契約その199 Golden weekは何をする?(後編)
みんなが各々自由な時間を過ごす中、七海とアキはランニングをしていた。
「ハッハッ……中々の身体能力だね」
小刻みに呼吸をしながら七海がアキに言う。
「当然だ。私はヒーローになるからな」
「ヒーロー?それってお話の中だけの存在じゃないの?」
一旦走るのをやめ、七海は首を傾げてアキに聞く。
さすがにアキも、物語と現実の区別はついている。だからアキが目指しているのは……。
「私がなりたいのは、スーツアクターさ」
スーツアクターとは、着ぐるみの中に入って演技をする俳優の事である。特撮ヒーローものも例外ではない。
確かにそれなら、「ヒーローになった」と言えるかも知れない。
「まず卓越した身体能力が大事だ。スーツ着た状態で跳んだり跳ねたりするんだ。並の身体能力じゃ務まらない」
だからアキのランニングに参加したのである。
「高校卒業したら体育学校に入ろうと思ってて。そこでチャンスを見つける」
アキの目からは並々ならぬやる気と気迫が感じられた。
そんな目に感銘を受けた七海は言う。
「わかった!応援するよ!トレーニングのメニューもね!」
まずは日課のランニングからと、二人は駆け出して行くのであった。
一方その頃、自室でスマホをいじっているヒナの所に、モミがやってきた。
「どうしたの?なんか用?」
モミは何も言わず、がばっとヒナに飛びかかる。
そして流れる様な手つきでヒナの胸を鷲掴みにする。
「わっ……きゃっ……一体何を!?」
スマホを取り落としながら悶えるヒナだったが、モミはただ粛々とヒナの胸を揉んでいた。
「ふーむ……『ある』にはあるの、『ない』にはないのよさがありますが……『普通』もまた捨てがたいものですね……」
そう言いつつも、指の運動は止めないモミ。
「わっ……あっひゃ……もっちょっやめて……アハハ……」
恥ずかしさもあるが、それよりもくすぐったさが勝ち、ヒナは声にならない笑い声を上げていた。
「ちょっもっ……ホントに……あひっ……あはっ……」
しばらくして、ようやく胸から手を離すモミ。
「もう!こういう事する時は事前に言っとけって何回も……」
乳揉みは許可制になっているのだ。
「ごめんなさい。ただ今がチャンスだと思いまして」
「チャンス?」
思わずヒナは聞き返した。
「ええ。何を隠そう、ヒナさん。あなたでようやく瀬楠家の乳揉みコンプリートなのです!」
わーパチパチと拍手するモミ。
ヒナはわけがわからなかった。
「えっとつまり……」
状況を整理しようと脳をフル回転させるヒナ。
「つまりですね、ユニさんから風月さんまで、モミ自身も含めた十八人全員をコンプリートしたのです!」
「ああ。全員一回は乳揉みをしたって事ね」
ヒナは納得した。
モミが乳を揉むと、「マッサージ」やお手伝いで対価を払う事になっている。
「はわぁ〜♡」
あまりのマッサージの気持ちよさに腰砕けになるヒナ。的確に欲しい所を突いてくる。
ヒナの天国の様な時間は30分に渡って続いたのだった。
その頃、みすかは萌絵と一緒にみすかの部屋で駄弁っていた。
「やっぱり今期のアニメでおすすめなのは……」
「やっぱりカッコよくて……」
ショッキングピンクで固められた部屋には似つかわしくないバリバリのオタクトークである。
みすかにもオタクな一面がある様だ。
「えーそんな面白くないですよそれ」
そう言いながら、パーティ開けしたポテチを摘むみすか。
こんな時間が、何よりも楽しい事を、二人は理解していた。
その一方では、風月が一人で把羅神社を訪れていた。
「あれ?珍しい。どうしたの?」
境内で掃き掃除をしていたミズキが話しかけてくる。
「由理さんに頼まれた買い物から帰る所で、近くまで来たので寄りました」
風月はそう言うと、神社の社を見上げながらミズキに聞いた。
「大正から変わりましたか?社」
把羅神社は大正時代にはとうに存在していた。しかし風月は、当時見た建物とは違和感を感じていたのである。
「うん。大正時代には関東大震災で崩壊して、そして戦時中に焼夷弾撒かれて焼け落ちたの。今の社は戦後に再建されたんだ」
ミズキが解説する。つまり大正時代から現在までで二回立て直しているのである。風月が違和感を感じるのも無理はない。
「そうだったんですか……」
風月はそう呟くと、お参りしてもいいかとミズキに聞いた。ミズキとしては断る理由がない。
風月は自分の財布から5円取り出すと、手を合わせてお参りをするのであった。
そして丁井先生とどれみは、東京にある会場へプロレス観戦に訪れていた。
「とにかく面白いんだ。見てみてよ」
そんな丁井先生の熱心な誘いに乗った形である。
二人の席はリングに比較的近い場所にあった。
お互いのプロレスラーが相手を煽る様なパフォーマンスを行い、会場はヒートアップしていた。
「こういうのもプロレスの醍醐味だ。熱気が伝わるだろう」
確かにそれはどれみにも伝わった。
パフォーマンスが終わり、いよいよ試合が始まる。
ラリアットやドロップキックなどドハデな技の応酬が始まる。
最初は慣れずに技が決まる度に手で顔を覆い隠していたどれみだったが、だんだんと面白くなってきた。
「面白いですねプロレスって!」
全ての試合が終わり、会場を後にする時にどれみは興奮しながら言った。
また連れてきてくださいと頼むどれみに、また一人ファンが増えたと内心ほくそ笑む丁井先生なのだった。
―――ゴールデンウィーク最終日。各々が充実した休みを過ごす事ができたらしく、みんなはニコニコだった。
そんな中、どれみがある事を言う。
「みんな、まだ確証はないのだが、ユニに新しい彼女ができるぞ」
「!!?」
特に風月はギョッとする。
「え?おれ聞いてないけど」
ユニ本人もだいぶ困惑している様だ。
「そりゃそうじゃろう。だってわしが作った恋人になる前提のロボットなんじゃから」
あとはもう最終調整をするだけらしい。
とはいえあまりに唐突な告知に、ユニやその彼女達は困惑するのであった。
悪魔との契約条項 第は199条
休日を楽しめるかどうかは、その人次第である。
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