契約その202 Singularityへの到達!
デートの様子を見ていた紫音達。紫音は、自分がエリーに課したある「ルール」について話した。
「わしがエリーに課したルールというのは、『決して人間に危害を加えてはならない』という事じゃ」
「APES」は、人間をデータ化して支配した上で平和を成し遂げるという形で明確に人間に危害を加えようとしていた。
その失敗を踏まえて、紫音はそのルールを設定したのである。
「果たしてこれがどう転ぶのか……」
紫音はユニ達を見守りながら呟くのであった。
一方、ユニとエリーは注文したケーキに舌鼓を打っていた。
「んー♡おいしい!キミはどう思う?」
「はい。おいしいと思います」
ユニはよくエリーに話しかける。返されるのはだいたい淡白な反応だが。
「まあ、長期的にやっていければいいよ」
その様子を見ていた紫音が言う。
しかし、悪い事は起こるものである。
突然、喫茶店のドアが強く開け放たれた。
すると、金色に染められた髪を逆立てた男達が入ってくる。バリバリの黒いジャケットに身を包み、明らかに素行がよくなさそうだ。
男達は、ユニ達のすぐ隣のボックス席にどっかりと座ると、そのままぺちゃくちゃとお喋りを始めるのであった。
周りの迷惑を考えていない行為である。
この町では割とある事なので、ユニは気にせずスイーツに舌鼓を打っていた。
すると不意に男達のうちの一人、小太りな男がユニ達に話しかけてきた。
「なあキミ達さあ……この後予定ある?おれ達一緒に遊びたいんだあ……」
ナンパである。もはやこの流れはお約束と言えよう。
「このパフェもおいしいよ。食べてみてよ」
「わかりました」
こういう状況にも関わらず、二人はその男を無視してデートを楽しんでいた。
「おい!聞いてんのか!」
男が詰め寄ると、ユニはようやく男の方に向かって言った。
「周りに迷惑だよ。お兄さん達。それでよくナンパできると思ったな」
「……!」
絶句する男。周囲は状況を察したのかザワザワし出したが、所々から失笑が漏れている。
ユニはパフェを全部食べるとエリーにこう言う。
「さて、行こうか。これ以上寝言に付き合っているヒマはないからな」
それを聞いた周囲の失笑がさらに大きくなった様に思える。
そして二人は席を立ち、会計を終えると、店の外に出るのであった。
「これからどうしようか」
エリーに聞くユニ。
「食事を取ったので、少し運動をした方がいいという結果が出ました。しばらく散歩した方がよろしいかと」
若干だが声色が明るくなった様に思える。それを見ていた紫音は、「シンギュラリティ」も近いという確信を得た。
「じゃあ遠回りしてショッピングモールに行こうか。運動になる」
ユニの提案で散歩ついでにショッピングをする事になった。
それから、ユニ達は路地裏へ入っていく。遠回りするならこの道らしい。
この道は昼間でも結構暗い。通る人もあまりいない道である。
そんな道を通るユニ達に、襲いかかる男達。
ユニは自分に襲いかかる男一人を裏拳で殴り飛ばして撃退した。
「動くな!」
残る二人も倒そうとしたユニに、先程の小太りの男が叫ぶ。
「こいつがどうなってもいいのか?」
エリーを人質にされては、ユニはどうする事もできなかった。
「わたくしには構わないでください。人間とは違ってわたくしは壊れても直せますから」
「お前は黙っていろ!」
男はそう言うと、エリーの顔面を殴りつけた。
その衝撃でエリーのカメラとスピーカーが壊れ、紫音達へ情報が届かなくなってしまった。
「これヤバいんじゃないか!?」
ルーシーが言う。
「カメラとスピーカーが壊れてはこっちへ情報が届かんな……!」
紫音も焦る。
だが、直前の映像からユニ達がどこにいるかの見当はつく。
「加勢に行ってくる!10分もあれば着くぞ!」
ルーシーは家を飛び出していくのだった。
その頃、男達に因縁をつけられているユニ達。
「お前のせいで……おれ達は恥かいたワケよ……。なあわかるか!?」
そう言いながら、ユニにぐいっと顔を近づける小太りの男。
「あんな所でナンパするお前らが悪い」
毅然と言い放つユニ。それに激昂した男は、ユニの顔面を殴りつけるのであった。
「立場を弁えろよお前ェ!こっちには人質がいるんだぜ?なあ!」
そして男はユニの腹を殴りつけた。エリーを人質に取られたユニは、抵抗できずにこれを甘んじて受けるのであった。
「まったく……こんなガキにナメられちゃあ……仲間内にバカにされちまう……」
「そのガキをナンパするのはいいのかよ……」
そう言うユニに、男はユニの頬を殴り飛ばした。
そんな状況にも関わらず、ユニはエリーに口パクでこう伝える。
(に……げ……ろ……)
ユニがあえて男を怒らせる言動をしていたのは、男達の注意を自分に集中させてエリーを逃す為であった。
どんな形であれ、この異変は紫音達には伝わっている。
そう確信しているユニは、援護も来るはずだと思い、そこまで耐えれば勝ちだと考えていたのである。
現にユニの推測は全て合っていた。もう10分もしない内にルーシーが来るはずである。
(き……み……の……や……る……べ……き……こ……と……を……や……れ……)
ユニは再び、エリーにそう口パクで伝えた。
(わたくしのやるべき事……?)
こんな時、何をやるべきか。
それはエリーのマニュアルにはなかったものだった。
その時である。
ドクン……!
エリーは、ありもしない自分の心臓が鼓動したかの様な感覚に襲われた。
(これは一体……!?)
ドクン……!ドクン……!
「なあオイ!どう落とし前つけてくれんだ!」
男が再びユニを殴りつける。
「や……め……」
その時、エリーが何かを言う。
「……?」
それに気づくユニと男達。
「やめて下さい!」
その時、エリーの目から何かが零れ落ちる。
涙だった。
「……!」
ロボットであるはずのエリーが涙を流した事に、衝撃を受けるユニ。
「泣いて解決するなら苦労はねェよなァ……」
衝撃的な事が起こっている事を知らない男が言う。
「わたくしのやるべき事……それは……」
その時である。
ドカァン!という鋭い音がしたかと思うと、ついさっきまでエリーを人質に取っていた男の体が宙に浮き、そのまま地面に叩きつけられた。
エリーの鋭い蹴り上げがヒットしたのである。
「すみませんマスター」
「ルール」を破った事に、エリーは謝罪した。
「何……!?」
男はそのわけのわからない状況に驚き、慌てて襲いかかるも、エリーの回し蹴りを喰らって倒れた。
「ユニさん!」
エリーはユニに駆け寄る。そのタイミングでルーシーも到着し、二人で何とか家まで運んだのであった。
―――数日後。エリーは、慣れた手つきでユニの絆創膏を貼り直していた。
「いくら何でも無茶しすぎです。自ら囮になるなんて」
呆れた様に言うエリー。
「うん。肝に銘じておくよ」
本当に反省したのか。エリーは心配になった。
「でも……ありがとうございます。お陰で助かりました」
それを聞いたユニはホッとする。
絆創膏を貼り終わると、エリーはユニの唇目掛けて……。
キスをした。
「……!?」
それは心地いいものだった。キスの仕方にはちゃんとマニュアルがあるのだ。
「ふふ。これはお礼です」
エリーは、人間と遜色ない笑顔を見せるのであった。
悪魔との契約条項 第二百二条
「シンギュラリティ」へ至った人工知能は、人間らしい感情を得る事ができる。
読んで下さりありがとうございます。
いいね、感想などをよろしくお願い致します。