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契約その21 悪魔だってarbeitがしたい!

 ルーシーは、自分の財布と睨めっこしていた。


 金がないのである。


 まあ色々買い食いやファッションに、金を使いすぎたからである。


 財布と睨めっこした所で金が増えるわけでもなし、仕方がないのでユニに相談してみる事にした。


「金がない?」


 ユニはパソコンに向かったまま言った。


「そうなんだ。最近出費が多くて多くて。何とかならないかな」


「何とかってそりゃアルバイトしかないだろ」


「アルバイト?」


 ルーシーは小首を傾げた。


「そう。幸いウチにはアルバイターがいるからおすすめのバイトを教えて貰えばいい」



 ルーシーは、アドバイスを貰った通りにアキにおすすめのアルバイトを聞く事にした。


「へーおすすめのアルバイト?」


 なぜかアキは腰に変身ベルトを巻いていた。


「そうなんだ。長期でやるのはまだ避けたいから、短期のアルバイトがしたい」


「そうか。だったら……」


 アキは裏にΦの字が描かれたスマホを取り出すと、画面に求人広告を映し出した。


「六月が繁忙期になる所は多いから、この時期は基本的にどこの企業もバイトを雇う。特におすすめなのがここだ」


 ルーシーはアキのスマホ画面を覗き込んだ。


 画面には「甘味処たちばなし バイト募集中」と書かれていた。


「割と緩い感じだし、たまに来るお客さんも常連さんばかりで雰囲気も暖かい。簡単な接客ができれば特に苦労もないんじゃないかな」


 やはり「凄まじきバイト戦士」と呼ばれた女はダテじゃない。


 明日早速仕事があるというので、行ってみる事にした。


「甘味処たちばなし」は、徐氏堂市の閑静な住宅街の一角にある和菓子専門のカフェの様なものである。


 割とすぐに採用されたルーシーは、制服に身を包んだ。


「へーかわいいじゃん」


 制服は和服と洋服を合体させた様なデザインで、所々にリボンがあしらわれている。


「制服のかわいさで女子人気を集めようとしてるんだ」


 そうアキは解説した。


 とりあえず今は接客をしていればいいとの事なので、早速店内に行く事にした。


「まあ平日だし、そんなに人はいないと思うけど」


 アキは言った。


「そうだよな。初日からそんなに人がいても困るし……」


 しかし店内は足の踏み場もない程混んでおり、外にまで列が並ぶ有様だった。


「何で!?」


 この状況にルーシーは驚愕した。


「そうだ、もしかしたら……」


 アキは、昨日店に来たアゲハが撮った写真が大いにバズった事、それに加えてテレビの取材もあった事を話した。


「全然緩くねェじゃんこの状況っ!」


 ルーシーは呆れる。


 アキは言う。


「とにかくこの数を捌いていかないと……」


 それからは大変だった。客の注文を聞き、厨房に行き、料理を運び、その足でまた客の注文を聞く。


そうした事が閉店まで続き、閉店した後は、さすがの悪魔なルーシーもその場にへたり込んでしまった。


 現在のルーシーは人間の体を受肉しているので、普通に疲れるのである。


「ちょっと……もう……初日から飛ばしすぎだろ……」


 ルーシーは息を切らしながら愚痴った。


「ごめん。この盛況ぶりはさすがに想定外だった」


 アキはルーシーに頭を下げた。


「いやいいんだ、気にするな。それよりバイト代は……」


「今日は度を越して忙しかったから上乗せされるらしい」


 汗だくのアキが水を飲みつつ言った。


「ホントか。それが救いだ。よかった」


 ルーシーは、へたり込んだそのままの体勢で笑顔になって答えた。



 さすがに一週間も経てば落ち着いてきた。


 ルーシーは、そのタイミングで厨房にも入る様に言われた。


そもそもこの店は、厨房スタッフと接客スタッフは兼業になっている。


さすがに初日の様に極端に忙しい時は厨房と接客で分けられる。


だが、そうでもない限りは基本的に自分で作った料理を自分で客の元へ持っていくのだ。


「つまりおれに料理を作れって事か」


 正直ルーシーは料理には自信がなかった。以前試しに作った時に、料理を爆発させて由理に怒られた事があったのである。


「何事も起きなけりゃいいけど……」


 ルーシーはそう祈りつつ料理を始めた。アキも隣で待機する。


 作るのはあんこの和菓子である。


「えーっとまずは……」


 最初こそちゃんとしていたが、だんだんと間違っていった。

「あとは火をかけて……」


 しかし、これがいけなかった。突然鍋が小刻みに揺れたかと思うと、厨房全体を覆い尽くす程の大爆発が起きたのだった。


「ほえ〜!?」


「ぎゃあァ〜!」


 厨房は黒煙に包まれ、全体を黒く塗りつぶす。


 ようやく煙が晴れた時には、黒焦げになった二人が座っていた。全身からまだ煙が出ていた。


制服はボロボロに破れ、髪型も所々から枝毛が飛び出す爆発アフロになっていた。


 煤が舞い落ちる厨房の中で、二人は仲良く口からぶはっと煙を吐き出した。


 騒ぎを聞きつけた店長は、厨房の有様に当たり前だが激怒し、二人(特にルーシー)に現状回復を命じたのだった。


 なお、現状回復は、ルーシーが悪魔の力を使う事で何とかなった。



「それでルーシー、バイトをクビになったのか」


 ユニはアキから事の顛末を聞いていた。


「そうなんだ。幸い私は巻き込まれただけだって許されたけど、ルーシーはかなり落ち込んでた」


「まあそりゃあなあ……」


 ルーシーが料理をするという時点で止めるべきだったと二人は後悔した。


 そんなルーシーが、リビングに駆け込んできた。


「アキ、今度は料理が関わらないバイト先を教えてくれ」


「わ……わかった。じゃあ……」


 ルーシーとアキは、自室へと引き上げていった。


「大丈夫かな」


 ユニは心配になってきたのだった。



「今度はここか。『シロウマ宅配便』」


「シロウマ宅配便」とは、全国に展開する宅配会社である。ここの営業所は徐氏堂市全域が担当らしい。


「私達はまだ運転免許を持ってないから配達先によって荷物を仕分けるのが仕事だ」


 アキが説明する。


 ここなら大丈夫だろうとルーシーは思った。


「ただ少し問題があって……」


 アキは申し訳なさそうに言った。


「問題?」


「ああ。朝がめちゃくちゃ早くて午前五時に()()()()だ」


「早っ!」


 ルーシーは驚く。


「でもその分給料はいいのが利点だ。どうする?」


 ルーシーは決意する。


「わかった。やるよ。早起きができればいいんだろ?」


「……じゃあ私からあなたを紹介するから……」


 それからのルーシーは、毎週土曜日にバイトをしに行く生活に入った。


業務自体は単純なもので、ルーシーの得意分野である力仕事を存分に生かす事ができたのだった。


懸案の早起きも慣れれば苦ではないらしい。



「結局これが天職だったわけか」


 ルーシーの活躍ぶりを知って、ユニはしみじみと言った。


「そうなんだ。それにあの明るさだろ?キビキビ働いてるし、今じゃ職場のおじさん達のアイドルらしい」


「それはよかった」


 ユニはもはや親目線だった。


 天職を見つけたルーシーは、今日もまた働きに出ようと家を飛び出すのだった。


「でも、土曜日は遊びに行きたいなあ」


 そんな一抹の不満を抱えながら。


 悪魔との契約条項 第二十一条

悪魔が人間界で暮らすには、予め人間の肉体を受肉しなければならない。

読んで下さりありがとうございます。

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