契約その234 Octopusを超えていけ!
そもそも民営テレビ局の番組は、スポンサーとは縁の切れない関係にある。
例えばドラマで、主人公が飲酒をしているシーンがあったとする。
その時主人公が飲んでいるお酒は、スポンサーの会社の製品である事が多いのだ。
それはバラエティ番組も然り、この様な飲食物が必要になる場面では、スポンサーの製品を使うのである。
だが今回のそれは、些か極端であった。
確かに「アイドル甲子園」のスポンサーには、タコ料理を製品の主力とする「株式会社ガイロス」があった。
だがそれはあくまで複数のスポンサーの内の一社、全てがタコ料理になるなどあり得ないのである。
つまり誰かしら、自分達を貶めようとする者達がいる。
この状況に、ユニはそう確信を持った。
先程ミズキがプールに落とされた事も、ユニがそう判断するに相応しい状況証拠だった。
いや、もしかしたら……。
自分達以外の全てが敵、よってたかって自分達を貶めようとしているのではないか。
その最悪の展開も、ユニの脳裏によぎった。
一方のアゲハは、大量のタコ料理を前に、足がすくんでいた。
アゲハがタコ嫌いなのにはわけがある。
幼少期に、アゲハは口に入れたタコをしばらく飲み込む事ができずにずっと噛んでいたのである。
アゴは疲れるし、みっともないし、何より気持ち悪い。
それが、アゲハがタコを嫌う原因であった。
だが、今ここで食べなければルアにバトンを渡す事はできない。
「……」
アゲハは二回深呼吸をすると、地面を踏み締め、山積みのタコ料理に向かっていくのであった。
ルール上、食べ物を飲み込まなければ泳ぎ始める事はできない。
そういう面でいえば、飲み込みにくいタコは、たとえ嫌いでなくとも避けなければならない食べ物である。
ご丁寧に水などの飲み物もないので、タコ単体で飲み込まなければならない。
アゲハが手を出したのはタコ焼きである。なるべく少ない四個入りのものを選んだ。
「うー……」
ただし、嫌いなものはやはり嫌いである。アゲハは目をつぶりながらタコ焼き四個を何とか食べると、すぐに泳ぎに入った。
アゲハの泳ぎは速かったが、すでに半周(25m)もの差をつけられている。
それでも何とか15mまで差を縮めると、第四走者であるルアにバトンを渡す。
「ごめん……」
ただそう言う事しかできないアゲハの背中を、今度はルアが慰める様に二回叩いた。
悩んでいる時間はない。ルアもタコ料理に挑む事になった。
「食べるのは苦手だけど……」
幼少期のルアは、事あるごとに母親からご飯抜きにされていた。
少食なのはそのせいである。
ルアもまた、四個入りのタコ焼きを何とか食べきって泳ぎに入った。
ルアの泳ぎは、三人に輪をかけて速かった。何とか勝負になりそうな所まで差を縮め、ユニにバトンタッチする。
「お願いユニ!」
「任せろ!絶対許さねェ……」
彼女達をプールに落とされ、嫌いなものを無理やり食べされられたユニの怒りは頂点に達していた。
しかし、ユニには秘策があった。
「いくぞォ!」
ユニは、大量のタコ料理を順番に食べていく。
「おっと!どうする気だ!?」
高橋の実況にも熱が入る。
ユニは、水泳で勝負するよりも大食いで勝負する事にしたのである。
他のアイドル達は、体型を気にしてあまり食べていない事はこれまでわかっていた。
ユニは、ポイントで逆転するにはこれしかないと考えたのである。
「うーんおいしい!」
笑顔でタコ料理を頬張るユニの姿を、カメラが撮り始める。
そっちの方が画になると判断したからである。
「すごいな……」
「あの細い体にどんだけ入るんだ……?」
観客席もざわざわし出した。
「怒ってるなアイツ……」
観客席で見ていたルーシーが呟く。
ユニは笑顔でタコ料理を頬張っているが、そこからは計り知れない怒りを、ルーシーは感じたのである。
「確かにな……それにカメラをよく見てみろ」
一緒に見ていたメイも、みんなにカメラを見る様に促す。
「さっきからユニの方しか写してない。他のアイドルからしてみれば、これ程面白くない事はないだろうな」
メイの言う通り、カメラはユニを中心に撮っている。
さらに、食べにくいタコ料理はポイントが高めに設定されていた。
タコ料理を食べる事でポイントを逆転してやろうというのがユニの作戦なのである。
早い話がアイドル達の謀略を逆利用したユニの作戦勝ちだった。
「ふぅ……食べた……」
ユニはタコ料理を全て食べ切ると、水泳に挑む。
そのスピードは、まるで魚雷の様な速さだった。
とても食べた後のスピードとは思えない。
やがてユニもゴールをする。
タイムで言えばダントツの最下位だったが、タコ料理を全て平らげたので、総合ポイントでは一位に躍り出たのであった。
「いやーすごい食べっぷりでしたねぇ……ユニ」
話を振る高橋。
「はい、タコは大好物ですから!」
ユニは笑顔でそう言ってのけるのだった。
第二競技が終わり、片づけに入る。
笑顔で好きだとは言ったが、さすがに腹にたまる。
「たぶん十年分ぐらいのタコは食べたぞ」
楽屋へ戻った後、椅子に座りながらユニがぼやいた。
「ありがとう」
お礼を言うみんなに、ユニは気にするなと応えた。
「だけど……何でいきなりタコ料理に変わったんでしょうか?」
モミが疑問を呈する。
「そりゃ敵アイドルの仕業……いや、いくら何でも今回はその範疇を超えてやがるな……」
机に突っ伏しながらユニが言う。
スポンサーと番組の関係もある。競技の途中でいきなり変わるなんてあり得ない。
「色々調べてみる必要があるな……」
ユニはそう呟くと、自分のスマホを手にし、ルーシーに連絡する。
「もしもし?ルーシー?調べてほしい事があるんだ」
「調べてほしい事?」
電話越しにルーシーが聞く。
そんなルーシーに、ユニはこう言う。
「ああ、今回の件、悪魔が関係していると思うんだ」
悪魔との契約条項 第二百三十四条
悪魔は、人間には起こし得ない事も容易に起こせる。




