契約その263 "J's"解散!?
「『おーしゃん』の熱愛疑惑!?」
ハワイから帰ってきて二日後、ルアからその事を伝えられたユニは声を張り上げた。
「そうなの。ある男の人と一緒にいる所を週刊誌に撮られてね、しかもその相手っていうのが愛妻俳優として知られる『押土隆一』なんだ!」
「じゃあそれって……」
「うん。つまり不倫って事……」
ユニの言葉に、ルアは深く頷きながら言った。
「おーしゃん」は、"J's"内ではルアに次ぐ人気を持っているアイドルである。
名前が出たのは契約その83以来で、久しぶりだとユニは思った。
「対応が悪いと最悪解散もあり得るかも……」
もしそうだとしたら由々しき事態である。ルアは社長に呼ばれたらしいので、ユニもついて行くのだった。
社長室に着くと、二人は早速事の次第を社長から改めて説明された。
内容は概ね、ユニがルアから聞かされていたのと同じである。
「ただ一緒に歩いていただけなら、たまたま一緒にいただけとか、友人同士だったとか、まだ色々誤魔化す事はできたでしょうけど……」
ジョニー社長がため息をつきながら言う。
彼が言うには、何と路上で手を繋いでいた事が写真に撮られてしまったらしい。
「そんなの、バッチリアウトじゃないですか!」
ルアが声を張り上げる。
ジョニーはルアの発言に頷きつつ、こちらとしてはおーしゃんをグループからの卒業という形で事実上のクビという形にすると言った。
「まだ熱愛報道ならいいんだけどね……相手が相手だから……」
「そんな……」
ルアは消え入る様な声で呟く。無理もないだろう。
おーしゃんは初期からのメンバーである。同じ初期メンバーであるルアにとってはその時からの、まさに親友なのだ。
「心配しないでよ。何かの間違いの可能性だってあるしさ」
ユニはそう言いながらルアの肩を優しく撫でる。本来部外者であるユニは、それが自分の役割なのだと考えた。
「他のメンバーにも随時伝えておくわ。報道が出るまで、とりあえず仕事は続ける事。それと……」
ジョニーは、最後にこう付け加えた。
「あなた達も十分に注意して。どこに記者が張り込んでいるかわからないから」
トップアイドルのスキャンダルという一大スクープ、そのメンバーにも取材が来るのは必然と言えよう。
ルアは肩を落としながら、家路に着くのだった。
家に帰ると、ユニはルアが携帯で鬼電している所を見た。
その相手は言うまでもないだろう。
「やっぱり出ないかあ……あの子よく自分の携帯忘れるからなあ……」
ため息をつきつつ、ルアは電話を切った。
「こうなったら……」
ルアは、ユニの方を振り向きながら言う。
「ねえユニ!協力して欲しい事があるんだ!」
―――その日の夜。仕事を終えてテレビ局から出てきたルアは、ユニと合流しておーしゃんを尾行する事にした。
「直接この目で事実を確認しなきゃ、到底納得なんてできないよ!」
尾行する理由について、ルアはそう語った。
二人は、おーしゃんがテレビ局のロータリーに停まっていたタクシーに乗り込むのを見つけた。
「普通に帰るのかな?いや、駅までは普通に徒歩で行ける距離だからあり得ないか……」
ルアはそう呟くと、別のタクシーに乗り込み運転手に前のタクシーを追う様に頼む。
「まさか相手の……」
ショックを受けるルアを、ユニはまだ決まったわけじゃないと慰めるのであった。
そのまましばらく乗っていると、おーしゃんがタクシーを降りたのでユニ達も降りる。
降りた先は専門店が立ち並ぶ繁華街だった。
二人はおーしゃんに感づかれない様に一定の距離を保ちながら尾行を始めるのであった。
しばらく行くと、恐らく人々の集合場所になっているであろう噴水に辿り着く。
そこでおーしゃんは、何かを見つけた様な反応をして走り出した。
「何だ何だ?」
二人も慌ててその後を追う。
どうやら誰かと会った様である。そしてその相手を見た二人は絶句した。
「そんな……ウソでしょ……」
その相手、押土隆一はおーしゃんを見つけると恐らく二、三言言葉を交わすと、おーしゃんを抱きしめた。
それを見たルアは、ユニも見た事がない様な驚愕した表情をし、そのまま倒れてしまった。
それを見たユニは、慌てて体を受け止める。
「ルア!」
ユニの呼びかけに、ルアはカッと目を見開いてこう言う。
「いや、ルアは無事だ。だがしばらく休ませて欲しい。ここからはぼくが尾行を続ける」
ルアではなくその別人格のアルだった。一つの体を共有している二人は、どちらかが気絶などをした場合に人格が出てくる事がある。
「ルアが傷つくという事は、ぼくを傷つけるのと同義だ。もし本当だった場合……」
憤るアルに、なるべく穏便にとユニは伝えた。
そうこうしている内に、押土とおーしゃんは、ある洋服の専門店へ入る。
ユニとアルもその店に入り、店内を物色するフリをしてバレない程度に二人の会話に聞き耳を立てるのであった。
「これとか似合うんじゃない?」
「そうかな……ちょっとハデすぎるというか……」
「そうかな似合うと思うけど……プレゼントなんだから、普段は買わないものを買わないと……」
(プ……プレゼント!?)
それを聞いたアルは衝撃を受けた。
そのままおーしゃん達に突撃しようとしたので、ユニは慌てて引き留めて店を出る。
「何だよ!このまま引き下がるのか!?」
「違うよ!店内で騒ぎ起こすと、店に迷惑かかるだろ!?それこそ週刊誌に撮られちゃうよ!」
ユニの意見にアルは落ち着きを取り戻すのであった。
「わかった……ここからはルアに体を託す事にするよ……彼女の方が冷静に対処できそうだ」
アルはそう言うと、また眠ってしまった。
その後元に戻ったルアは、店先でおーしゃん達を待つ。
二人が出てくるのに、そう時間はかからなかった。
二人が店から出た瞬間、ルアはおーしゃんの肩を優しく叩く。
「どちら様って……え!?」
「色々、説明してくれる?」
口調は優しいが、目は笑っていなかった。冷静ではあるが、それはそれでおーしゃんには怒っていたのである。
その後訪れたカフェで、ユニとルアは色々事情を聞かされた。
「えェ!?二人が兄弟!?」
ルアは驚きの声を上げる。
「そうなの。そもそも『おーしゃん」って芸名も苗字から取ったものだし」
「成程、押土からおーしゃんだったのか」
ユニが納得した様な様子を見せた。
「おれ達は母親の誕生日プレゼントを買いに来たんだ。最初買いに来た時は中々決まらなくて……今日改めて買おうって事になってた」
押土が付け加える。
その時に今回週刊誌に撮られた写真というわけである。
「じゃあ抱き合ってたのは?」
「兄妹同士仲良くするのは当然だろ?」
ルアの疑問に、二人はあっけらかんと答えた。
「いや、あれは兄妹愛を超えた何かを感じたというか……」
ユニは何かを言おうとしたが、自分も人の事は言えないので黙った。
「でも、その紛らわしい行動のせいでみんなに迷惑かけたんなら、確かに謝らないと……」
二人はそう呟くのであった。
その後、おーしゃんは会社など関係者に謝罪して回った。
今回は誰が悪いというわけでもないので、お咎めはなかった。
今回の件で、ルアの心にはある疑問が生じた。
「私とユニの関係も、どう見えてるんだろう……」
アイドルをする以上、ユニもファンも関係者も、みんな平等に愛する事を決めているルアだが、世間は許してくれるのだろうか。
ルアは一人、思案するのであった。
悪魔との契約条項 第二百六十三条
全てを平等に愛する事は、決して簡単な事ではない。
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