契約その191 Idolへの魔の手!
「どうしたの?」
ユニは、ルアがどこかそわそわしているのに気づいた。
「いや……何かね……」
ここ最近、ルアは何者かに尾行されている様な違和感を感じていた。
芸能人という立場と、元々の用心深さだろうか。ルアはそういう自分を「撮ってやろう」という周囲の気配に敏感なのだ。
「何事もなければいいけど……」
しかし、そんなルアの願いは脆く崩れ去ったのだった。
翌日、登校してきたルアとユニは絶句した。
―――トップアイドル「ルア」に熱愛発覚!?―――
―――お相手はまさかの女の子!?―――
これはその翌日の掲示板に貼られた校内新聞で出てきた見出しである。
「ついに……バレたのか……!」
ユニは彼女達に迷惑がかからぬ様に、付き合っている事は基本的に秘密にしている。
だからデートの時も細心の注意を払い、登下校もあえて時間をズラすなどの対策をしてきたのだが、どうやらそれを超えてきたらしい。
「こんな……こんな新聞……!」
ユニが貼られた新聞を剥がそうとした手を止める人物がいた。
「ダメですよ〜そんな事しちゃァ〜」
カメラを首から下げながら、目を細めた七三出っ歯の男が話しかけてきた。
「その新聞は学校側の許可を貰って掲示してるんです。剥がそうとするのはいただけませんねェ〜」
そうやって話しかけてきたのは、報道部の昼川である。
以前、アキのスキャンダルを正鹿の依頼で書き、ルーシーと契約して情報を洗いざらい吐かされた。
以降はルーシーに記憶を消されて事なきを得たはずだが、何らかの方法で記憶が戻ったのだろうか。
しかしよりにもよってルアを標的にするとは……。
ユニは怒りを押し殺し、昼川に聞いた。
「何のマネだ……!一体何でこんな事をした!」
「何でってそりゃあ……復讐の為ですよ。あんな形で潰された、報道の自由のね……」
昼川はヘラヘラしながら語り出す。
「校内新聞なんぞまだまだ序の口。この後週刊誌にこの情報をタレこめば……」
「!」
それを聞いたユニは、昼川の顔面を思い切り掴む。
「な……あぐ……」
言葉にならないうめき声を上げる昼川。
「聞くが……『お前の命』と『報道の自由』、一体どっちが大事だ?前者なら『一』、後者なら『二』を指で示せ」
昼川の顔面を掴む握力がさらに強くなる。
「さあ……選べ!」
「やめてユニ!」
叫んだのはルアであった。それを聞いて、ユニは昼川の顔面から手を離す。
「それだけはやめて。お願いだから」
ルアの言葉に、ユニはようやく怒りを落ち着かせた。
「ごめんなさい」
謝罪するユニに、ルアは無言で抱きついた。
まるで昼川に見せつけている様である。
そしてルアは、昼川に向かって言う。
「あなたが報じた通り、私達は愛し合ってる。でも、それが何だって言うの?女の子を好きになっちゃダメって言うの?」
いつの間にか新聞を見に集まっていた周囲の注目を集めていたユニ達。怪訝そうな目は昼川に向けられていた。
そもそもルアは人気アイドルである。気立ても器量もいいルアに、ほとんどアンチは存在していなかった。
そして報道部はその強引な取材の仕方のせいで多くの学生から嫌われている。
この状況はユニ達にとって有利に働いた。
「確かに……おれ達がとやかく言う事じゃないかもな……」
「別に『ルア』の自由だしね……」
そう言いながら解散していく野次馬達。
それと入れ替えに生徒会がやってきた。
先頭はアキである。
「また報道部か。キミ達には多くの学生から苦情が来ている。処分はおいおい話すから生徒会室へ来る様に」
アキが淡々と業務をこなし、場を収めたのだった。
「助かったよ。ありがとう」
お礼を言うユニ。
そんなユニに、アキは耳打ちをする。
「生徒会長としてやる事はやるが、奴には注意しておいた方がいい」
アキの忠告に、ユニは強く頷くのであった。
後日の放課後、生徒会室に呼ばれたユニ達、そして昼川。
集められた理由は、目に余る「報道部」の活動に、生徒会としてもいよいよ「処分」を言い渡す為である。
物々しい雰囲気が、生徒会室を包み込んでいた。
全員が集まった事を確認し、義屋がこう宣言する。
「これより、『報道部』に対する処分を言い渡す」
ユニ達と報道部は息を呑み、判決を待つ。
「『報道部』、特に部長『昼川蜜彦』は『報道の自由』にかこつけて、多くの生徒のプライバシーを侵害している」
淡々と進める副会長の義屋。彼も彼でちゃんと自分の役割を遂行できている様だ。
そして昼川と報道部にこんな罰則が課せられた。
「よって報道部は無期限の活動禁止、そして昼川蜜彦は一ヶ月の停学処分とする」
これにてユニ達の完全勝利が決まったのであった。
「たくさんの人に迷惑かけてたんだなアイツら」
正直な感想を漏らすユニ。
「これで引き下がってくれればいいんだけど……」
ルアが呟くが、その希望はまたもや儚く崩れる事になる。
判決後、昼川は自宅で怒りを溜め込んでいた。
「ハアハア……許すかよォ……この屈辱……こっちには頼もしい味方がいるんだ……今に見てろ……」
その翌日の朝。瀬楠家にて。準備を終えたユニ達は、いつもの様に登校しようとしていた。
そんな中、ルーシーが慌ててみんなに言う。
「なあみんな!外を見てみろよ!ヤバイ事になってるぞ!」
「外……?」
ルーシーの様子を変に思い窓の外を見ていると、何と瀬楠家をたくさんの報道陣が囲んでいるではないか。
「うわあああ!」
この状況に、さすがのユニも驚いてひっくり返った。
「何でこんな事になってんだ!?」
状況が飲み込めないユニ達。その裏で、彼女達を追い詰めるある策謀が蠢いていた。
悪魔との契約条項 第百九十一条
悪魔の契約を解除する方法は、少しだけある。
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