契約その266 幼稚園・visitors!
晴夢高校では、高三の九月頃に近所の幼稚園の訪問活動をする事になっている。
その一週間前、丁井先生が帰りのホームルームにてこう伝える。
「ひとクラスが一つの幼稚園に行く事になっている。ちゃんとレクリエーションを考える様に」
そしてその翌日、ユニのクラスではそのレクリエーションをどうするのかがクラス会議で話し合われた。
「ドッジボールはどうだ?」
「ダメだ。園児と我々では力の差がありすぎる。ケガさせるのが一番いけない。万が一の時もあるから」
ある男子学生の案を、学級委員で司会のアキが即座に却下する。
確かにそれでは仕方がないだろう。
「天気予報では当日は快晴、外で遊ぶのがいいのは確かにそうなんだけど……」
結局、レクリエーションは鬼ごっこに決定し、ユニ達は当日を迎えるのであった。
「おれ達が訪問するのは向かいの徐氏堂幼稚園。やんちゃな子供が多いっていう場所か……」
ユニがそういう様に、晴夢高校から車道を挟んで向かい側には幼稚園がある。それが徐氏堂幼稚園である。
ユニ達のクラスが幼稚園の門をくぐると、まずは先生方が出迎えてくれた。
「このクラスの担任の丁井です。本日はよろしくお願いします」
丁寧に挨拶をする丁井先生。ユニ達もその後で一斉に挨拶をするのであった。
「わざわざ忙しい中ありがとうございます」
幼稚園の園長先生は、メガネをかけたおじいさんであった。一目で人がいい事がわかる。
その園長先生は、園児達を全員集めて挨拶をさせる。
「皆さん、今日は高校生のお兄さん、お姉さんが来てくれました!挨拶しましょう」
「よろしくおねがいします!」
元気に挨拶をしてくれた園児達。中々に素直な様である。
まずは、園児達との親睦を深める為に一緒に遊ぶ事になった。レクリエーションはその後にするらしい。
ユニがふと教室に向かうと、藤香が園児達に絵を描いてあげている所に出くわした。
「色々描いてやるよ。お姉ちゃん、絵上手いから」
「ほんと!?」
一緒にいた男の子が訝しむが、正直上手いというレベルではない。プロだからである。
「じゃあさ、『初恋エターナル』の……」
「おおいいぞ。それなら大得意だ!」
藤香はそう言うと、ササッとヒロインのイラストを描いてみせた。
「すごい!ほんものみたいだ!」
実際本物であるが、園児達には知る由もない。
だが心配はなさそうだ。ユニはそう確信するのであった。
すると、別の教室からピアノと一緒に聞き慣れた歌声が聞こえてきた。ルアのものである。
「せーのっ!どんぐりころころどんぐりこ♪お池にはまってさあ大変♪どじょうが出てきてこんにちは♪ぼっちゃん一緒に遊びましょ♪」
"J'S"のライブチケットは、あまりに人気すぎて発売後数秒ですぐに売り切れてしまう。
つまり、そのセンターのルアの生歌声なんて、滅多に聞けるものではないのである。ユニ達はしょっちゅう聞いてるが。
歌っているのが童謡とはいえ、この子供達はファンですら滅多にできない体験をしている。その自覚が彼らにないのが残念だが。
しかもピアノも上手い。音楽の範囲を広げる為に、どれみからある程度の手解きを受けたという話は、どうやら本当だったらしい。
そのルアは、どうやらユニの存在に気がついたらしい。
「あ。ユニ!あなたも歌う?一緒に。こんな体験、中々できないよ」
どうやらルアは、自分の歌声が値千金である事を自覚している様である。
彼女の誘いは基本的に受けようと考えているユニは、その輪の中に入るのであった。
ルアのピアノに合わせて、ユニ達は歌を歌う。
「おもちゃのチャチャチャ♪おもちゃのチャチャチャ♪チャチャチャおもちゃのチャ・チャ・チャ♪」
そのまま気の向くままに歌を歌ったユニ達なのであった。
ひとしきり歌い、ルア達と別れたユニ。とりあえず外へ向かう事にした。
ユニは、みんなが「はないちもんめ」をやっている所を目にした。
だが今は、質問攻めにあっている様だ。
「ねーねー!はないちもんめのもんめってなんなの?」
「おしえておしえて!」
どうやら好奇心旺盛な子供に「もんめ」の意味について聞かれている様だ。
「えっとそれは……」
タジタジになるルーシー。どうやら意味を知らないらしい。
とはいえウソを教えるわけにはいかないので、八方塞がりになってしまった様だ。
見かねたユニが割って入る。
「もんめっていうのは、昔のお金の単位なんだ。つまりはないちもんめは、花の値段が一匁って事」
「へー!」
もっと知りたかったらお母さんやお父さんに聞いてみるといいと、ユニは子供達に伝えるのであった。
「助かった。ありがとう」
ルーシーはユニにお礼を言うと、もしよかったらユニもはないちもんめに入るかと聞いてきた。
断る理由もないので、ユニは快く、その輪に入る事にした。
ちょうど二分される様にメンバーを分け、ユニ達と子供達とで交互になる様に手を繋ぎ、はないちもんめが始まった。
「かってうれしいはないちもんめ!」
「まけてくやしいはないちもんめ!」
「おふとんかぶってちょっときておくれ!」
「おふとんびりびりいかれない!」
「あのこがほしい!」
「あのこじゃわからん!」
「そうだんしましょ!」
「そうしましょ!」
ここでお互いに相談タイムに入る。基本相談タイムは子供達に任せる方針である。
「きーまった!」
相談の結果、選ばれたのは……。
「ルーシーせんせーがほしい!」
「ミズキせんせーがほしい!」
つまり、ルーシーとミズキのじゃんけんという事になる。
卓越した動体視力によって相手の出す手がわかってから勝つ手を出せるルーシーと、自分の幸運によって「必ず出せる手を出せる」ミズキの一騎打ちである。
まさに矛盾、子供の遊びであるが、どちらが勝つのかは、純粋にユニも興味があった。
両者見合って、「じゃんけんぽん!」の掛け声でお互いに手を出した。
果たして結果は……。
ルーシーはチョキ。
ミズキはパー。
「うわー負けた!」
負けたのはミズキ、勝ったのはルーシーである。
この結果には、ある理由があった。
当初、ルーシーはグーを出そうとしていた。当然必ず勝てる手を出せるミズキはパーを出す。
だがルーシーは、その手を出すと同時に、誰にも気づかれないレベルのスピードで自分のグーをチョキにしたのである。
ただのじゃんけんで、ここまで高度な駆け引きが繰り広げられていたのだ。
「これがたとえば自分の手で出すわけではないゲーム内のじゃんけんになると、自分はミズキに勝てない」
後になって、ルーシーはそう語った。
ミズキを取られたチームは、そのままなす術もなく敗北するのであった。
だが勝とうが負けようが楽しかったのか、子供達はキラキラした笑顔を見せていた。
「よかった。みんな楽しんでるみたいだ」
ユニはそう呟いたが、その時、ヒナがユニの肩を軽く叩いてきた。
「?ヒナ、どうしたんだ?」
「あの男の子がちょっと気になってるんだ」
ヒナが、その男の子の方を向く。
その男の子は、一応外にはいるものの、日陰でじっとしていた。
せっかくみんなで遊べばいいのに、一人でいる事にヒナは疑問を感じている様である。
「ちょっと、話しかけてくるね」
ヒナはユニにそう言い残すと、その男の子の元へ小走りで駆けていくのであった。
悪魔との契約条項 第二百六十六条
悪魔の身体能力は、運すらも捻じ曲げる。
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