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契約その267 幼稚園・mud playing!?

 学校行事として近所の幼稚園を訪れたユニ達。


 園児達とは概ね仲良く遊んでいたが、ヒナはその輪から外れた男の子を見つけ、話しかけに行くのだった。


 ヒナはゆっくりとしゃがむと、その男の子に優しく話しかけた。


「キミ、どうしたの?」


「……」


 返事がない。だが無視している訳ではなく、ただヒナの方をじっと見つめている様だった。


「お友達と遊ばないの?」


「……」


 ヒナの問いかけにも応じず、男の子は変わらず無反応を貫いている。


(困ったな……)


 ヒナは脳内で頭を抱える。何で一人でいるのか、なぜ黙っているのか、その理由を話してくれない限りは対処のしようがない。


(いや!でもだからって「何か言ってくれないとわからない」とか、そんな子供を責める様な事は言っちゃダメなんだ)


 生徒、園児の自主性に任せ、その選択を責める様な事はしない。


 幼稚園に行くにあたり、丁井先生にそう教えられた。


(だから、私がうまく推測して、この子がきちんと話せる様にしないと……)


 ヒナは男の子にプレッシャーを与えない様に注意しながら、男の子を観察する。


 すると、確かに頭は自分の方を向いているが、視線がわずかにズレている事に気がついた。


「まさか、砂場で遊びたいの?」


 ヒナの問いかけに、男の子はゆっくりと首を縦に振った。


 だが砂場は、昨日降った雨のせいでグチャグチャになっている。


 園庭だけは何とか先生方が整地したらしく(そもそも園庭自体が狭いのもある)、遊べる様にはなったものの、どうやら砂場はダメだった様である。


「ここで遊んだりすると、たぶん泥だらけになっちゃうと思うけど……それでも遊びたいの?」


 ヒナはゆっくりと柔らかい口調で男の子に聞く。その男の子はゆっくりと頷いた。


「……わかった!先生に任せておいて!園長先生とか、他の先生にも聞いてくるから!」


 ヒナはそう言い残すと、一旦男の子の元を離れて園長先生に許可を貰いに行く。


 すると、事前に尖った石やガラス片などが落ちていないかよく確認する事という条件で許されたのであった。


 おそらく裸足で遊ぶので、それでケガをしない様にという園長先生の考慮だった。


 許可を貰えたヒナは、その男の子の元へ戻ってきて笑顔でその事を伝えた。


「ほんと!?」


 それを聞いた男の子が明るい声で言った。そういえば、初めて声を聞いた気がする。


「じゃあまずは先生と一緒に遊ぼうか。ガラスのかけらとか、尖った石とかがないか確認するから、ちょっと待っててね」


 ヒナはそう言うと、尖った石片などを手作業で取り除く。数分で砂場もとい泥場はキレイになった。


「これでもう大丈夫。いいよ!遊ぼう!」


 といっても、正直ヒナには自分が汚れる覚悟はなかった。


 一応学校の指定ジャージに幼稚園側から借りたエプロンをつけていて、「汚れてもいい服装」ではある。


 だが、だからといって率先して汚れたいかというとそれはウソになる。それはだいたいの人がそうだろう。


 だがヒナは、いくら汚れるといってもそんなにハデには汚れないだろうとは思っていた。あの時までは。


「何して遊ぼうか。山でも作る?」


 そんなヒナの提案を聞かず、男の子はわーっと砂場に向かってかけ出すと、そのまま頭から砂もとい泥に突っ込んだ。


「げ!何やってんの!?もしかして転んだ!?」


 最悪の事態がヒナの脳裏によぎる。さすがにケガをしたのなら由々しき事態である。


 ヒナは慌てて男の子に駆け寄る。


「大丈夫!?」


 すると、男の子はゆっくり起き上がると、周囲の泥をかき集めるなりそれを思い切りヒナの顔面にぶつけた。


「ギャッ!」


 不意を突かれたヒナは、その泥の塊を顔面で思い切り受け止めてしまった。


 わーい!引っかかった!」


 悪意などない天真爛漫な男の子の声。ヒナはゆっくりと指で目の周りの泥を拭った。


 泥は、ヒナはてっきり砂が混じったものかと思っていたのだが、意外と粘度が強い。一般的に泥といえばこんなものだろうといった感じである。


「やったね〜!この!」


 ヒナは怒り出しそうになったが、男の子がキラキラと笑っているのを見て、怒る気をなくした。


 とてもさっきまで一人でいたとは思えない、キラキラした笑顔である。


 その笑顔を見たヒナもまた笑顔になると、しばらくの間泥遊びに興じていたのだった。


 しばらく経ち、ユニが砂場の状況に気づいてやって来た。


「どうだったのヒナ……って何だその格好」


 当然ながら、ユニは全身泥だらけのヒナに驚いた様である。


「泥遊びしてたんだ。ユニもやる?」


 ユニには、ヒナが純粋に泥遊びを楽しんでいる様に見えた。


「一緒にやりたいのは山々だけど、おれも園児達の世話とかあるし……」


 渋るユニに、ある男の子がユニの服を引っ張ってきて、こう言う。


「やりたい。いっしょに」


 当の園児にそう言われては、ユニには断る理由がない。


「よし!やろう!」


 やると決めれば一直線なユニもまた、泥遊びに加わるのであった。


 その楽しさに感化されてか、また一人、また一人と泥遊びに加わっていく園児達。


 最終的にはほぼ全ての園児が加わる事になった。


 そんな中、アキがみんなに声をかける。


「みんな、そろそろレクリエーションの鬼ごっこをやりたいんだけど……って、そんな格好じゃできないじゃん!」


 肩を落とすアキ。


「今すぐ風呂に入れとも言えないし……」


 そんなアキに、丁井先生が助け舟を出す。


「なあ緑山。キミは子供の頃、『遊ばなくちゃいけない』っていう使命感で遊んでたか?」


「それは……」


 言葉に詰まるアキに、丁井先生はこう諭す。


「いいんだよ。『やらなくちゃいけない』じゃなくて『やりたい』でも。子供の時はそれが許される。それに……」


 みんなこの状態じゃ、どうせ鬼ごっこなんてできないだろ?と丁井先生は付け加えるのであった。


「そうか……そうですよね!」


 アキはそう言うと、みんなの輪の中に入っていくのであった。



 しばらく遊んで、ヒナがユニに言う。


「ねえユニ。私ね、夢ができたんだ」


「夢?」


 ユニが聞き返す。


「うん。私ね、幼稚園の先生になりたい!あの男の子の笑顔、すごく素敵だったんだ。私はそんな笑顔をもっと見たい!」


 ここの幼稚園の子供にも負けない程のキラキラした顔で話すヒナ。それを見たユニは一言、キミに合ってると思うと呟いた。


「ほんと!嬉しい。ありがとう」


 そしてユニに笑顔を見せるヒナ。泥で汚れていても、その笑顔は青空の様に透き通っていた。


 悪魔との契約条項 第二百六十七条

子供には無限の可能性がある。

読んで下さりありがとうございます。

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