契約その264 真夏の夜のhorror体験!?
夏休みもそろそろ終わりが見えてきた八月下旬、モミはヒナを伴って学校を訪れていた。
「でもね……まさか夏休みの宿題を教室に置いてくるなんて……」
廊下を歩きながら、ヒナが言う。
「ええ、しかも1番ウェイトが重い自由研究に必要な模造紙ですから……」
本当にすみませんと、モミはヒナに謝罪しながら歩いていた。
事情が事情なので、丁井先生を通して学校側に連絡を取り、許可を貰った上で訪れているのである。
「許可さえ取れば誰でも入れるんだから、楽なもんだねえ」
ヒナがボヤく。
間もなく教室に辿り着き、モミは自分の手提げバッグに入った模造紙を確認した。
「よかった、ありました!」
一体どんな研究をするのかと聞いたヒナに、モミは様々なものの揉み心地だと答える。
「夏休み前に全部調べて下書きをして、後は清書だっていう所まで来てたので」
成程、確かにそこまで終わらせていたなら、改めて最初から……という気にはならないだろう。
「じゃあ早いとこ帰ろ。いやその前に……」
ちょっとトイレとヒナが言うので、モミも待つ事にした。防犯上、二人一緒でないと帰れないからである。
校舎の隅にある近くのトイレまで行き、入り口にモミを残してヒナはトイレに腰掛けようとする。
「ふぅ……。ん?」
腰掛ける直前、何か違和感に気づいたヒナ。
トイレの磨りガラスの窓の先が、赤くぼうっと光っているのが見えた。
最初は車のハザードランプかと思ったが、このトイレの向かい側は、旧校舎と呼ばれるもう誰も使ってない建物である。車など通るはずがない。
それに車のハザードランプとは違う光り方であり、車のエンジンの音もどこからも聞こえない。
「ま……まさか……」
怖くなったヒナは、それでもきちんとトイレは済ませつつ、入り口で待つモミの元へ戻ってきた。
「えー……トイレで変な光を見た?」
心底イヤそうな顔をしながらモミが聞き返す。
そういう類の話は、モミは苦手なのである。
「そうなの!アレは噂の出るっていう『旧校舎の悪霊』に違いない!だからさ、一緒に見に行こうよ」
お願い!と手の平を合わせて懇願するヒナ。
モミはイヤだったが、そもそも着いてきて貰った身なので、そのお礼も兼ねて着いていく事にした。
「わかりました。行きましょう」
「ホント!?ありがとう!」
恩に着るよ!とヒナは再びモミにお礼を言う。
「見たがりなんですね、割と」
モミが呆れ半分に言うと、ヒナもまた「まあね……」と照れながら言うのだった。
「これは今から三十年前の事……」
旧校舎に行く途中、ヒナは自分が聞いた「旧校舎の悪霊」の噂についてモミに話し始める。
「今から三十年前、『首吊りゲーム』という名の陰湿なイジメがある女子学生に向けて行われていた……」
割と味のある話し方に、モミも思わず聞き入ってしまう。
「『やめてよ!やめてよ!』と響く女子学生の泣き叫ぶ声……。そのイジメはどんどんエスカレートしていき、そしてついには本当に女子学生の命を奪ってしまった……」
心なしか、モミの歩くスピードが遅くなる。
「その事に、イジメっ子達もさすがに怖くなり、学校側もその事実を隠蔽した……」
二人はやがて旧校舎に足を踏み入れる。鍵が壊れている箇所があり、そこから入ったのである。
「だが!それからというもの、旧校舎にはその女子生徒の霊の『やめてよ!やめてよ!』という声が響いているという……」
―――やめてよ!やめてよ!
「ほらこんな風に……って、え?」
確かに聞こえた。件の「やめてよ!やめてよ!」の声が。
「え?そんなウソでしょ?まさか本当に……」
「ぎぃえやァァァァ!!!」
ヒナが確認するより早く、ものすごい叫び声でモミが逃げ始める。ヒナも慌てて逃げ出し、這う這うの体で家に辿り着いたのであった。
―――翌日。真偽を確かめるべく、ユニ、ルーシー、ヒナ、モミ、メイ、ミズキの六人は再び夜の校舎を訪れた。
「しかし、本当に幽霊なんているのか?」
ルーシーが訝しむ。
「いやいやいや!悪魔だの天使だの神だのいますから!幽霊ぐらいいますよ!多分」
モミの熱弁に、ルーシーは納得せざるを得なかった。
「だから本当にいるのか確かめようと思ったの。でも今日は怖いから校舎の方から確認するだけね!」
ヒナが付け加えた。
「おれ達は幽霊なんて今更怖かないからいいけど、二人はどうして着いてきたんだ?」
ユニとルーシーは怖がるタイプではないからまだしも、メイとミズキが着いてくるのは意外だった。
「ある程度の悪霊なら祓えるし」
「本当に幽霊なら動画のネタになる。ゾンビだって(ゲームで)倒してるしな」
確かにそれは二人とも心強い。ゾンビと幽霊は別だろうというのは置いといて。
そんなやり取りをしながら、ユニ達は校舎に足を踏み入れ、しばらく歩く。
すると突然、何かの気配を感じた。
「感じたな」
ユニの言葉に、全員が深く頷く。
どうやら廊下の曲がり角の先に誰かいるらしい。
「行くぞ。そっと覗き込もう」
ゆっくり覗き込むユニ達。すると曲がり角の先に……。
「出!出たァ〜!」
叫び声を上げるみんな。
「あわわ……あ!悪霊退散!『破』ッ!」
いつの間にか巫女服に着替えたミズキがテンプレな霊能力を発動するが、効かない様だ。
「ある程度の悪霊ではないって事!?」
ミズキが驚く。
「しかし、何で旧校舎の悪霊が本校舎に!?出張したのか?」
「目と鼻の先にある隣の建物に行くのを出張って言うのかよ!」
いまいち緊張感のないユニとルーシーのやり取り。
「そ!そうだルーシー!悪魔だからあくタイプだろ!?ゴーストタイプには効果抜群じゃないのか!?」
「それポケモンの話だろ!ポケモンじゃねェよ!おれも相手も!」
メイにルーシーがすかさず突っ込む。
「だったら紫音が作ってくれた何でも弾にする銃で塩の弾を!清める効果あるからな、塩には!」
メイが銃を構え、悪霊相手に塩の弾を打ちまくる。
混乱しているとはいえさすがのエイム力で、そのほとんどが当たった。
「どうだこれで!」
「うえっへぇっ!しょっぱあ!」
塩の塊を何発も食らった悪霊が、そのしょっぱさにむせ始めた。明らかに人間っぽいリアクションである。
「何すんですか!」
「え?」
我に返ったユニ達は、その悪霊に話を聞くのであった。
「オカルト研究部の文化祭の出し物!?」
塩まみれになった悪霊、もといオカ研部長の大葉恵子さんに話を聞いたユニ達は大声を上げて驚いた。
要するに、オカ研がやるお化け屋敷の出し物の練習をやっていたというわけである。
昨晩や今夜のユニ達同様、許可を取っての練習らしい。
「何だあ……」
どっと疲れたユニ達は、塩まみれにしてしまった部長に謝りつつ、その場でへたり込んだ。
「でも一応、旧校舎の方でお祓いしようか。私のツテで」
明るい声でミズキが言う。
「しかし、ややこしい事しますよ。まさか旧校舎にまであんなリアルな声を流すなんて」
「ほんとほんと。腰抜かしたもん。謎の光だって」
笑いながら言うモミとヒナ。だがそれ聞いた部長が言ったのは、ある衝撃的な一言だった。
「何の事ですか?私達、昨日一度も旧校舎には入ってませんよ。そもそも来たのは今日が初めてですから」
「……え?」
それを聞いて一瞬固まるユニ達。次の瞬間には声にならない叫び声を上げた。
夏の終わりに、一生忘れられない思い出ができたユニ達なのであった。
悪魔との契約条項 第二百六十四条
果たして幽霊はいるのかどうか。それは誰にもわからない。
だがもしかしたら、あなたの隣にも……。
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