契約その27 天才少女のそのdream?
紫音には、三階にあるせまい部屋が当てがわれる事になった。
「ゴメン。さすがにもうそろそろ部屋がなくなるからここぐらいしかないけどいいかな」
ユニが謝罪する。
「ああ構わんよ。住めば都というやつじゃ」
「ありがとう」
ユニと紫音が歩み寄っていく一方、一階のリビングではルアが自分の右腕にはめた「オーラ無リング」をいじっていた。
「それで紫音ちゃんが言うにはこの腕輪を回したりすれば自分のオーラを調整できるみたい」
ルアが説明する。
「へーいまいち実感が湧かないけどな」
オーラの有無でルアの見方が変わるわけではないからである。
ルアが説明を続ける。
「それはね、しばらく一緒に暮らしていたからじゃないかだって。芸能人のオーラっていうのは、他人に『遠慮』させる効果があって、それでしばらく住んだからトップアイドルの私にも『慣れ』が来てそのオーラが効きづらくなってるからみたい」
それを聞いたアゲハは言った。
「じゃあつまりウチ達にはルアの『芸能人のオーラ』が効きづらくなってるって事?だからその腕輪つけてても意味ないみたいになるんだ」
「うん、その通りだと思う」
この腕輪のエネルギー源は太陽光。なのでコンセントに繋いだりせずとも充電が可能である。
「あまりいじりすぎない方がいいぞ。熱を持って爆発する可能性があるからな」
しかし、どうやら遅かったらしい。
ドカァーン!という音が辺りに響き、ルアは黒焦げになった。
「もう!先言ってよ!」
ボロボロになったルアは、紫音をポカポカ軽く叩いていた。叩き慣れてないのが見て取れる。
ルアの状態は、ルーシーが悪魔の力で直した。
「部屋の紹介ついでにこの家のセキュリティの強化もしておいたぞ。これでこの家は世界最高のセキュリティハウスになったわけじゃな」
「何か変な喋り方だな。一体何歳なんだ?」
ルーシーが聞いた。
「わしはまだ十三歳じゃよ。『IIO』にジジイが多いからこんな話し方になっとる」
そういえばさっきそんな事言ってたなと藤香とルアは思った。
「その『IIO』ってのは何なんだ?噂には聞いた事あるけど」
藤香が聞いた。
「一言で言えば『天才発明家のサブスク』といった所じゃ」
「『サブスク』……」
ユニ達がお互いに顔を見合わせる。
「顧客からIIOにこの発明家がいいと金を払い、IIOが指名された発明家を派遣する。派遣された発明家はその顧客から資金などを提供され、顧客の要望に沿った発明をする。そうする事で組織が成り立っておるのじゃ」
「要は人材派遣会社みたいなものか」
ユニが言った。
「まあ厳しい試験があるから誰でも彼でも入れるわけではないがな。まあわしは三歳の時に試験をパスして、最年少で入ったが」
それは単純にすごいとみんなから称賛される紫音。
「そうだ。おれ達に発明品とか見せてくれよ」
ユニが頼んだ。
「発明品かー。仕事で開発した奴は企業秘密で見せられないものも多いが、わしが趣味の範囲で作ったものなら……」
紫音はそう言うと、自分のメガネを外してみせた。
「これも発明品の一種なんじゃ」
「メガネ外すと見えなくなるんじゃないの?」
七海が聞いた。
「これは伊達メガネじゃ。本当の視力は2.0ある。これはな、見たものの大まかな情報、それと話している内容なんかも盗聴できるから諜報向けの発明品じゃ」
「面白いな」
「他にもこのヘアピンはUSBメモリになってたりするし……部屋から取ってこようか」
紫音は一度部屋に戻り、たくさんの機械を抱えて戻ってきた。
「まだ『発明室』から持ち運んでないものもあるがな」
みんながそのたくさんの発明品を興味深そうに眺めていた。
「この電子レンジは?」
由理がその中の電子レンジを指指す。
「それは『オールレンジ』と言って、材料をレンジの中に入れる事で料理ができる。味はお察しだがな」
「このパンダの着ぐるみは?」
アキが聞く。
「それは『客寄せパンダ着ぐるみ』で、それを着て店頭に立てばたちまち千客万来の人気店になるという代物じゃ」
しかしそのデザインはパンダの口から人の顔が出る構図になるもので、あまりに恥ずかしすぎる。
いくら人気店になると言っても、あまり着たくないと誰もが思った。
「このスケボーみたいなのは?」
ルアが聞く。
「それは『家庭用(予定)ホバーボード』。水分を燃料として車並みのスピードを出せるホバーボードじゃ。作成費用が高すぎてまだ普及には至ってないが……」
「しかし面白いな。こんなに作って何をしたいんだ?」
ユニが興味深そうに聞いた。
「元々忌部家は発明一家でな、家訓は『人が幸せになる発明をしろ』じゃ」
「だからわしは発明の力でより多くのエネルギーを作りたい」
エネルギー……。
何だが壮大な話になってきた。
「古来より戦争とは『エネルギー』の奪い合い!つまり奪い合う必要もない程にたくさんのエネルギーがあれば戦争はなくなるというわけじゃ」
「わしがダメでもその次の世代が!その世代がダメでもそのまた次の世代が!積み重なればいつかはその域に辿り着くとわしは思うとる。その礎にわしはなりたい」
「ヘェ……」
中々な夢だ。
「戦争をなくす」言うのは簡単だが実際にやるのは難しい。
ずいぶんと壮大な夢である。だがユニは、はっきりと言える事があった。
「できるよ。絶対に」
「……そうか。そう言って貰えると嬉しい」
紫音は笑顔を見せる。
そんな中、ルーシーは思った。
「そんな事されちゃ、おれ達悪魔の商売上がったりだけどな」
すると紫音は、突然叫び出す。
「でも!その為には金が足りないんじゃ!確かに指名を受ければ潤沢な資金で発明ができるが、それはあくまで顧客のニーズに合わせたもの!夢の実現には程遠い……!」
「うわーどうすればいいんじゃー!」
そう言いながら机に頭を打ちつける紫音。慌ててみんなはそれを止めようとしたのだった。
かくしてエキセントリックな発明家、「忌部紫音」が新たにメンバーに加わったのだった。
悪魔との契約条項 第二十七条
多くの欲望が行き交う戦争は、悪魔にとって稼ぎどころである。歴史上、悪魔と契約した事で勝敗が決まった戦争もある。
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