契約その272 Heroの未来!
一週間もすれば、学校前に張り込んでいたマスコミ達も自然といなくなっていた。
出版社が過剰な取材にも強硬な姿勢を見せてきたからである。
出版社とマスコミは蜜月の関係、マスコミとしてもその関係を大事にしていきたいのだ。
というわけで、ユニ達にはまたいつもの日常が帰ってきたのであった。
だが、何も影響がまったくなかったというわけではなかった。
「というわけで、新生徒会長はキミだな。すまない。引き継ぎが遅れてしまって」
生徒会室にて、アキは新たに生徒会長に就任した後輩の女子生徒の肩を叩きながら言う。
「いえいえ、色々大変でしたから仕方ないですよ。会長」
「いや、私はこれからは前生徒会長だ。これから一年間、キミが『会長』と呼ばれる事になるんだぞ」
照れる現生徒会長に対して、アキは頑張れよと声をかけて退室した。
この時をもって、アキの生徒会長としての全ての仕事が終わったのだった。
アキはただ何となく、中庭にあるベンチに座る。
「ふう……」
自然とため息が溢れた。視線の先には、かつてモミが文化祭の時に創った彫刻があった。
題名を「天高く舞う恋する女神」という。二学期の始業式の時に高く評価され、モミは表彰されたのである。
なぜだかそれを見たユニは、その光景を二回目だ何だと言っていたのが、アキの印象に残っていた。
「あ!アキちゃん!お疲れー!」
手を大きく振りながら、アゲハが近づいてきた。
アゲハは生徒会の書記だったので、当然引き継ぎの場にもいた。だが、引き継ぎの後誰にも何も言わずに去っていった事が気になって追いかけてきたのである、
「そんで、どうして急にいなくなったりしたの?」
「どうしてって、ただ一人になりたかっただけだよ」
自販機で買ったコーヒーを渡しながら聞くアゲハに、アキは静かに答えるのだった。
アゲハもアキの反応に思う所があった様だが、ふと何かを思い出すと、アキにこう言う。
「そういえば、あなたにお礼を言いたい人がいるんだって」
「お礼?」
「それはおれの事です。前生徒会長」
そう言いながら、二人の前にある人物が現れる。
「キミは……!」
その人物の事を、アキはよく知っている。それもそのはず、その人物とは元生徒会副会長の義屋楽人だったのである。
その義屋は背筋を伸ばし、しっかりした姿勢で立っていた。
「……一体どうしたんだ。そんなに改まって」
驚くアキに、義屋はしっかり頭を下げてこう言う。
「今まで、ありがとうございました!あなたがいたから、おれは正義の呪縛から逃れる事ができた!そんな気がするんです」
どうやら「サタン」と契約していた頃の記憶は曖昧らしい。だが、アキが自分を助けてくれた事は明確であるという。
「そんな……私は……」
あの時彼を救ったのはユニである。自分ではない。
その事を指摘しようとしたが、それをアゲハは制止する。
「いいじゃん。素直に受け取っても」
アゲハにそう言われ、アキは義屋の感謝を受け止める事にした。
「おれ、弁護士になります。もう二度と、誰かに正義の為の犠牲になって欲しくないから……」
義屋はそう言い残すと、最後にもう一度だけお礼を言って去っていくのだった。
「……良い顔になったな。彼」
義屋の後ろ姿を見送りながら、アキは呟く。
「うん。あなたが取り戻したんだよ」
アゲハがアキの方を見ながら笑いかける。
「……」
アキはそれっきり黙ってしまった。
生徒会長としての役目を終えた今、大学受験へ向けて努力しなければいけない時期である。
だがそれ以降はどうだろうか。大学のその先である。
実はアキにはやりたい事がある。だがそれは、普通の事ではない。
その事をアゲハに伝えるべきか否か、さっきからずっと悩んでいるのである。
そんな言いあぐねているアキの様子を知ってか、アゲハは急に思い出したかの様にこう言う。
「そうだ!ウチ、ショッピングしたいんだった!付き合ってくれる?」
近くのショッピングモール、「レオン」にて。
アゲハはアキを連れて「レオン」内のとある服屋に入店すると、商品をよく吟味し、試着室に二人きりで入る。
「えー!?これ着るのか!?私はその、こういうのはあまり……」
「いいのいいの!ついでにメイクと……それから髪も……ここをこうして……」
しばらくして、試着室から二人が出てきた。
「わー!お似合いですよ。着ていきますか?」
出迎えた店員が営業スマイルと共に言う。
「はい。お願いします。あ、制服は紙袋に入れてください」
アゲハは、生徒会長勇退のお祝いも兼ねて、アキに服をプレゼンしようとしたかったのだ。
お会計を終え、店から出たアゲハは、アキに感想を聞いてみる。
「どうかな着てみて。うふふ」
「その……何というか……私じゃないみたいだ……それに生徒会長としてこんな格好は……」
「えーやめたからいいじゃん」
アキは、白いブラウスに黒いジャケット、赤と黒のチェックスカートに身を包んでいた。足には黒タイツと厚底のローファーが輝く。
メイクはダーク調の色彩でまとめ、ポニーテールにした髪を軽く巻いていた。
「中々似合ってるでしょ。これがあなたがいう所の、『変身』って事じゃない?」
バッとポーズを決めながらアゲハが言う。
(確かに……)
アキは、ショーウィンドウに写った自分の姿を見ながらそう思った。
「今日のプレゼントは、アキちゃん自身の殻を破る為のもの。これから新たな挑戦をするだろうから」
「そうか……」
アゲハのその言葉を受けて、アキはある決意をする。
「アゲハ、私は……」
その時である。
「ドロボー!」
近くからおばあさんの声がした。
二人が声がした方を振り向くと、おばあさんが倒れているのが見えた。
そんなおばあさんから猛スピードで離れる男の人影。おそらく泥棒だろう、不釣り合いな婦人用バッグを持っている。
「あいつか!」
アキは、アゲハにおばあさんの介抱を頼むと、その男を超えるスピードで追いかける。
「これで……!」
アキは、そばにあった木製ベンチをジャンプ台に、空中でバク宙する。
「食らえ!『厚底キック』!」
そして履いている厚底ローファーで男のこめかみ辺りを蹴り飛ばした。
「ぐあ!」
男はそのまま吹き飛ぶと、壁に激突して倒れるのであった。
その後、駆けつけた警察によって男は逮捕された。
警察との話を終え、そろそろ帰ろうとするアキ。
そんな中、アキにある男性が話しかけてきた。
スーツ姿で、特に怪しい様子は見られない。
まあ、女子高生に話しかけてくる時点で怪しいとも言えるが。
「もしもし?」
「……?誰ですかあなた」
「私はこういう者です」
男性から渡された名刺を受け取るアキ。
「こ……これは……!」
そこに書かれていた名前に、アキはただ、驚愕するのであった。
悪魔との契約条項 第二百七十二条
誰でも、己の殻を破る事は重要である。
読んで下さりありがとうございます。
いいね、感想などをよろしくお願い致します。




