の意見はアキが決めたのならそれでいいというものだった。



 翌日。名刺に記されていた電話番号にかけ、アキは男性との約束を取り付けた。


 アキが指定した場所は駅前の喫茶店である。念の為という事で、アキから頼まれたユニも少し離れた席からその様子を伺っていた。


「待たせました」


 少し待っていると、昨日の男性がアキに近づいてきて話しかけてきた。


「いえいえ、大丈夫です」


 立ち上がってお辞儀をしながらアキが言う。


 最初はただの世間話から始める。最近寒くなってきたとか、特に中身のない会話である。


「では……そろそろお聞きしましょうか藤山さん」


 これまでの世間話モードとは打って変わって、男性が真剣なトーンで言う。


 この人はプロだと、アキは本能で察知した。


 そのプロの迫力に気圧され、アキは小刻みに震え出した。


「わ……私は……」


(言え!言うんだ私!傲慢で自分勝手かも知れないけど……)


 うつむいていた顔を上げ、しっかりと前を見据え、アキはこう言う。


「保留という形でもいいですか?」


「ほ……保留?」


 男性は受けるか断るかの二択だと思っていたので、思わず面食らう。


「私は大学進学をしたい。けどこのチャンスを逃す手もない。だから待ってくれませんか?私が大学を卒業するまで」


 言ってしまった。アキが言っている事は、要するに今は都合が悪いから改めて受けますというものである。


 傲慢で自分勝手な決断だった。


「でも私は!その、大学もちゃんと行きたいから……!これは私の意見です。その……自分勝手でごめんなさい」


 そう言いながら頭を下げるアキ。


「……!」


 男性は目を丸くしながら驚き、しばらく黙っていたが、突然少し笑い出した。


「フフ……いやすみません。今まで何人かのスカウトをしてきましたが、そう言われるのは初めてだったのでつい……」


 いえいえこちらこそと、アキは謙遜する。


「私達としても、有望なあなたを逃したくはない。わかりました。この件は保留としましょう。4年後、大学を卒業した時、あなたの考えが変わってなければ、その時はよろしくお願いします」


 では。と男性は言い、立ち上がる。そして一言。


「ここの代金は会社からの経費です。()()()も含めて、思う存分楽しんでください」


 どうやらユニの存在はバレていた様だ。男性は最後にそう言ってから去って行った。


「アキ!」


 男性が退店するのを確認し、ユニはアキの方へ駆け寄る。


「本当に、あれでよかったのか?」


 アキの席の向かい、つまりさっきまで男性が座っていた席に座りながらユニが聞く。


「うん。大学で学びたいっていうのも、スカウトを受けたいっていうのも、私の意思だ。たぶんそれが伝わったんだと思う」


「そうか、それならいいけど……」


 納得した様に言うユニに、アキは喫茶店のメニューを差し出しながら言う。


「何か頼まない?あの人の……いや会社の奢りだって言うし」


「喫茶店デートか。それいいな」


 ユニはそう言うと、甘いスイーツを頼み、アキとの喫茶店デートを楽しむのであった。


 この日が、いずれ実力派の特撮女優になるアキの、夢への第一歩となるのであった。


悪魔との契約条項 第二百七十三条

人生の大きな決断をする時は、自分が何をしたいのかが重要である。

読んで下さりありがとうございます。

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