契約その240 Rivalは悪役令嬢!?
急遽カフェの応援を頼まれたユニ達は、早速メイド服に袖を通した。
「みんなかわいー!」
メイド服姿のユニ達を見て、喜びの声を上げるアゲハ。
「そう言って貰えるのは嬉しいけど……どこか頼りないな……」
メイド服の裾をつまみながらユニが呟く。
スタンダードなメイド服に、猫耳つきのヘッドドレス、それとつけしっぽに猫の手の手袋を着用するスタイルである。
「猫とメイドを合わせる発想は素晴らしいですが……何というか……コスプレ感が強いというか……」
メイドについての知識を蓄えている萌絵の評判も微妙そうだった。
「とにかく、アザエルが待ってる。急いで接客に行こう」
ユニがそう言った様に、みんながフロアに出ようとしたその時である。
「あら?見ない顔ですわね?一体全体どこの馬のボーンズですか?」
「誰だあんた」
ユニが当然の反応を返す。
「あらあら、これは失礼。わたくしは『高美沢シャロン』!王になる女ですわ!」
どれみを数十倍高飛車にした口調で、女性が言った。
「アザエルさんのライバルって事ですか」
みすかが言う。
「どっちかっていうと悪役令嬢みたいですけどね」
萌絵が訂正した。
「お黙りなさいっ!さて!休憩もたけなわ!接客と行きましょうっ!オーッホッホッホゴフゴホゲホっ!」
高美沢はそう言い残すと、お嬢様とは思えない腿上げフォームで走り去っていった。
「何だったんだアレ……」
そのままユニ達はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、こうしちゃいられないとホールへ急ぐのであった。
ホールへ着くと、繁忙期という事もあってか多くの客でごった返していた。
「よし、各自分かれて接客を入ろう。休んでるヒマはなさそうだぞ」
ユニは彼女達にそう指示を出す。
ユニ達は、それぞれ分かれて接客に入るのであった。
「いらっしゃいませご主人様♡にゃんにゃん♡」
客が来店した時のセリフである。
まさか数十分前は自分がこのセリフを言うとは思いもしなかった。
特製パンケーキにハートを描き、「おいしくなーれ!萌え萌えキューン♡」とする。
「何かレトロなんですよね。メイド像が」
萌絵がぼやいていた。
「それより問題はアレじゃないの?」
ヒナがある人物を指差しながら言った。
ある人物とは、先程ユニ達に突っかかってきたシャロンの事である。
「ふげー!」
「あぎゃー!」
叫び声を上げながら転びまくっている。その度に料理やら何やらが床にぶちまけられていた。
「アレで接客業が務まるのかな」
ヒナは訝しむ。
「普通の接客業じゃまずムリだな」
アザエルが言う。
「普通の?」
「ああ」
聞き返すヒナに、アザエルは頷いてからこう言う。
「コンセプトカフェには『キャラづけ』が必要なんだ。彼女の場合『高飛車ドジっ子』っていうキャラづけがある」
それが逆に客の庇護欲を刺激し、現に彼女は人気の店員になっているとアザエルは続けた。
「世の中、何が幸いするかわからないな」
ルーシーがぼやいた。
だが、そんな彼女の「武器」が自分の首を締める事になる事もあるのである。
その時も、シャロンは水を床にぶちまけてしまった。
「あわわわ……あ……新しいのを持ってきますわっ!」
そんな彼女を、ある男が引き止める。
「おいおい待てよォ〜!お前のこぼした水のせいで『みんなでマニキュア!プレミアムスニーカー』が濡れちまったじゃねェかよォ〜!」
「みんなでマニキュア!」とは、人気女児アニメ「マニキュア」シリーズの俗に「初代」と呼ばれる作品である。
その限定品のスニーカーが濡れてしまったと男は難癖をつけてきたのである。
そんな男を見て、萌絵が思い出したかの様に言う。
「あれは『キモオタのヨシオ』!様々な界隈に難癖をつける、オタクの風上にも置けない悪名高い男です!」
「何で毎度毎度そんなんばかり来るんだ……」
ユニは肩を落とす。
その「ヨシオ」は、シャロンの胸ぐらを掴んで言う。
「ヒヒ……弁償して貰わんとなァ……」
周りの客も異変に気づいたのかざわつき始めた。
そんな中、アザエルが行動を起こそうとする。
「まさか……アザエル!」
呼び止めるユニ。
「大丈夫。気にするな。この名札がある以上、手荒なマネはしないよ」
アザエルは、自分の名札を親指で差しながら言うと、シャロンと男の前に出た。
「ん〜?何なんだお前ェ〜!」
「アザエルさん!?」
驚く二人。
「ここはおれ様達の『国』だ。出てって欲しい」
毅然と言い放つアザエル。その姿に、周囲の人間から歓声が上がった。
この状況に男は気を悪くしたのか、標的をアザエルに変えた。
「だからよォ〜弁償しろって言ってんだよォ〜!それとも何だ〜?お前が代わりにしてくれんのか〜!?」
男がアザエルの事をジロジロ見ながら言う。まるで品定めしている様だ。
「後悔するなよォ……」
男はそう言うと、アザエルの腕を掴もうとする。
「!」
次の瞬間、ユニはルーシーに自分の名札を投げ渡すと、その腕を受け止めた。
「何だお前……店員か?」
「さっきまではな……」
すごい力で、ユニは男の腕を片手で抑える。
「生憎先客がいるんだよ……!そういうののな……!」
そのままユニは、男の腕を捻り上げる。
「ぐおお……!ふ……フザけんなァ〜!」
襲いかかろうとする男のこめかみに、ユニのかかとが直撃する。
「ガンッ……」という鈍い音を響かせ、男はその場で倒れた。
「渡さねェよ……お前ごときにはな……」
回し蹴りの姿勢のまま、ユニはそう呟くのであった。
男の姿を見て、萌絵はある事に気づいた。
「あのスニーカー!普通のスニーカーに金メッキのコーティングをしただけのニセモノです!」
萌絵曰く、プレミアムスニーカーは金色をしているという。今のゴタゴタでメッキが剥がれた様である。
「成程ね……元々難癖つけるつもりだったんだ……」
ここに来てようやく現れた店長は、「ヨシオ」に「国外追放(要するに出禁)」を言い渡すのであった。
それ以降は何事もなく働いたユニ達。名札を外して男を制圧したユニも、店長の厚意で閉店まで働いたのであった。
それからしばらく経ち、ついに来た第一王子決定総選挙の結果発表の日。
最後に店員が自分以外の誰かに投票して最終結果が明らかになる。
その結果、アザエルとシャロンの得票数が150対150で並ぶ事になった。
「という事は、第一王子は二人?」
誰かが言う。
「いえ、まだわたくしの投票が済んでおりませんわ!」
シャロンはそう言うと、アザエルの投票箱に進んでいき、そこに自分の票を入れた。
これでアザエルの得票は単独で151、つまりアザエルが「第一王子」に選ばれた事になる。
「シャロン!いいのか?」
驚くアザエルに、シャロンはビシッと指差して言う。
「これは借りを返しただけですわ!王になるのはわたくしです!オーッホッホッホ!ウホゲホッ」
いつもの調子で、シャロンは去っていった。
「そうか……ありがとう」
その後ろ姿を見送りながら、アザエルはそう呟くのであった。
悪魔との契約条項 第二百四十条
一度自分の立場を放棄する事で、できる様になる事もある。
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