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契約その23 同質のliar!

 ルアのキスは一分近くも続いた。


 その間止める者はいなかった。いや、止められなかった。美少女二人のディープキスなど、一体誰が止められるだろうか。


 口を塞がれた事と、緊張と高揚感で、ユニは危うく窒息する所だった。


 窒息する寸前でキスが終わったのでどうにか事なきを得たのだが、ユニはそのまま床にへたり込んでしまった。


「ハァ……ハァ……一体何でこんな事を……?」


 ユニは頬を紅潮させ、息も絶え絶えの状況だった。そのユニの質問に、ルアは答える。


「何でって、キミからは私と()()の雰囲気を感じたから。だから興味があるんだ。キミに」


 何とも不思議な雰囲気を纏った少女だとユニは思った。


 ルアはユニの耳に近づけ、誰にも気づかれない様に言った。


「好きだよ。ユニ」


「!?」


 ユニはさらに輪をかけて赤面した。


「いや……ちょっと……?」


「じゃあね、また明日」


 ユニの制止も聞かず、ルアは教室を出た。


 当然野次馬に取り囲まれるが、ルアがにこりと笑いかけると、人波はまるで海を割ったモーゼの如く二つに分かれた。


 残されたユニは、キスの時の高揚感や情報の波に押しつぶされて気絶し、仰向けに倒れてしまった。


「……きゅう」


「ユニ!?」


 気絶したユニに、仲間達が駆け寄ったのだった。



 ユニは、気づいた時には保健室のベッドに横たわっていた。


「あ、起きた」


 誰かが言う。


 どうやらユニのベッドを取り囲む様に全員いる様だ。


「あれから大変だったんだ」


 アキは、気絶したユニをルーシーがおぶってここまで運んできた事、養護教諭の先生がおらず、自分で準備をした事をはなした。


 そしてあとはみんなでユニの目が覚めるまでついていた事を話した。


「そうか……ごめんな……迷惑かけて」


 ユニは差し出されたペットボトルの水を少し飲んだ。


「そういえば、男子が言ってたよね。男なら袋叩きにしてたけど、女同士のキスだからできなかった、むしろ()()だって」


 七海が愚痴った。


「ハハハ……」


 ユニは見た目は女子だが、一応心は男なのである。仮に男のままだったら、彼らの言う通り袋叩きにされていたはずだ。


 いつか機会があったら謝ろう。


 ユニはそう決意するのだった。


 ベッドから見えるグラウンドからは、部活動中の生徒達の声が聞こえる。


 野球部でも近くにいるのか、時折バットの打撃音も聞こえてきた。


 七月の初旬、この時期になると室内は蒸し暑くなるが、仲間達の計らいで快適に過ごす事ができた。


 ユニは言おうか言うまいか悩んでいたが、意を決して言う事にした。


「おれ、ルアに『好きだ』って言われたんだ」


「!?」


「何というか……すごく久しぶりに言われたんだ。『好きだ』って……。だってみんな最近言ってくれないから……。みんな、おれの事が好きか?」


「当然でしょ!」


「だろ!」


 みんな口を揃えて言った。


「らしくないな。言わなきゃわかんないのか?」


 ルーシーが言う。


「それはその……、ん!?」


 その口を塞ぐ様に、ルーシーはユニにキスをした。


「ルアだけにいい思いさせないぞ。むしろ上書きしてやる」


「じゃあ私も」


「僕も」


「ウチも」


 ユニは仲間達……もとい恋人達に囲まれて、激しく愛し合ったのであった。



 その夜。


「ありがとうございました!」


 いつもの様にハキハキと挨拶をし、ルアはテレビ局を退出した。


 入り口を出たロータリーには、いつもの様に事務所の人が車で出迎えてくれている。


「いつもありがとうございます」


 ユニは笑顔でお礼を言うと、その車の後部座席に座った。


 このまま事務所の寮に向かうのである。


 ―――私、何であんな事したんだろう。


 頬杖をつき、ルアは一人物思いにふける。夜の街灯が、ルアの顔を明るく照らす。それだけでも十分絵になっていた。


 お芝居の演技としてのキスなら何回もした事がある。


 でもそれは「仕事」だ。プライベートで、しかも大衆がいる面前で、あんなに情熱的なキスをするなんて。


 いつもの自分では考えられなかった。


「『自分』……?『自分』って何だっけ」


 ルアは自分がわからない。


 少なくともルアは、物心ついた時には()()()()


 所謂(いわゆる)性同一性障害というものである。


 幼少期から見た目はよかったので、外面を気にする母親からいつもかわいい服を着させられていた。


 ルアにはそれが苦痛だった。


 医者から「性同一性障害」と診断されてから、より一層束縛は酷くなった。


 元々名も知らぬ男と勝手に結ばれて生まれた子供である。


 ルアの事など所詮自分のアクセサリー程度のものだと思っていたのだろう。


 そんなある時、ルアは初めて母親に反抗した。自分は男だから、かっこいい服を着たい……と。


 アクセサリーに反抗されて激怒した母は、吸っていたタバコをルアのこめかみに……。


「ねえ〇〇!どうして私の言う事が聞けないの!?」


 それが記憶に残る母親の最後の言葉である。


 それから、ルアにもう一つの人格が生まれた。現在の主人格である「母親が理想とする女の子の飯戸留愛」だ。


 髪も伸ばした。こめかみに残った火傷の跡を隠す様に。数年前に事務所からスカウトを受け、実家を出た。


 それ以来、母とは会ってない。今の自分をどう思っているのだろうか。


「飯戸留愛」という名前も、「ルア」という芸名も、全て事務所がつけてくれた名前である。本当の名前は覚えていない。


「アイドル」のアナグラムだと聞かされた瞬間にわかった。


 ずいぶんなネーミングだが、少なくとも前の名前よりはマシだという事はわかった。


「アイドル」とは、ファン、事務所、テレビ、自分に関わる人達全員の理想を叶える仕事。


 その「理想」を「ウソで塗り固めて」「演じる」仕事。


 ずっと母親の理想を叶え続けていた彼女にとって、まさに「天職」だったのである。


 昨日初めて学校に来た時、一際輝く自分と同じ「ウソつき」を見つけた。


 名前を「()(くす)()()」。


 生まれて初めてビビッと来た人物である。


 経験上、ルアは相手のウソを見抜く事ができる。彼女なりの処世術である。


 ユニに興味を持ったルアは、二日かけて彼女を観察した。

 ユニは、多くの友達に囲まれていた。心の底から笑っていた。


 自分とユニは同じなのに、自分は心の底から笑えていない。ユニと自分と、一体どこが違うのか。


 確かめてみるしかなかった。


 ルアは運転手に、寮ではなく会社へ行ってほしいと頼んだ。



 翌日。その日は土曜で学校は休みである。


 早朝、ユニの家にチャイムが鳴り響く。


「はい、どなたですか?」


 ユニは寝ぼけ眼を擦って応対したが、その姿を見て一気に眠気が覚めた。


 つばの広い帽子に大きなスーツケースにサングラス。


 軽く変装していてもすぐにわかった。


「おはよう!今日から私も……一緒に住まわせて貰えないかな?」


 突如現れた現役トップアイドルに、ユニはただ茫然とするしかなかった。



 悪魔との契約条項 第二十三条

悪魔には、「ウソつき」に惹かれる性質がある。

読んで下さりありがとうございます。

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