契約その196 どれみのuniversity entrance exam!
二月も下旬になり、大学受験のシーズンになった。
どれみの刀大受験も、いよいよラストスパートに入ってくる。
この時期になると、ますますどれみの姿を見なくなっていた。
由理曰く、部屋の前に食べ物を置くと、いつの間にかなくなっているらしい。少なくとも飲食はしている様だ。
「でも少し心配だな。体調を崩しそうだ」
そう思ったユニは、どれみの部屋の前に行く。
まずは「コンコン」と軽くドアをノックする。
「入ってますか?」
まるでトイレの中の人に話しかける様な感じで、ユニは言う。
しかし返事はない。
「トントン」
次は少し強く叩いてみる。しかし、また返事はない。
「ダンダン!」
心配になってきたユニは、今度は強く叩いた。
仮に寝ていたとしても飛び起きそうな音である。
いよいよ切羽詰まったユニは、ドアノブをガチャガチャ動かす。
しかしドアには鍵が閉まっており、外から開ける事はできない。
仕方がない。
「本当はこんな事やりたくないけど……」
ユニはそう独白しながらも、勢いをつけて体当たりしてドアをぶち破った。
こうして部屋に入ったユニは、真っ先に机の上に突っ伏していたどれみを発見する。
「どれみ!」
ユニは必死に体を揺さ振るが、返事がない。
「一体何の騒ぎ!?」
騒ぎを聞きつけた彼女達が部屋までやってきた。
「よかった!どれみを下まで運ぶぞ!」
ユニに促され、みんなは協力してどれみの体を一階のリビングまで運ぶのであった。
「私はまだ医者じゃないから何とも言えませんが……おそらく勉強のし過ぎでしょうね」
医者志望の風月が言う。
みんなはどれみを予備の布団に寝かせ、額に濡れタオルを置いてやった。
「幸い命に別状はありませんから、このままゆっくり休めばよくなると思います」
しかし、目を覚ましたら一度正式に医者の診断を受けた方がいいと風月はつけ加えた。
それからどれみは、丸一日寝込んでいたのだった。
そして翌朝、どれみはいきなりガバッと起きてこう叫ぶ。
「日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ!」
寝ててもなお勉強していたのか、開口一番で主要七カ国(G7)の国名を叫ぶどれみ。
枕元で寝ていたユニは、それに驚いて慌てて飛び起きた。
「わわっ!まだ寝てなきゃダメだよ!」
ユニが制止する。
「では寝ながら勉強しますわ!」
「そういう事じゃなくて!安静にしてなきゃって話だよ!」
素っ頓狂な事を言うどれみを、ユニはそう言いながら抑えると、どれみを強く抱きしめる。
落ち着かせるにはこれが一番だと考えたのである。
「大丈夫だって!共通テストA判定だったんだろ?」
一月、ユニはどれみがA判定を貰えた事を誇らしげに語っていた事を思い出していた。
「それでも落ちる時は落ちますから!」
「そんなの当日までわからないだろ……!未来より今!今のキミが心配なんだ!」
「!!」
真剣な表情をして語るユニに、どれみは気づかされる。
「それにほら、よく言うだろ。『受験は団体戦』って。戦うのは一人だけでも、そこに至るまでの道中は一人じゃないんだ」
ユニは少し声のトーンを落として言う。
「だから……月並みな言葉だけど……『キミは一人じゃない』」
その言葉に、どれみは救われたのだった。
数日後。回復したどれみと一緒に、ユニは把羅神社を訪れた。
「あ、いらっしゃい」
巫女服姿のミズキが二人を出迎えた。
「今日はどんな用事で来たの?」
箒を持ったミズキが聞く。
「どれみの為に合格祈願のお守りを買おうと思って」
売ってるかな?とユニは聞いた。
「うん。あるよ。ウチは健康、恋愛、開運、商売繁盛……色んなお守りを売ってるから。マルチなんだ」
ミズキはそう言うと、二人をお守り売り場に案内した。
バイトらしき巫女さんがパイプ椅子に座っていた。よく見てみると、足元にヒーターがあるのがわかる。
「合格祈願のやつはこれね」
ミズキは、たくさんのお守りの中から「合格祈願」と書かれたお守りを取り出すと、どれみに渡した。
「プレゼントだからおれが払うよ」
ユニは自らの奢りでそのお守りを購入した。
「ありがとうございます!」
どれみはそう言うと、そのお守りを強く握りしめた。
「でもいいか?それはあくまで『願掛け』だ。お守りだけで合格できれば世話はない。自分の実力を示すんだ!」
ユニの熱いアドバイスに、どれみは強く頷いたのだった。
数日後。いよいよ受験の日になった。
どれみは、実家からわざわざ地味目の軽自動車をチャーターすると、それで会場まで足を運んだ。
今までの努力の成果を出し切る時である。
どれみは一心不乱に回答用紙に向かうのであった。
結果発表はその一週間後である。
合否関係なく、学校から封筒が届き、結果が知らされる。
みんなが固唾を飲んで見守る中、どれみは慎重に封を切り、中に入っている紙を取り出す。
広げた紙に書かれていたのは果たして……。
紙に書かれた内容を確認したどれみは、ガクガクと小刻みに揺れた。
それが嬉しさによるものか、あるいは悲しさによるものか、その時のユニ達にはわからなかったが、程なくしてわかる事になる。
「受かりました……」
どれみはそう言うと、紙をみんなに見せる。紙には確かにどれみの名前と共に、その下に大きく「合格」と書かれていた。
「やったー!」
大喜びするユニ達。刀大は瀬楠家から普通に通える距離にあるので、来年度から家を出るという事もない。
みんなが喜ぶ中、どれみはユニの唇にそっとキスをした。
赤面するユニに、どれみは笑顔でこう言うのだった。
「お守り分のお礼ですわ!」
悪魔との契約条項 第百九十六条
最初から神頼みをする者に、運命は味方しない。
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